残骸を使った修理作業
九時過ぎ。色々と詰めた鞄を手に、保管区に『三人で』やって来た。
「こいつが戦闘用か」
「見た目もかなり変わっている。アゲラタムに比べると装甲が薄そうに見える」
「戦闘用って聞くと、装甲に厚みが有って頑丈だと思っていたんだが、割と細身だな」
「特徴は両肩の砲門と、……腕と足のこの剣か」
「足の剣の配置は、スパイクと同じだな。回転式で動くんだったら、確かに奇襲用だな」
何故か保管区にまで一緒に来た大佐コンビは、修理対象外のジユを観察している。支部長に別件で報告ついでに、初見の感想を教える為らしい。仕事はいいのかしらと思わなくも無いが、佐藤大佐と違って、きちんと調整しているのだろう。そう言う事にしておこう。
そんな大佐コンビを、パワードスーツを操縦する自分は作業の合間に眺める。
パワードスーツは、全長二メートル程度の小型ロボットに近い外見をしている。パワードスーツと言っても、中に座席と操縦桿が有り、戦闘機の操縦に近い感覚で動かす。小型ロボットと言ってもいいのにパワードスーツと呼ばれるのは、シートベルト代わりの固定板で顔だけが露出してしまうからであって、深い意味は無い。
ちなみに、操縦感覚が戦闘時に使用する機体と近いと言ったが、ほぼ同じなので、訓練として動かす事が多い。実際に、訓練学校でも『訓練として』よく動かしていた。パワードスーツを使用した、緊急時の作業も一通り授業で覚える。
自分は高等部の生徒が優先されるシミュレーターよりも、自主訓練でこちらを動かす回数が多かった。訓練生の間では『臨場感が有る』と言う事から、シミュレーターの方が好まれていたので、パワードスーツは大変不人気だった。
自分は過去にロボット系を乗りこなした経験から、シミュレーターよりも操縦桿を動かした時に得る、荷重や慣性に体を慣らす為にパワードスーツを選んでいた。やっぱりシートベルトをしていても、慣性で振り回されるのは体にダメージを蓄積させるようなものなのだ。三年生に進級するまで、徹底的に体を慣性に慣らしていた。
初のシミュレーター訓練時に『実戦でそんな動きは出来ない』と指摘を受けたから、と言うのもある。自分は気にしていないが、フルボッコにした教官と高等部の三年生は気にしたんだろう。
何はともあれ、そのお陰で久し振りに乗るのに、滞り無く作業が行えている。多分、ガーベラに乗っても問題無かったのはこいつのお陰かも。
……海で泳いでいないで、こいつを乗り回していた方が良かったかな。でも今は夏で蒸れる。暇な時の自主訓練用品として、こっちにいる時にでも使いたい。
そんな事を考えながらも、作業は順調に進んだ。
装甲の付け替え作業は、コックピット内の操作盤から操作すれば簡単に行える。
アゲラタムは『戦闘中に装甲のパージ』が何故か出来る。ボタンを押すと装甲がポーンと分離する。戦闘中に行うと一回限りの防御兼目潰しになる。代わりに防御が薄くなる。今はその機能のお陰で、装甲の付け替え作業が楽なんだけどね。元が同じだからか、ジユにも同じ機能が付いている。
次はアゲラタムの操縦席の取り換えだ。なお、ジユの操縦席は座席型だったりする。アゲラタムの操縦席が、座席型じゃないのが本当に不思議だ。オプションパーツに座席型が存在するので、誰かがクレームを入れたのかもしれない。その結果、操縦難易度が変わると言う奇妙な現象が起きたが。
余談はさておき。アゲラタムの胸部装甲の取り外し時に、座席と操縦桿と操作盤の取り外し作業も行っていたので、こちらもスムーズに作業は進む。
やっぱり、一回でも改造経験が有ると、作業がスムーズに進むね。
「星崎、ちょっと、良いか?」
「? 飯島大佐、どうしました?」
松永大佐と一緒にジユを観察して、あーだこーだと、議論を交わしていた飯島大佐が近づいて来た。すぐ後ろに松永大佐もいる。
パワードスーツで抱えていたパーツを床に下ろして対応する。すると、大佐コンビの視線が床に下ろしたパーツに向かった。
「そいつが座席型か?」
「はい。これがそうです」
「これが……」
大佐コンビは興味深そうに操縦桿を見る。
座席の形は戦闘機のものと同じだけど、操縦桿が違うので興味を引いたのだろう。
「操縦桿にボタンが無いな。操作がアゲラタムと同じだからか?」
「そうだとしても、ボタンの一つぐらいは付いていそうだが……」
「それに、この帯? なのか? 先端に穴も開いている」
「どうなるんだか、皆目見当も付かねぇ」
再度、大佐コンビの議論が始まりそうだったので、一声かけてから作業を再開する。
座席を内部にセットしてコードを繋ぐ。新しい胸部装甲を取り付けてから、コックピット内に入る。操作盤経由で幾つかの設定を行う。座席型になると操作盤も変わるけど、定位置は変わらない。設定を終えて、自己修復機能をフル稼働させる。これであとは放置で良い。
「作業はこれで一先ず終了です。あとは自己修復機能による作業が終わるのを待つだけです。ジユの方は夕方まで時間が掛かります」
コックピットから出て、大佐コンビに作業報告を行う。
「便利だな」
「その分待たなくてはなりませんが」
「別作業に手が回せるなら便利で良いんじゃねぇのか」
「……そうですね」
飯島大佐の言葉に頷いてから、スマホで時間を確認する。現在十一時。集中してやっていたからか、二時間も経過していた。
大佐コンビが再び話し合いを始めた。再びハブられたので、欠損していた左足の状態を一度確認しよう。
左足の修理は最初に行った。それは、自己修復機能が起動してから、二時間が経過しているも同然だ。一度、コックピットに入り、左足の修復状態を表示させる。修理が九割程終わっていた。この分だと、十二時を過ぎる頃に完全に直る。午後には動かしても問題無いだろう。
続いてジユの方も確認する。
損傷具合が比較的軽度――と言っても、アゲラタムに比べると酷いが――の機体を選んだからか、修復の進み具合は五割に届くか程度。この修復速度なら、夕方には終わる。武装のチェックも行う。両肩の超電磁砲の砲門に異常表示が出ていた。一度コックピットから出て、砲門の確認を行う。
……砲身が駄目になっていた。これは換えないと駄目だな。
焼きの回った砲身を交換して、そしたら次にどうしようか。普通に他のものと交換すればいいんだけど、荷電粒子砲と交換した方が良いかな?
考えても答えはすぐに出て来ない。午後にパーツを探してから決めよう。
コックピットに戻り、操作盤で砲身を外す操作を行う。これを行わないで外すと、欠損の異常表示が出てしまうのだ。コックピットを出て、パワードスーツを操縦して両肩の砲身を外して床に転がす。三メートル程度なので邪魔にならない。
パワードスーツから降りて、軽く握った拳で砲身を叩くと、少しだけ鈍い音がする。経年劣化か、使用後の整備を怠っていたんだろうな。
「星崎。その砲身を外してどうするんだ?」
スマホのライト機能を頼りに砲身の内部を覗き込んでいたら、声が降って来た。顔を上げると飯島大佐が不思議そうな顔をしている。
「整備を怠ったのか、駄目になっています。異常表示が出ていたので、自己修復は厳しそうです」
「……俺の目にはまだ使えそうに見えるぞ」
「これは超電磁砲の砲身なので、内部が駄目なんだと思います」
飯島大佐の疑問に回答する。見えない箇所の異常だから判り難いのかも。
「れ、レール? え?」
「レールガンの砲身は、もっと長くないと厳しいと聞いていたんだが。戦艦以外に搭載されているものを見るのは初めてだな」
すると、飯島大佐は砲身を二度見し、松永大佐は興味深そうに砲身を見る。
そんな二人を見て思う。
超電磁砲ってそんなに珍しかったっけ?
手製の銃火器に魔法で雷を纏わせて『簡易超電磁砲』として、生身で使用する事は多かった。
なので、松永大佐の言うように『戦艦に搭載するようなものだっけ?』と思ってしまう。ルピナス帝国でも、ロケットランチャーぐらいの大きさの超電磁砲が存在する。やっぱり技術力の差かな?
大佐コンビからあれこれと質問を受けて、それらに回答して行く。
今後どう使うかを見据えての質問が多かった。
「!」
回答中に、スマホのアラームが鳴った。時刻確認の手間省きで、昨日までスマホのアラームをセットしていた。昨日の午後は予定が変わったので切っていたが、午前中の分を切り忘れていた。
「星崎。今の時刻は?」
「十一時半です」
「……結構いたな」
飯島大佐が驚いている。二時間半があっと言う間に過ぎていたから、しょうがないんだけど。
移動時間を考えて、ここで中断となった。