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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
新しい変化 西暦3147年12月

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216/219

交流会・午後 前半

 不安は的中した。

 何が起きたのかと言うと、昼休みが終わる少し前に、サイが一人になった(届いたメールの返信の為に単独行動を取った)ところで襲われたのだ。

 狙われた理由は、日本支部のものとして若干毛色が違うように見えたから(マオ少佐談)らしい。

 サイは日本支部の人間では無いので、毛色が違うのはある意味当然だ。

 でも、サイを狙うのは失敗だよ。

 優男風の見た目の割にサイは攻撃的だ。急所(男性の急所含む)を攻撃されてもノーダメージな――フラガを筆頭に無駄に頑丈な部下が多いせいか、サイは男の急所を表情一つ変えずに平然と攻撃する。

 本人が言うには『急所を攻撃するのは当たり前の事』だそうで、同じ痛みが想像出来るのに一切の躊躇いが無い。

 他支部の面々からすると、サイの躊躇いの無さが非常に恐ろしかったらしく……、皆さんサイを見かけるなり両手で股間を隠してじりじりと距離を取っていた。



 そんなハプニングが発生した中、午後の第一競技が発表された。

 午後一発目の競技は『訓練学校の教官だけが出場する二百メートル走』だった。

 日本支部にいる教官は一人しかいない。そして、その人物は武藤教官だ。

 背後から般若を背負った武藤教官に追われたくないのか。

 他支部の教官は皆、武藤教官に先頭を譲った。その為、日本支部が一位でゴールした。武藤教官は二百メートルを年齢を感じさせない速度で完走した。武藤教官は現在五十歳の佐藤大佐よりも年上と聞いている。五十歳を超えているにも拘らず、中佐コンビ並みの速度で走れるって……毎日どんな運動をしているんだ?

 各支部一位を武藤教官に譲った代わりに、と言ってはアレだが、二位争いが熾烈だった。

 武藤教官に先頭を譲った他支部の教官が詰られる事は無かった。詰るのならば代わりに出場しろと言い返されるだろう。

 そして想像する。


 般若を背負っていなくとも、武藤教官が背後から追い掛けて来る状態を。

 

 地味にホラーな体験をするだろう。故に誰も教官を責め立てる事はしない。

 実際にアメリカ支部でその事態が発生したが、言い返されたアメリカ支部長が青い顔をしてがくがくと震え始めた。



 午後も初っ端から問題が発生した交流会だが、続く競技は午前中に自分が挑んだ競技だった。

 ただ同じコースを走るのではない。コースが少し変わり、三分割されている。バトンの代わりに襷が使用される。


 第一コースは、二人三脚で四百メートル(二百メートルトラック二周)を走る。

 第二コースは、四百メートル走(二百メートルトラック二周)と崖登り。

 第三コースは、ロープを使った壁降りと地雷原踏破だ。


 第一コースは佐々木中佐と井上中佐が自ら名乗り出た。

 第三コースは『機雷が漂う、潮の流れが速い海を泳破するよりマシそうだ』とサイが名乗り出た。でも比較する競技内容が違うよ。地雷如きでは、サイは負傷しないから別に良いんだけどね。

 残る第二コースは、松永大佐とマオ少佐のどちらかになる。話し合った結果、松永大佐が出場する事になった。

 午前中、マオ少佐は妨害行為を受けた。それを踏まえて、『何かあったらやり返す』事を前提に松永大佐が出場する事になった。

 四百メートル走と崖登りのどこで、妨害をやり返すのか気になった。



 自分は疑問を抱いたけど、大人一同は気にしていない。

 そうこうしている内に午後の第二競技が始まり、……早々に唖然とする事が起きた。

 他支部の人達は声援を送る事を忘れて呆然としている。

「……凄いですね」

「……ははっ、そうだな」

 少々現実逃避気味のマオ少佐が自分の言葉に相槌を打つ。

 何が凄いのかと言うと、佐々木中佐と井上中佐だ。

 二人三脚は片足を紐で結んで繋ぎ、『肩を組んで走る』のが一般的だ。

 だが、中佐コンビは『肩を組まず、掛け声すら無く』、単独で走っているかの如く、普通に走っている。『何十年連れ添った熟年夫婦だよ』って、内心で思わず突っ込んだわ。中佐コンビは何年二人三脚で来たんでしょうかね。

 他支部は『ワン・ツー、ワン・ツー』と掛け声を掛けながら走っているので、余計に目立つ。いや、他支部の出場者組の息が合っていないとかそんな事は無いんだけど、中佐コンビが異常なんだわ。

 他支部からクレームが来そうな光景だが、真ん中の足を紐で結んで『三脚で走っている』以上、ルール違反は犯していない。

 二人三脚で肩を組むのは、単純に走りやすくする為だし……あっ!? 中佐コンビがアメリカ支部の組を周回遅れにした。そのままフランス支部まで追い抜いた。

 周回遅れ発生の実況の声を聞いて、ドイツ支部が走る速度を上げたけど、今度は転倒した。その隙に中佐コンビは追い抜いてしまう。

 中佐コンビは軽快な走りで四百メートルを走破した。第二走者の松永大佐にバトン代わりの襷が手渡された。待機場内で絶叫が響く。

 なお他支部は、中佐コンビに追い抜かれないように速度を上げて転倒する、自滅(?)、自爆(?)が続出した。そのせいで更に差が開く。


 第二コースの前半は四百メートル走だ。

 午前同様に、日本支部は独走状態なので、松永大佐の走りを邪魔する人間はいない。

 松永大佐が百メートルを走り終えた頃になって、転倒から復活したドイツ支部とフランス支部が第二走者に襷を渡した。それぞれの第二走者は必死の形相で全力疾走している。崖登りが待っているのに体力は持つのかね?

 何が何でも、日本支部に一矢報いる気概を感じた。

 この差を埋めるのは難しいと思うけど、頑張るのは本人の自由だ。ほっときましょう。最後まで諦めるなと言われている可能性も有るからね。

 自分は参加者では無いのだ。高みの見物と洒落込みましょう。応援をしても声は届かないしね。

「星崎は松永大佐の応援とかしないの?」

「窓が開いていないのに、ここからでは声は届きませんよ」

 大林少佐の疑問に、それっぽい事を言って否定する。キャラじゃないからやらないよ。

 現在位置は二階の待機場だ。疑問に思うでしょう? 何故二階にも待機場が存在するのかって。

 

 マオ少佐からの回答では『互いに監視する為』らしい。

 どう突っ込むべきか悩むし、色んな意味で駄目としか思えないけど、マオ少佐と如月学長と武藤教官の三人からの解説を聞く事を優先しよう。

「待機場は元々『一階だけだった』んだ。二階の待機場は事件が起きてから作られたんだ。作られた理由がこれまたくっだらねぇもんでな。待機場が一階なのを良い事に、やらかす奴が出たんだよ」

「競技中だ。参加者全員の関心は競技に向かう。その隙を狙い、複数の男共が参加していた女性パイロットを無理矢理個室に連れ込んだ。その結果、競技中であるにも拘らず大騒動となった。この対策として、二階にも待機場が作られ、競技に出場しないものはここでの待機が定められた」

「……本当に、交流会なんですか?」

 マオ少佐と武藤教官より、二階の待機場が誕生した裏事情を聞かされて思わず唖然とした。

 ……女性パイロットが襲われたヤバい事件が、競技中に起きたのかっ!? これじゃ、交流会とは名ばかりの何でもありだな!? 良く開催が決まったな。別の意味で恐ろしい。

 自分の顔は引き攣っている。支部長と如月学長が目の前にいるけど、聞かされた内容が内容なだけに、取り繕うなんて出来ない。

 如月学長は『理解出来る』と言わんばかりに曖昧な笑みを浮かべる。

「困った事に、『交流目的で複数の支部が集まっている』んだ。これが交流会でなかったら、何なんだと言う事になる」

「そもそも、交流をしていますか?」

「全競技が終わったら、一階の待機場に集まるんだ」

「……今朝と同じ事が起きるんですか?」

「う~ん。それは他支部次第だね」

 そんな回答をしてから、如月学長は『あははは』と笑った。


 待機場が複数存在する理由を思い出していた間に、松永大佐は四百メートルを走り終えて崖登りを始めていた。手足が長いからか、松永大佐は軽快に登って行く。

 自分がこの崖登りをした時は、真ん中を駆け登った。

 真ん中を選んだのは、単純にそこしか空いていなかったからだ。

 多少足場が脆くても、『魔法で体重を軽くしてしまえば』、問題無く踏破が可能となる。支部長の許にルールの通知が来ていないそうなので、躊躇い無く魔法を使用した。

 当然だが、誰にもバレていない。体重を軽くした程度では、サイにもバレなかった。

 ちなみに、揺れる浮島を移動する時にも、体重軽減の魔法を使用した。勿論バレていない。


 あの浮島は滑りやすいように表面に何かしらのコーティングが施されていた。アレは裸足で浮島の上に立っても滑りやすいだろう。

 揺れ方に法則がありそうだったが、時間の無駄になりそうなので無視して飛び込み前転で移動した。これが功を成し、浮島の意外な事実が判明した。

 あの浮島の滑り具合は布で防げる。加えて、滑りやすい部分は頭頂部だけで、側面部は全く滑らない。

 大変意外だったが、午後の競技に浮島渡りは含まれていないので、まだ誰にも話していない。既知の情報ならば良いが、帰りのチャーター機の中で聞いてみよう。


「お、サイヌアータ殿に一位のまま襷が渡ったか」

 支部長の言葉で、自分は意識を競技を映すテレビに移した。テレビの中では松永大佐が安全確保の為か、壁際に移動した。

 移動した松永大佐から襷を受け取り、身に着けたサイがロープを使って崖を降りた。自分の時のようにロープが切れる事は無かった。

 たかが五メートル程度なら、サイはロープが無くとも余裕で着地する。


 首都防衛支部の訓練――と言うよりも、アゲラタムに搭乗するものが必ず受ける降下訓練を、アゲラタムのパイロット経験者のサイは受けている。

 意外かもしれないが、ルピナス帝国の各防衛支部の支部長は『一兵卒として最前線を経験したもの』でなければなれない。

 その理由は単純明快で軍部では、上に行けば行くほど、部下以上の強さが要求されるのだ。

 向こうの宇宙では『国家元首同士の一騎打ちで戦争の結果が左右された』過去が存在し、これが風習として未だに残っている。

 この風習が残っているので、サイは『首都防衛支部長』となった今でも、一兵卒と一緒に訓練を受け続けている。


 ――作戦は前線に向かい、相手の作戦を身をもって経験すれば、自ずと立てられるようになる。

 

 こんな脳筋のような教えが根強く残っているので、作戦の立案に関する勉強だけをした人が上に行く事は難しくなっている。

 簡単に言うと、軍部では『現場叩き上げ』が優遇されている。

 逆に、勉強をして専門知識などを頭に詰め込んだキャリア組は少々冷遇されている。キャリア組は経験を積んで、実績を最低でも十個程度積み上げれば見直されるが、道のりは長い。『勉強は空き時間を作れば出来る』と言う認識が有るせいだ。

 僅かな時間の余裕すら作れない奴は、上には行けないぞと言う教えかもしれない。

 そんな教えを忠実に守ったサイは――幼少期にカルタと一緒に自分が幾らか教導したとは言え――史上最年少ではないものの、それなりに若い年齢で首都防衛支部長の座に就いた。

 

 サイはそんな経歴持ちなので……と言う訳では無いが、首都防衛支部のおかしな訓練を受けているので、五メートルの高さから飛び降り程度ならば問題は無い。

 その先の地雷原も同様だ。

 サイは地雷原を難無く踏破した。そのまま一位でゴールイン。

「なぁ、地雷原を無傷で踏破する秘訣って有るか?」

「俯瞰して見るとかじゃないですかね。他には、僅かな凹凸を探すとか」

「……俺には無理だな」

 マオ少佐が遠い目をしている。

 日々受ける訓練内容が違うから、サイと同レベルのものを求めてはいけない。仮に要求しても、応えて貰えないだろう。

 

 大人の意地か。

 サイがゴールしてから十五分の遅れで、アメリカ支部が二位でゴールした。イタリア支部の人を盾にして地雷原を乗り越えていたけど、あとで喧嘩にならんのかね?

 

 自分の心配を他所に、午後の残りの競技三種目が発表された。それと同時に、休憩と言う名の『作戦会議』の時間に入った。

 まだ二つの競技しか行われていないのに、もう休憩時間になるんだよ? 

 支部長が言うには、オランダ支部長の提案らしい。自爆したから心の準備をする時間が欲しいのか。

 作戦会議は会場の一階に存在する、幾つかの会議室に支部ごとに籠って行われる事になった。

 それは日本支部も同じだけど、……日本支部はお昼の残りのカレーを食べながらの会議となった。


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