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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
軌道衛星基地にて 西暦3147年8月
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稼働データ収集と戦闘

 翌日から始まったアゲラタムの試験操縦を兼ねた稼働データ収集は……ちょっとしたトラブル(?)が何度か発生したが、豪華な顔ぶれで恙無く進んでいる。

 トラブルと言っても、些細なものだ。

 例として抜粋すると、次の三つか?

 実際にやって見せた時の自分の操縦姿勢が不適切。操縦時の姿勢が、大型バイクに乗るような姿勢で、自分が操縦した時に後ろから見ると『うつ伏せに寝そべっている――要は後ろにいる同乗者に尻を突き付けている――ように見える』らしく、後ろで説明を聞いていた井上中佐が顔を赤くしていた。支部長の表情は一切変わらなかったんだが?

 起動時のロック解除のやり方がややこしくて何度も間違えた。引いて、起こして、押し込んでロックを解除し、操縦する時には再び引いて、内に倒して接続と、手順が非常にややこしい。佐々木中佐と佐藤大佐が、何度も操縦桿をへし折るんじゃないかって勢いで逆方向に倒そうとした。慣れるとそうでも無いのに。

 片足が欠損したままだから(?)か、バーニアを吹かす度に頭から床に突撃した。軽くフットペダルを踏み込めばいいのに、何故か思いっきり踏み込んでいる。軽くと何度も言ったのに。松永大佐はスピード狂か?

 そんな感じで自分がフォローしつつ、試験操縦は続き、今日で五日目になる。

 稼働データ収集は軽い模擬戦だった。当然のように自分が操縦したよ。キンレンカが相手だっただけ、まだマシだった。手心は残っていたかとちょっと感心した。

 模擬戦結果を基に、あーだこーだと大人四人で議論する。松永大佐の操縦の習熟度が四人中最も『まとも』になったところで、自分も漸く観戦側になれた。

 既に言ったが、アゲラタムの操縦はそこまで難しくはない。

 ボタン操作が不要で、操縦桿(に見える脳波探知機なのだ)経由で『ある程度思考通りに動く』のだ。ボタンはカメラを始めとした機能の起動・停止用で、アゲラタムの起動・停止の時にしか押さないスイッチで、戦闘中はほぼ弄らない。例外は緊急時ぐらいだ。

 途中から機体の起動・停止時に、ロックを掛ける・解除するで一括起動するようにセットした。これで多少は楽になった。

 それでも、操縦の修得で躓くのは、この『ある程度思考通りに動く』と言う点にあるのだろう。前進と後退以外の方向転換は体を傾ければ行われ、ペダルはバーニアを吹かす以外に使用しない。一挙手一投足に何かしらの操作を必要とするナスタチウムとは大違いだ。

 操縦に変な癖が無く、割と簡単な方の機体だからか、大人四人の操縦がまともになるのに三日も掛からなかった。けれども、ボタンの多い機体を操縦するからか、ボタンの少ない機体だと戸惑いがあるみたい。『細かい操縦技術不要なのか』と、喜ぶ自分とは逆だ。



 そして現在、演習場のモニター室(観劇場のボックス席みたいな部屋)にいる。九時から十五分程度の短い模擬戦を二度行った。休憩を兼ねた議論を挟みつつ行うので、休憩時間は自然と長くなった。

「基本の操縦システムそのものが違うと、タイムラグにここまで差が出るものなのか」

「このタイムラグの差は致命的ですね。何故、開発部は報告を行わなかったのでしょうか」

「この情報が有れば、あの時も、多少はマシになったかもしれんな……」

 唸っているのは、佐藤大佐と井上中佐だ。佐藤大佐は何を思い出したのか目が死んでいる。『あの時とは何時の事?』とは突っ込まん。

 視線の先のモニターには、同じタイミングで操縦桿を操作した場合の、実際に機体が動くまでのタイムラグの時間が表示されており、その差を見比べている。

 その差は一秒にも満たないが、戦場でのこの時間差は致命的だ。

 同じ事を思うも会話に混ざっていない、松永大佐と佐々木中佐もモニターを注視し、時に議論に混ざっている。

 自分は椅子に座り、紙コップに淹れた息抜きの甘いコーヒーを飲みながら無言で四名を観察している。白熱している議論に混ざれなくて観察しているのです。



 何故この情報が公表されていないのかと言うと……十数年前に開発部ツクヨミ部署のトップが、先日までの人に変わった事が大きかった。

 マルス・ドメスティカによる異常事態の終息後、開発部ツクヨミ部署でヤバい不正が発覚した。その中には、『やるべき実験や開発を行わなかった』などの職務怠慢も含まれる。本国の方が真っ当に機能していたから、最前線近くの基地の開発部署が整備兵と同じように動いていたからかもしれない。

 この職務怠慢の調査を行った過程で、十数年前の時点でこのタイムラグの差について調査が完了していた事が明らかとなった。

 十数年前は、松永大佐達がガーベラのテストパイロットを務めた頃と被る。今回の調査で、何故ガーベラがパイロットの事を考えない無茶な作りになっているのかも判明した。

 単純に機体性能の差を埋める為だった。埋まらない差を縮める事だけを考えた機体だった。操縦の遊びの無さはこれが原因だったと知り、納得した。

 この調査結果により、三十年前の開発者達の『開発費を無駄遣いした愚か者』と言う当時張られたレッテルは消えた。彼らは確かに、戦いに『勝つ為』の機体を作り上げていたのだ。唯一の欠点は操縦出来る人間がいなかった事で、こればっかりはどうしようもない。

 現在は彼らのレッテルよりも、必要な情報の公表や職務怠慢、あとは気に入らない職員の功績を潰すとかの方が、問題として重いから、誰も注目していないけど。



 ここ最近になって発覚した、ろくでもない調査内容を思い出し、『どこにでもこんな奴がいるのか』と内心で落胆した。 

 そこで、ガーベラの欠点『操縦時の過重負荷』を思い出して、思い付く。

 アゲラタムの重力制御機構をガーベラに移植すれば、自分以外にも操縦出来るかも知れない。体に掛かる負担が原因で乗れる人間を選んでいるんだし。

 ……改造するのは間違いなく自分だけど。

 でもそうなれば自分は――お役御免だ。あとは支部長に適当に話してから改造して雲隠れし、マルス・ドメスティカが再生産された経緯を調べるでもいいだろう。

 そこまで考えると、何だか、妙案に思えて来た。

 何と言って支部長に接触するか考え始めた直後、警報が響き、激しい横揺れが襲い掛かって来た。

「警報!?」「襲撃か!?」「どこからだ!?」「司令室! 応答しろ!」

 中佐コンビと佐藤大佐に緊張が走る中、松永大佐は司令室に通信を繋いでいた。

 そんな中、自分はと言うと。

「お、おおう、危なー……」

 襲い掛かって来た横揺れが原因で、持っていた紙コップの中身のコーヒー(やや熱め)を危うく膝に零しそうになった。慌てて紙コップを動かして揺れを逃がし、零すのを防ぐ。暢気過ぎると誹りを受けても反論は出来ん。こんな事で火傷はしたくないのでね。コーヒーを急いで飲み干し、近くのテーブルに紙コップを置き近づく。

『襲撃発生! 黄緑色の敵機が暴れている! 各自持ち場に移動しろ!』

「黄緑色?」

 大人組に近づきながら、放送で流れた敵機の特徴を聞き眉を顰める。まさかと言う思いつつ、十日程前に遭遇したマルス・ドメスティカを思い浮かべた。あれも色合いは暗めだが、黄緑色をしている。

 違って欲しいところだが、希望を砕くようにモニターが切り替わり、焦燥に満ちた表情の支部長を映し出した。

『こちら佐久間! 第五保管区で暴れていた例の敵機が隔壁に攻撃をしている。このままでは基地の外へ脱走されかねん!』

「「「「なっ!?」」」」「支部長、敵機の現在位置はどこですか?」

 支部長からの報告に、大人四名が絶句する。無理も無い。あの時頭部を切り離して破壊し、取り扱いについても、提出したレポートに『頭部と胴体は別で保管推奨。硝子は取り込めないので、硝子製の板を使用すると自動修復機能の妨害が可能』と明記した。誰が頭部と一緒に保管したかは不明だが、やる事を聞こう。大人勢は絶句から立ち直っていないし。

『開発部ツクヨミ部署の解体場だ』

「開発部ツクヨミ部署?」「支部長、被害はどの程度ですか?」

 場所を知り、自分は思わず眉を顰めた。現場の位置を知って復活した松永大佐が、支部長に質問をしている。

 どうして解体中に――いや、場所が開発部ツクヨミ部署って事は、まさか左遷された馬鹿がやらかしたのか?

『現在確認中だが、判明しているだけで多数の死傷者が出ている。後手に回った以上、これ以上の被害は出せん。松永、佐藤、井上、佐々木はそこにあるナスタチウムで出ろ。星崎はガーベラに乗れ。ガーベラが現場到着次第、隔壁を開けて、敵機を放り出す。指定ポイントにまで敵機を誘導しろ。ナスタチウムは指定ポイントにて、陽粒子狙撃砲による飽和攻撃を行え』

「「「「「了解」」」」」

 支部長からの指示を聞き、囮役かよと思うが、他に適任がいないから仕方が無い。豪華な面子で出撃だけど、文句は言えない。だって訓練生だし。

 被害状況を知って復活した残りの大人勢と声を揃え敬礼をして、支部長へ応答を返す。支部長との通信が切れると同時に、モニター室から駆け足で出る。更衣室でパイロットスーツに着替えて格納庫へ向かう。

 格納庫では、整備兵が大急ぎで五機分の換装作業を行っていた。実戦装備準備が行われているガーベラのコックピットに乗り込み、待ち時間にヘルメットを被る。

『準備完了! 何時でもどうぞ』

「了解。出ます」

 整備兵からの準備完了の通信に短く答えて出撃する。隔壁経由で宇宙空間に出ると、先に出ていた大人勢が乗るナスタチウムは既に移動を開始していた。指定ポイントを知らせる通信が入った。短く応答を返し、作戦内容を確認する。

「先ずは、開発部のところに向かわないと」

 現場に向かい、囮役となり、指定ポイントへ誘導。そして戦闘。これで合っているだろう。

 バーニアを吹かし、司令室からのナビゲートを頼りに、急いで現場へ向かった。



「まだ無事か……」

 到着した現場はまだ無事だった。隔壁を突き破っていたとか、そんな事も無かった。嵐の前の静けさを感じる不気味さは在ったけど。

『ガーベラの現場到着を確認。隔壁を開放します』

「了解。指定ポイントまで誘導します」

 通信に応答を返し、マルス・ドメスティカが出て来るのを待つ。

 少しして、隔壁がゆっくりと開き、無手のマルス・ドメスティカが宇宙空間に吸い出されるような感じで放り出されていた。

 空気と一緒に放り出したにしては勢いが有る。何をどうすれば『排出された』って感じに放り出せるのか。気になるけど、やる事をやろう。

 マルス・ドメスティカの気を引こうとしたが、するまでも無かった。

 何故なら、正面に回った瞬間に突撃して来たのだ。

 気を引く必要も無く、一直線に向かって来る。即座にガーベラを転進させて指定ポイントに向かう。

 可能な限りの速度を出しての移動だ。戦闘前に体に必要以上の負荷を掛ける訳にはいかない。

 マルス・ドメスティカが確りついて来ている事を確認しながら、移動を続けた。



 その後の戦闘は、思い出したくも無いぐらいに、めっちゃ濃密だった。ガーベラのバーニアを全開にしないと不味い場面が何度か発生した。つーか、誰だよ! マルス・ドメスティカにあの魔改造を施したのは!?

 井上中佐を蹴り飛ばし、佐々木中佐を回収してからポイ捨てしたりした。ちゃんと一声かけてからやったとも。シリアスな空気を何度粉砕したんだろうね。

 色々とやったけど、最終的に松永大佐の機転で戦闘は終了した。

 格納庫に戻り連絡通路に下りたら、思っていた以上に体はダメージを受けていたのか、すぐには立てなかった。

 戦闘を終えて帰還したけど、思う事は一つ。

 何でこうなったんだろうね、チクショー!


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