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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
軌道衛星基地にて 西暦3147年8月
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単独作業。後に再びテスト操縦

 翌日からは独りで作業を行う事になった。

 ただし、昨日の夕食時に飯島大佐から提案されたように、『アゲラタムのパーツをナスタチウムやキンレンカに流用出来ないか』と、再び言われそうなので転用出来そうなパーツのメモも忘れずに行う。

 昼食は必ず隊舎の食堂で取った。食事の時間に『業務連絡』が必ず行われるのだ。ツクヨミに来てからずっと、食事中が一番気の抜けない時間となった。



 単身で作業を続ける事、三日目の昼。

 休憩用品などやメモと筆記用具を入れた鞄を横に置き、普段よりも多めの昼食を黙々と食べる。松永大佐はまだ来ていないので一人で食べている。

 少し弄れば互換性のパーツに使えそうなものを幾つか見つけた。互換性の有る操縦席も見つかった。これで操縦席を座席型に変更が可能となった。

 ナスタチウムとキンレンカに流用出来そうなパーツや武装も幾つか見つけた。武装は超電磁砲と荷電粒子砲だけど、少し弄れば使う分には問題無い。

 他には、敵機の殆どがアゲラタムを改造したものであると判明した事と、アゲラタムを基に戦闘用に開発された機体雛型――ジユが幾つか見つかった。

 見つけたジユは起動可能で、修理パーツも有る。可能ならこっちに乗りたい。機体の色が黒一色に変わっていたので、元の色に戻しても良いかも。元の色は深緑色で可動部分周辺が茜色に似た濃い赤色で塗られていた。 

 あとは、アゲラタムとジユの武装に使える装備が見つかれば良いな。午後に探そう。仮に無くても、支部長から許可を取って自分で造ろう。

 ……食べ終わっても松永大佐が来なかったら、隊長室へ報告に行けばいいな。

 お代わりした鶏肉のソテーにサラダ用の梅ドレッシング掛けて食べる。

 ちなみに食べ過ぎでは無い。断じて。身長が伸びない上に、体重が四十キロに達しないのだ。身長百五十センチで体重三十七キロは、流石に問題が有る。お菓子とかも結構作っては食べているのに、体重が増えない。そこまでカロリーを消費している訳でも無いのに、どうして何だろう? でも去年の九月に量った時は、三十四キロにまで落ちたんだよね。そこから頑張って三キロ増やしたが、以降中々増えないどころか、逆に落ちる始末で三十七キロを超えない。入学以降、脂肪も筋肉も増えず、身長は二センチしか伸びない。

 ちょっと食べ過ぎたかな程度の量を食べているのに。

 う~んと唸りながら食べ進めていると、聞き慣れた声が響いた。

「何を唸っている?」

「んぐ、……あ、いや、体重が適正数値に達しないのはどうしてかと、考えていただけです」

 口の中のものを嚥下してから顔を上げると、そこには松永大佐がいた。トレーを持っているから昼食に来たのだろう。

 松永大佐が正面に座ると業務連絡時間となった。体重の話は当然のようにスルーされたよ。女子にとっては鬼門の話題だからスルーしてくれたのかも。

 流用可能なパーツと武装、互換性の有る座席型の操縦席の他に、敵機の殆どがアゲラタムの改造品だった事、最後にアゲラタムの発展系機体ジユなどを発見した事を報告する。ただし、操縦席を変えると機体起動の手順が変わってしまう。ジユは元の色と変わっていた事。この辺りも併せて報告する。

「起動の手順が変わろうが、操縦席が慣れた形になるのならば問題は無いな」

 松永大佐の答えを聞き、心の中でメモを取る。問題が無いなら、早々に取り換えたいな。設定変更は自分にしか出来ないし、やり方を教えるとなると広域語を教える手間が発生する。

 自分の考えを知らない松永大佐は、食事の手を止め口元に手を当てた。

「それにしても、アゲラタムには戦闘を想定した発展系が存在したのか……」

「私も見つかるとは思わなかったです」

「支部長と相談するしかないが……。使用可能な機体は、修理パーツ込みで何機だ?」

「損傷の激しい機体ばかりでしたので三機になります。アゲラタムの修理パーツを回しても四機です」

「少ないが、見つかっただけマシか」

「操縦席は座席型ですが、アゲラタムで一度操縦を完全に覚えた方が良いかもしれません」

「そんなに難しいのか?」

「運動音痴の人には別の意味で難しいかもしれませんね。基本は同じですけど」

「どう言う意味だ?」

「上腕と脛の辺りに実体剣が付いているんです。足の方は振り上げる際に使う感じになるので、完全な奇襲用ですけど」

「……イメージが難しいな」

 でしょうねー。

 考え込みながら食事を進める松永大佐を見て、そんな感想を内心で漏らしながら味噌汁を飲む。

 ……今日の松永大佐からの業務連絡は無しか。

 松永大佐の食事のペースが速いので何となくそんな事を思った。自分も食後にもう一度保管区に向かうので食事を進める。

 ほぼ同時に自分と松永大佐の食事が終わると、何故か呼び止められた。

「星崎。午後にガーベラの稼働データ収集を行う事になった」

「……分かりまし、た?」

 返事はしたけど、今更になって何を行うのか? 

 疑問が顔に出ていたんだろう。松永大佐は丁寧に今日行う事になった経緯を教えてくれた。

「五日前の戦闘で、ガーベラのオーバーホールを行う事は話したが、覚えているな? 私が乗っていたナスタチウムのオーバーホールも同時に行う事になった」

 言っていたね。オーバーホールを行うからデータ収集を暫く中止する事になったんだけど。ただ、ナスタチウムのオーバーホールをやるとは聞いていない。

「この時にガーベラの重力制御機を始めとした機器の入れ替えが決まったが、肝心の重力制御機だけ未使用の在庫が無かった」

 あれ? って事は……。

「そこで、同時にオーバーホールが行われていたナスタチウムの重力制御機を、ガーベラに『一時的に移植する』事になった。アゲラタムの重力制御機の移植には、まだ時間が掛かる。そこで空き時間に、比較対象のデータ収集だけでも行おうと言う流れになった」

「……ああ。そうだったのですか」

 何となく理解した。

 要は重力制御機を入れ替える事で、ガーベラの荷重がどこまで変わるのか見ようって話だ。

「十三時半から始める。それまでに着替えてモニター室に来るように」

「分かりましたが、単身で格納庫方面に向かっても良いのですか?」

 アゲラタムの試験操縦を行う前日辺りに『一人で格納庫に行くな』と、松永大佐に言われた。

「そう言えば、一人で行くなと言ったな。ま、あの敵機はもう無いから解除で良いだろう」

「分かりました」

 許可を取ってから時計を見る。もう十分ちょっとで十三時になる。着替えと移動の時間を考えると、そろそろ向かった方が良いな。

 松永大佐に一言言ってから、鞄を持って一足先に食堂を出た。

 そして、時刻ぴったりにデータ収集は始まった。松永大佐もガーベラに乗るらしく、パイロットスーツを着ていた。それでも先に乗るのは自分だけど。

 いざ操縦を始めて、マジで吃驚した。

「お、おおぅ……」

 重力制御機を入れ替えたガーベラの試験操縦を行い、感嘆とも歓心とも取れない声が思わず漏れてしまった。

 バーニアを全開にしても、以前よりも負担が少ない。半分ぐらいの速度で感じる慣性を、今では全開にした時で初めて感じる。急制動と直角方向転換を行っても、バーニアを全開にしなければ殆ど感じない。

 技術の進歩って凄いな。たった三十年でここまで変わるのか。驚けばいいのか、喜べばいいのか。分からない。

 二十分程度の操縦時間を終え、データを纏めてから松永大佐も操縦する。自分のような急制動と直角方向転換などの操縦は行わなかったが、軽く飛行するような感じで徐々に速度を上げて操縦していた。

 松永大佐の操縦時間は十分程度だった。けれど、速度を上げて周回運動した時の影響か、ガーベラから降りたら若干ふらついていた。慌てて支えに入る。

 ……松永大佐は細身だけど、身長が百九十センチ有る、ここにいない知り合い並みに背が高く、見た目以上に重い。鍛えているから見た目以上に筋肉が付いているんだろう。

 松永大佐に肩を貸すと言うか、身長が足りないのでしがみつくように支えて、ヘルメットを被ったまま通路の壁伝いに医務室へ移動を始める。途中、松永大佐が何度もよろけたり、足を縺れさせたりした。遅々とした移動だけど、一歩ずつ確実に前へ進む。転倒されたら起こすのが大変なので、これが一番安全だ。

 時間が経過と共に少しずつ回復して来たのか、松永大佐の足取りも移動開始直後と比べれば、多少は確りして来た。まだよろけ掛けるけど。

 やっぱり、誰でもガーベラに乗れるようにするには、重力制御機をどうにかするしかないのか。重力石が幾つか入手出来るから、ガーベラに移植するんじゃなくて、『携帯出来る重力制御機』を作った方が早いかな? スマホのモバイルバッテリー(大容量タイプ)を改造すれば、行けるかもしれない。今度保管区に行った時に重力石を何個か確保しよう。

 考えを纏めていると、無言だった松永大佐が口を開いた。

「すまないな、星崎」

「いや、これぐらいなら別にいいです。それよりも大丈夫ですか?」

「ああ。眩暈がするだけだ。しかし、油断したな。荷重を感じない速度で旋回したんだが……」

「旋回時に掛かる荷重は、直線行動の時の三倍でしたっけ?」

「……その計算が正しいのなら、確かに眩暈の一つも起こすか」

 松永大佐が何とも言えない顔をした。直後、荒々しい足音が響いた。

「おい! どうした!?」

 足音と共に響く声。顔を正面に向ければ、ギョッとした表情の飯島大佐が走って来るのが見えた。

「飯島大佐?」

「今日は来る日でしたっけ?」

「いや、その予定は、いっ!?」

 共に正面を見ながら移動していたからか。松永大佐が足を縺れさせ、体が大きく正面へ傾く。咄嗟の判断で、正面に回って支えるが、踏ん張りが利かず巻き込まれる形で一緒に転び、尻餅すら着かずにそのまま下敷きにされた。松永大佐に潰されながら思う。脱力した人間は重いと聞くが、ここまで重かったっけ?

「だ、大丈夫か!?」

 慌てて駆け寄って来た飯島大佐が松永大佐の体を起こして壁に寄り掛からせた。

 自分は床に後頭部と背中を打ち付けた。ヘルメットが無かったらヤバかったな。起き上がって通路に座り、荷物になるから被ったままだったヘルメットを脱ぐ。

「重かった……」

「他に言う事は無いのか」

「潰された身にもなって下さい」

 飯島大佐は呆れている。でも、重かったのは事実なんだよ。大人の男はやっぱり重いな。

 一息吐いて松永大佐を見る。転倒した事で眩暈が酷くなったのか、ヘルメットを脱いで額に手を当てている。

「そんで、星崎。何が()った?」

 松永大佐に事情を聴くのは難しいと判断した飯島大佐から質問を受ける。少しだけ目を眇めているので『キリキリ吐け』と言った気分なんだろう。

「ガーベラの稼働データ収集を、松永大佐と交代で行いました」

「松永と交代ぃ? ガーベラのデータ収集時の操縦はお前一人で行うんじゃなかったのか!?」

 飯島大佐は訝しんだ。もしかしたら松永大佐は独断で乗ったのかな? 真相は本人に聞かないと判らんが。

「私も今日になって知りましたが、オーバーホール中のナスタチウムの重力制御機を一時的に移植したそうです」

「未使用じゃなくて、オーバーホール中の奴を移植したのかよ……」

「はい。本命の重力制御機の移植には、まだ時間が掛かるそうです。移植準備が完了するまでに比較データ収集を行う事になりました」

 誰が聞いているか分からない通路での会話なので、暈した表現を使った。それでも、何を指すのか飯島大佐は解ったようだ。

「比較データ収集の必要性は解る。それでも、松永が乗る事はねぇだろ」

「流石にそこまでは知りません」

 今日になって支部長から追加指示が出たのかもしれんが、そこまでは聞かされていない。

「そんな事よりも、格納庫からここまで歩いて来たのか? せめて、担架に載せろよ。格納庫なら車輪付きぐらい置いて在るだろ」

「お言葉ですが、私一人でどうやって松永大佐を担架に載せろと?」

「……それもそうだな。松永に自分から乗れとは、流石に言い難いか」

 正論を言われた気がしたけど、飯島大佐に言葉を削って手段を尋ねたら、目を逸らされた。

 自分より大柄な成人男性を運ぶとか、魔法を使わないと出来ないよ。持ち上げるとか無理。

「タイミング悪く整備兵の方もいなかったんです」

 今日になって知ったが、試験運用隊の整備兵は他所からの一時派遣なので、常駐では無い。今日の予定は急遽決まったので、タイミング悪く本当にいなかったのだ。

「相変わらず運がねぇんだな、お前」

 思わず飯島大佐と顔を見合わせて、同時に嘆息を零してしまった。

 結局、何時までも通路にいる訳には行かないので、飯島大佐の手を借りて一緒に医務室に向かった。

 到着した医務室には軍医がいた。肩を借りた状態の顔色の悪い松永大佐を見て一瞬驚いたが、自分が松永大佐の症状を告げると空きベッドに寝かせるようにと指示を受けた。指示を聞いた松永大佐は不満げだった。飯島大佐が松永大佐に言い聞かせる。

「いいか。最低でも一時間は寝て休め」

「飯島大佐。ただの眩暈と言ったでしょう」

「ただの眩暈で転ぶ奴がいるかっ」

 飯島大佐は一喝して、松永大佐との問答を押し切った。

「詳細は星崎から食堂で聞く。文句が有るならさっさと寝て治せ」

「……仕方が無いですね」

 不満げだった松永大佐が漸く諦めた。飯島大佐の言動が母親染みているけど、突っ込まないでおこう。

 その後の事は軍医に任せて医務室から出て、飯島大佐と一度別れる。着替えて食堂で合流する為だ。

 手早く着替えて鞄を持ち、食堂へ向かった。


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