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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
目新しさのない新しい日々 西暦3147年9月
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新学期ならぬ、新生活(?)……ではない

  何時も通りに起きるが、今日は九月一日だ。夏休みは昨日で終わったが、日本支部の都合で未だにツクヨミに残っている。 

 身嗜みを整えてから自分以外の利用者ゼロの食堂で朝食を取る。昨日まで知らなかったが、ここを利用する人間がそもそもいなかったんだよね。

 一人で食べていると、松永大佐もやって来た。朝食を手に正面に座ったので業務連絡が有りそうだ。

 身構えたら、本当に来た。午前中は何時も通りだけど、午後には井上中佐が来る。

「星崎が以前言っていた、パワードスーツを使った訓練がどんなものか知りたいそうだ。申請を受けた支部長が興味を持った事で急遽、実施が決まった」

 松永大佐からの説明を聞く限り、自業自得だった。

「そこまで興味を持つ程の事はやっていませんが……」

「どうやら操縦系統で悩んでいる部下がいるらしく、シミュレーター以外の訓練で良いものが無いか探していたそうだ」

「……そうでしたか」

 部下思いだと感心するところだけど、そこまで役に立つか怪しいんだよなぁ。ここの食堂程度の広さが確保出来れば、訓練可能なのでその点では良いかもね。

 何を言っても中止にはならなさそうなので、諦める事にした。



 午前中は書類仕事に集中した。

 過去の人生で、特に前回の、ルピナス帝国にいた時の電子書類の山(五メートルの書類タワー十本)に比べれば、現在割り振られている量は少ない。十分の一以下だ。比べてはいけないんだろうけど、どれ程大量の仕事を割り振られても驚かなくなった。また、仕事をこなすコツも掴めたので、要領良く進められる。経験は素晴らしい。

 集中してサクサク仕事を進めて終わらせて、時計を見ると十一時前だった。

 松永大佐に仕事の終了報告と提出書類を出す。書類から顔を上げて、自分を見る松永大佐の口元が若干引き攣っている。自分よりも多くの仕事を抱えている人からすると、『先に終わった』と言う報告は、嫌な報告かも知れない。悪い事したなぁ。

 松永大佐に追加の書類の有無を尋ねたが無かった。代わりに、訓練学校で自主訓練として行っていた内容をレポートに纏めるように言われた。実際にやる前に、ある程度こう言う事をやっていたと説明があった方が良いかと、一人納得して引き受けた。けれど十分も掛からずに終わってしまい、再び暇になってしまった。

 やる事が無いので、アゲラタムを置いている演習場に行く許可を取った。一週間程前に支部長から、自分の専用機として一機弄れと言われている事を思い出したのだ。修理品の中から、魔改造出来る装備を探す為だ。

 十二時に食堂で合流する事を条件に許可が下りた。部屋にメモ帳類を取りに戻り、さっそく向かった。

 昼食時間まで残り一時間を切っているので、無人の区画内を走って移動する。走りながら時間配分を計算する。移動時間は往復で約二十分なので、現在時刻から作業時間を計算すると、確保出来るのは三十分程度か。

 到着した演習場で、スマホのアラームをセットしてから、パワードスーツに乗り込み作業を始める。荷物はメモ帳だけなのでポケットに入れた。修理した大量の装備の中から、一種類ずつ広いスペースに運んで並べる。

 長剣砲、長剣、拳銃、銃剣、狙撃用ライフル、脳波で動かす小型の砲台付きの盾。

 パワードスーツから降りて、これら六種類の装備を眺める。

「う~ん。長剣はそのままの装備でも良いから弄る必要は無し。弄るとしたら、長剣砲と銃剣に、ライフルか」

 各装備のエネルギー源は、所持する機体から無線供給されている。有線・無線程度の違いだが、この辺りは地球の機体と同じだ。

 アゲラタムとジユ以外で使用するには、別のエネルギー源が必要となる。その候補は既に在るので、あとで保管区へ取りに行けばいい。

 考えをポケットから取り出したメモ帳に書き出して行く。

 魔法で監視カメラの有無を調べてから、魔法で長剣砲と銃剣とライフルの内部を調べて、設計図をメモ帳に書き写す。魔改造候補から外した長剣と拳銃と盾を元の場所に片付ける。

 長剣砲の鍔周りを調べていたら、アラーム音が鳴り響いた。三十分経過してしまった模様。

 パワードスーツを定位置に戻し、メモ帳をポケットに仕舞い、食堂まで走った。

 全力疾走したお陰で、時間ピッタリに食堂に着いた。中に入ると、無人だった。

 途中で仕事が増えたのかもしれないと、適当な当たりを付けて昼食をトレーに載せて行く。今日は珍しい事に洋食オンリーだった。デザートは無いけど。

 ポタージュスープと数種類のパスタを食べてお代わりし、鶏肉の香草焼きを食べていると松永大佐がやって来た。隊長室で午後の打ち合わせをしていたのか、その後ろには井上中佐もいた。珍しい事に佐々木中佐がおらず、井上中佐一人だ。

 二人とも昼食を乗せたトレーを手にやって来る。松永大佐は自分の正面に、井上中佐は自分の右横に座った。

 そのまま昼食を取りながら午後の打ち合わせが始まった。



 打ち合わせを兼ねた昼食が終わり、食休みを挟んでからアゲラタムを置いている演習場へ移動となった。

 早速、パワードスーツに乗り、自分が訓練学校でどのような事をしていたのか、実際動かして見せる。松永大佐と井上中佐も、見よう見真似で実際に動かす。訓練の一つとして乗った経験は有るから、見ていて危なげなく乗りこなしていた。

 けれども、自分が自主訓練として動かしていた挙動を、実際にやり始めたところで雲行きが怪しくなった。

 ナスタチウムのように重力制御機が搭載されていないからか、遠心力と慣性に振り回された結果、井上中佐が眩暈を起こしてぶっ倒れた。一時中断して、動きの怪しい松永大佐と二人で井上中佐を医務室に運んだ。

 簡易検査の結果、大人組(井上中佐は重度、松永大佐は軽度)は揃って眩暈を起こしていた。

 軍医に『耐G訓練でもやっていたのか』と聞かれたけど、やっていないとしか言えん。パワードスーツでやっていた事を説明するしか出来ない。軍医に呆れられた。

 大人組には眩暈止めの薬が処方され、一時間ベッドで休憩を言い渡された。

 自分は食堂で休憩する事にした。元気な自分が医務室に何時までもいる訳には行かないしね。

 しかし、パワードスーツで直角に移動方向を変える動きを連続して行っただけで、揃ってダウンするとは予想外だ。旋回運動に当たるとは言え、もう少し耐えられると思っていたんだけど。

 この結果じゃ、操縦訓練と称して他の人にやらせるのは厳しいだろうな。

 自分が言うのはアレだけど、この手の訓練は地道にやって体に慣れさせるしかない。パワードスーツを使った訓練なので、やりたがる人間はいないだろうね。でも、操縦訓練の代わりになるものは、シミュレーター以外に無いだろう。訓練候補の一つとして勧めて終わりになりそうだ。

 最終的に決めるのは井上中佐だから、何とも言えん。

「お、星崎。丁度良かった」

 考えを纏めて結論を出していたら佐々木中佐がちょっこりと食堂に顔を出した。現れた佐々木中佐を見ると、『やっぱり現れたか』って感じがする。

「どうしました? 井上中佐は医務室ですよ」

「……何で井上は医務室にいるんだ?」

 怪訝そうな顔をした佐々木中佐に、以前自分が話した、パワードスーツを使った自主訓練を教えて欲しいと井上中佐に頼まれた事を教える。そして、実際にやったが直角方向転進を連続して行ったら眩暈を起こして倒れ、現在医務室で休んでいる事を教える。

「そうだったのか」

「はい。松永大佐も軽度の眩暈を起こしていたので、医務室で一緒に寝ています」

 併せて松永大佐もダウンした事を教えると、佐々木中佐は顔を引き攣らせた。

「松永大佐もダウンしたのか。そんなに激しい訓練なのか?」

「そこまで激しくはないです。単純に、慣性への慣れが無かっただけかと」

「慣性? ……もしかして、重力制御機に頼り過ぎが原因って事なのか?」

「恐らくはそうだと思います」

 簡単にしか言っていないのに、佐々木中佐は正確に理解した。野生の勘は凄いな。

「まぁいい。医務室に行ってみる」

 そう言って、佐々木中佐は食堂から去った。その背中を見送ると、また一人になった。

 このあとの予定がどうなるのか考えながら、甘いコーヒーを淹れた。



 一時間後。

 四人で再び、パワードスーツに乗ってあれこれと操縦をした。現在、二組に分かれて交代で、立方体に近い形の廃材をボールに見立ててキャッチボールをしている。

「佐々木! 遊びじゃないんだぞ!」

「ははは、解っているとも!」

 佐々木中佐が投げる廃材が剛速球と化して、井上中佐に迫る。

 井上中佐は真横に移動して、廃材を横から掻っ攫うように掴んだ。器用だな。

「まったく、もうちょい速度を落とせ!」

「これ以上落とすのは無理だぞ」

「せめて振り被るのを止めろ!」

 今日も井上中佐の突っ込みが冴えている(?)と、暢気に眺める。隣で同じように観戦している松永大佐のスマホからアラーム音が響いた。遊んでいる中佐コンビに松永大佐は終了を告げる。中佐コンビは互いに文句を言い合いながら戻って来た。

「操縦訓練と言うよりも、耐G訓練の色が濃いです」

「重力制御機のありがたみを感じます。整備都合上の無理な動きを知るには丁度良いと思いますが、操縦訓練の代用になるかは少し微妙です」

 戻って来た中佐コンビの感想を聞き、松永大佐は簡単に纏める。

「気軽に出来る耐G訓練と言えば良いのか?」

「それが無難な言い方ですね」

 井上中佐が松永大佐の言葉を肯定する。松永大佐は頷いて、顎の下に手を添える。報告書に書く内容を纏めているのかな?

 このやり取りを最後に検証は終わった。

 やる事が終わり、中佐コンビは去った。なお、佐々木中佐は明後日の演習についての打ち合わせを詰める為に井上中佐を探しにやって来た。これから打ち合わせをするそうだ。


 結果、気軽に出来る『耐G訓練』と判断されて、支部長にもそのように報告された。

 整備都合上の無理な動きを知るには丁度良いので、操縦が荒いパイロット向けの訓練として試験的に採用される事になったが、眩暈を起こして倒れるものが続出した。


 現在十六時半。

 仕事が無い。書類仕事は午前中に終わらせてしまった。

 松永大佐は書類仕事をやっている。やっぱり隊長職の人は仕事量が多いんだね。午前中に纏めたアゲラタム装備品の改修案を詰める為に、もう一度演習場に行こう。松永大佐に許可を求めたら、現時点での詳細な説明を要求された。

 アゲラタムの動力源を装備に移植させる案だと説明し、移植場所を選定している最中だと教える。すると何故か、今日中に改修案の提出を求められた。

 難しい事はしないので、二つ返事で請け負い演習場に向かった。

 十七時半までに、移植場所を決めて隊長室に戻った。メモ帳を見ながら改修案を纏めて、松永大佐に提出した。



 九月三日の午前中。

 仕事を始めた直後に井上中佐が現れた。どうしたのかと思ったが、パワードスーツを使った訓練を部下にさせた結果を知らせに来た。

 耐G訓練のような操縦訓練の結果は、意外と良い方向に転がった。

 操縦を行った際の『機体の負荷を体感出来る訓練』として行った結果、伸び悩みの原因が判明したそうだ。

 何が原因だったか知らないけど『良かったですね』としか言えん。

 話し込む松永大佐と井上中佐から視線を手元に移動させて、今日の仕事をこなす。松永大佐は次の会議用の資料作りの為に、普段よりも仕事が増えている。その分多少は多く引き受けているが、過去の経験のお陰で『多い』と思えないのが悲しい。

 この隊長室ぐらいの広さの部屋で、足の踏み場も無い程の紙書類の山に埋もれた体験――しかも、二十四時間で処理しなくてはならなかった為、魔法を使い時間を確保してどうにか終わらせた――をした身としては、現在割り振られている量は『少ない』と感じる。苦痛にならないから良いんだけどね。

 せっせと書類を捌いていると、顔が微妙に引き攣っている井上中佐がやって来た。

「星崎。量が多いが、今日中に終わるのか?」

「? 午前中に終わりますよ」

 どうしたんだろうと首を傾げて回答すると、井上中佐は仰天した。

「午前中!? さ、流石に、この量は多過ぎじゃないか……」

 挙動不審な井上中佐。どうしたんだろうと思ったが、書類の量を気にした。恐らくだが、入りたての自分に松永大佐の仕事の手伝いが出来ているのか気になったんだろう。心配性だなと言いたいが、言ったら前世の説明をしなくてはならないので我慢する。

「松永大佐の方が重要度が高くて量も多いですよね?」

 自分よりも時間が掛かっている松永大佐の方が大変だろう。そう思ったが、井上中佐の反応は、ぐりんっと、音が聞こえて来そうな勢いで松永大佐に振り返った。松永大佐は瞑目している。書類の案件で考え事をしているのかしら?

「星崎。確認だが、書類処理に一日を費やすとしたら、どれぐらいの量を積む事になるんだ?」

「午前中に割り振られる量の、内容にもよりますが、二十倍か、十五倍ですね」

 実際にそれだけ以上の量をやった経験が有るから、はっきりと断言出来るぞ。回答すると井上中佐の目は死んだ。

「そうか。出来るのなら、言う事は無い」

「? ? ?」

 ちらりと松永大佐に視線を送ってから、井上中佐は去った。

 午後。予定が無くなり暇になったが、個人的なやる事は在る。軍人なら訓練をするんだろうけど、こっちを優先しよう。松永大佐は大林少佐との打ち合わせでいない。鈴村大尉の今後についてらしいが、他人の予定に口を挟む気は無い。権限無いし。

 さて、最近になってごたごたが少なくなり、スマホのモバイルバッテリーを改造して作る計画を漸く実行に移せた。一昨日はど忘れしたのでノーカウント。

 最後の問題は大容量タイプのモバイルバッテリーを持っていなかった(魔力を電気に変換して充電していたので不要だった)事で、急遽購買部に買いに行ったが無かった。ネット通販で売られているものを指定すれば取り寄せてくれるかもしれないが、何に使うのか聞かれそうなので、購買部で販売されている中で最も容量の多いものを選んだ。いざとなったら魔法で元に戻せるので一つだけ購入する。

 千年も経過していれば、モバイルバッテリーは大分小型化していた。掌サイズの直方体でもかなりの容量を誇る。千年以上も前だったら数倍の大きさだ。

 購入したモバイルバッテリーを充電してから解体して、強引に重力石と繋ぐ。これで、使用可能時間が判明する――筈だった。

「十分も持たないってどうよ?」

 使用可能時間、七分三十二秒だった。

 五十万の容量を誇るバッテリーなのに。千年以上前だったらこの大きさで百分の一程度の容量だ――そうじゃなくて。

「どうしよう」

 松永大佐に相談して、更に容量の大きい奴を入手するか。いや、重力石絡みだから、支部長のところにまで行きそうだ。

 開始して早々に躓いてしまい、思わずため息を吐いた。

 せっかく作ったし、まして返品は出来ない。何かに使うだろうと、布に包んで道具入れに仕舞った。

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