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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
私はモブキャラその一の訓練生 西暦3147年6月下旬~7月中旬まで
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防衛戦終了後~~佐久間・各支部視点~

 防衛戦終了から数時間後。佐久間は会議室に月面基地駐在の日本支部の幹部を全員集めた。その中には高城教官の姿も有る。

 集めた理由は『星崎佳永依をテストパイロットにするか否か』で、幹部達の割れた意見を実際の戦闘映像を見て統一する為だ。

 佐久間の指示を受けた日生が備え付けの機器を操作し、壁に埋め込まれていたモニターを起動させる。一拍置いて、モニターに映像が映し出された。

 映し出された映像は先程の防衛戦――星崎佳永依が操縦するガーベラの戦闘映像だった。

 高速戦闘を行う紅色の機体は、国連防衛軍各国の、どの量産機よりも速い。滑らかな動きで敵の攻撃を掻い潜り、接近して斬り捨てる。左肩の陽粒子砲を使用していないが、誰も気にしない。右手に持った剣の切れ味に、全員の視線は釘付けだった。注目されないが、左手のサーベルは防御に使用している。

 撤退行動に移った敵機に追い付き、背後から真っ二つにし、映像はそこで終了となった。

 モニターはブラックアウトして何も映していないが、余韻を感じるように皆モニターに目を向けている。

「…………想像以上、ですね」

「そうだな」

 長い沈黙のあとに幹部の一人が感想を零す。同じ感想を抱いた佐久間も同意する。

「ガーベラに装備させて正解でしたな。速度が切れ味を引き立てている」

「私の独断だがな」

 ガーベラが右手に装備している剣は地球の技術で作られたものでは無い。十日前の戦闘で星崎佳永依が戦利品のように持ち帰った敵機の武装だ。

 手に入れた本人に持たせるのが良いだろうと、佐久間が独断で装備させた。その結果、想像以上の戦果を挙げた。反対した幹部達も文句の付けようが無いのか、黙って何やら考えている。

 幹部の一人が機器を操作した。モニターは操作通りに再度映像を映し出す。

「三十年も格納庫の肥やしだったのに、今の機体と遜色ないって、どうなっているんだ?」

「それにしても、あの『パイロット殺し』と言われたガーベラが、このように動いていると呆れを通り越して感動しますな」

「確かに。バーニアを吹かし加速しただけで失神ものだと言うのに……」

「ガーベラの開発者達が創りたかったのは『兵器では無かった』のかもしれませんね」

「それはそれで困るが、確かにデチューン前提で創られた可能性は否定出来んな」

 実際にガーベラに搭乗した経験の有る幹部達も口々に感想を漏らす。会話に登場した『パイロット殺し』は、ガーベラに搭乗したテストパイロット(十九名)を負傷させた事が由来の異名だ。

 幹部達の過半数がやや興奮気味になって感想を述べ合っている中、一人だけ表情の暗いものがいる。高城教官だ。佐久間と視線が合うと、慌てて表情を取り繕う。

 佐久間はここに来る途中で聞いた『星崎佳永依の検査の結果』を彼に教える事にした。

「高城教官。精密検査は途中で、簡易検査しか終わっていないが、星崎は心身共に問題無いそうだ」

「そ、そうでしたか」

 精神的な疲れは見られるが、心身共に問題は無い。

 その事実を喜ぶべきか迷ったのか、高城教官の表情は硬い。

「問題が無いのなら、このままガーベラのテストパイロットにしますか?」

「それは今後の状況を見ながらだ。正式な決定は、どれ程遅くても九月までに決める」

「九月? 少々遅過ぎませんか?」

「逸るな。飛び級で卒業させるか否かもまだ決めていない。何をするにしろ、処理と手続きに時間が掛かる。それに細かい事を決める必要性も有るからな」

 反対派だった幹部からの疑問に返答し、佐久間は解散させた。

 集めた幹部達は残りの仕事を片付ける為に退室して行く。仕事の途中だったものも数名いたが、ガーベラに関する事だった為強制的に集めた。その事に関して、佐久間は悪いとは思っていない。反対派に『星崎佳永依をガーベラのテストパイロットにするか早々に決める』事を求められていたから。文句は反対派に言えと言う奴だ。

 実を言うと、佐久間も他国から『日本支部籍の赤い機体』について情報の開示を求められ、その対応に追われていた。『日本支部の幹部から今後の運用について意見を聞いてから開示する』と回答して開示を先延ばしにしているが。

 幹部と高城教官が退出した事を確認してから、佐久間は機器を操作してモニターを収納している日生をチラリと見た。

 何事も無かったかのように振舞っているが、その動作はどこかぎこちない。

 佐久間は『やれやれ』と内心で軽くため息を零し、日生にどう言った言葉を掛けるべきか暫し悩んだ。


 ※※※※※※


 二度に渡る防衛戦の成功に月面基地駐在の兵士達は浮き立っていたが、各国の上層部は日本支部に求めた情報の開示数が予想以上に少なく、的外れも良い情報ばかりで頭を抱えていた。

 それでも帰還した兵士一人一人から情報の聞き取りを行い、他国から一歩でもリードしようと考える辺りは『逞しい』と言うべきかもしれない。

 日本支部から開示された情報は四つ。


 ・機体名。

 ・製造年月日。

 ・今まで実戦に投入されなかった理由。

 ・今回投入した理由。


 これだけだ。

 どこの国も『日本支部が全ての情報を開示しない』と思っていたが、開示された情報には『流石にこれは無い』の感想しか出て来ない状況だ。

 しかし、日本支部は各国からの要求には――取り敢えずが付くが――応じたのでこれ以上の文句が言えない。

 一番の問題は『乗りこなせたパイロットが存在しなかった機体』で今回が初の実戦投入だと言われてしまった。更なる情報の開示を求めるのならば、『データを取る為に、乗りこなせるパイロットを派遣してくれ』と日本支部から開示と共に要請の通達を受けている。情報は欲しいがパイロットの派遣だけはしたくない各国は追及を断念した。

 加えて言うのならば、士気が最高潮になっている現状で功労者を貶すような事をしては、兵士達の士気に影響が出かねない。

 そんな中、フランス支部は意外な情報に沸き立っていた。

 


「ポール。本当か?」

「はい。一度だけですが、通信で会話をしました」

 上司から再度確認を受け、フランス支部正規兵であるポール・カロンは肯定を返した。

「あんな機体を乗りこなしているのが女とはね」

「意外だな」

「幼い印象が有ったから、卒業したてかもしれないぞ。見事なフランス語だったしな」

 仲間の感想に自身が感じた事を伝え、ポール本人も推測を告げる。

 訓練生は基本的に、前線には投入されない。各国共通の常識から『大物がいたのか』程度の認識しかされていない。真実は卒業すらしていない中等部の訓練生なのだが、彼らが知る事は無い。

 他国と違い、開示されなかったパイロットに関わる情報が僅かに得られた事で、十日前の戦闘の事など忘れ去られていた。

「ポール。声は覚えているな。一度基地内を歩いて探してくれ」

「分かりました」

 見つかる可能性は非常に低いが、一度会ってみたいと言う思いからポールは了承した。

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