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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
新しい変化 西暦3147年12月

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213/220

交流会は始まる前から雲行きが怪しい ④

 会話が途切れたタイミングでゲルト大佐は去り、如月学長は訓練学校の学長会議での事を教えてくれた。

 如月学長が言うには、日本支部の訓練学校で、大胆な変革が行われた事を聞き付けた他支部から質問が集中したらしい。ただし、交流会開催前に行う、顔合わせに近い短い会議なので一つの支部から質問を一つだけ受けて回答したそうだ。余りにもしつこい時には、武藤教官と一緒に威圧して黙らせたらしい。

 ……威圧って。如月学長と武藤教官は交流会が開催される前に惨事を引き起こす気なのか?

 如月学長の言葉を聞いて思い出すのは先月下旬、二泊三日で訓練学校から戻って来た時――フランス支部長の悲劇(笑)の事だ。

 アレみたいな事をここでやるのは流石に問題しかないと思う。

 支部長の方も、誰一人として未だに戻って来ないが、似たような惨事が起きていなければ良いな。良心的なサイも、今回に限っては止めないから、被害が大きくなりそう。

 自分が別の方向について心配している間、中佐コンビは交流会参加経験者の三人にあれこれと質問を重ねていた。多分だけど、これまで他支部の人の対応をマオ少佐にまかせっきりだった事を気にしているんだろう。

 自分が口を挟むと、他支部の人から余計に勘繰られそうなので口が挟み難くく、黙っているしかない。

 中佐コンビはある程度の裏事情を知っているので、口を挟もうと思えば出来る。実際に出来ないのは、『知り合いじゃないだけでなく、そもそも名前を知らない』と言うのが大きいのかもしれない。

 中佐コンビは何かを言われた時に備えて、言い返すコツを聞いている。でも、飯島大佐に『松永大佐の類似品』と称される如月学長のやり方は参考にならないと思うの。

 ……そろそろ支部長達の方も終わらないかな?

 このままだと、比較的純真な方の中佐コンビが黒く染まってしまう。

 天に願いが届いたのか、ふらりと松永大佐とサイがやって来た。他の二人はどうしたのかと思えば、先に競技会場の方に移動したらしい。

 松永大佐の説明によると、スポーツ競技のような開催宣言だけは必ず行うとかで、支部長は来賓席に向かった。大林少佐は支部長の護衛を兼任しているので一緒だ。

 サイは自分達と一緒に競技に参加するので、松永大佐と一緒にこちらに来た。

 松永大佐の説明によると、交流会がやっと開催されるらしい。

 やっとかと、思うぐらいに待機時間が長く感じたな。

 立ち上がり全員で移動となったが、その前に二人の人物が立ちはだかった。アメリカ支部のドレッドヘアーの男性とイタリア支部のマオ少佐に噛み付いていた男性だ。

 二人は松永大佐と武藤教官の一瞥を貰って、一瞬身を竦ませたが、虚勢を張った。

「お、俺は魔王とか、カーリーとかなんかは知らねぇ!! 所詮は顔だけで大した事は無いだろ!!」

「そ、そうだ! そこのガキ! ちょっと面貸せ!」

 ……どうしてここで自分に目を付けるんだろう?

 自分に関する質問をしつこく重ねていた、ハルマン大佐とブラウン大佐がどうなったか知らないのか?

 呆れていると、遠目にギョッとした他支部の人が見えた。人数を数えて見ると結構な人数がギョッとしていた。

 松永大佐と武藤教官は、背中に吹雪を背負った。あ、武藤教官の背中に黒い般若が出現した。アメリカ支部とイタリア支部の二人の男が腰を抜かして、ガクブルし始めた。

 そして、松永大佐の視線が何故か自分に――いや、自分の背中の荷物に移動した。護身用品として持って来たものを出せって事ですか。ケースごと渡そうとしたが、その前に松永大佐から『手に持っているものを渡せ』と言われた。さっさとケースに仕舞えば良かったな。

 自分が手に持っている物品は、神崎少佐から渡された『人を叩く道具』だ。

 視線を松永大佐と手の中の物品の間で往復させたが、『渡せ』と命令口調で言われたから渡した。松永大佐と武藤教官に喧嘩を売ったそこの二人に関しては、もう知らん。

 自分の手荷物を受け取った松永大佐は袋の中身を見て、一瞬目を眇めたが、すぐに自分に背を向けて、右手で中身を取り出した。

 袋から出て来た一品を見てあちこちから悲鳴が上がるが、それらを無視した松永大佐は、右手を一振りした。黒光りする細長い紐状のそれの先端が床を叩き、鋭い破裂音が響いた。

 長さは二メートル程度だと聞いていたが、先端が鏃型で重いからか、見た目以上の威力が有りそうだ。

「使い勝手は良さそうだな。神崎少佐からこれを受け取った時に何か言っていたか?」

「使っているところを撮影して欲しいと言われました」

「そうか」

 松永大佐は練習するように、再度右手を一振りした。あちこちから悲鳴が上がり、幾人かは我先にと待機場から走って出て行った。そんな必死の形相で逃げなくても、松永大佐に喧嘩を売らなければ問題は無いと思うんだけど。

 さて、待機場から殆どの人が去った。日本支部と目の前にいる腰を抜かした二人以外だと、誰も残っていない。自主的に残ろうとした人は皆連れ出されたので、ある意味当然か。

 見捨てられたこの二人を、松永大佐と武藤教官はどうするのか?

「二人とも、落ち着きなさい」

 うっそりと微笑んでいる如月学長が松永大佐と武藤教官に声を掛けた。先のパターンを考えると、続く言葉の内容が酷そうだ。

 そんな事を知らない腰を抜かした二人は、如月学長を尊敬の眼差しで見ている。


「もうすぐ交流会が始まるんだ。三分以内に手早く効率的に心を圧し折るぞ。今日は初回だから、撮影時間は一分だけにしようか」


 如月学長の口から、腰を抜かした二人を地獄の底に突き落とすような言葉が続いた。如月学長の言葉を聞いた二人は白目を剥いた。さっきのハルマン大佐とブラウン大佐みたいな反応だ。

 如月学長から『すぐに終わらせるから、五人で先に会場へ行ってくれ』と言われて、自分とマオ少佐、中佐コンビとサイの五人は一足先に廊下に出た。

 直後。断末魔の悲鳴がドア越しに響いた。


 後に支部長は語る。

 この断末魔の悲鳴は交流会の会場一杯に響き渡った、と。

 松永大佐と如月学長と武藤教官の三人に関して、『心と()を守る為に、この三人には喧嘩を売るな』と、冗談のような注意喚起の文言が防衛軍全体に広まった。

 

 背後からドア越しに、地獄の底で刑罰を受けている亡者の如き悲鳴が聞こえる。如月学長に先に会場へ行けと言われているので、五人で廊下を歩く。断続的に悲鳴が聞こえるけど、無視して進む。

「マオ少佐。アメリカ支部とイタリア支部はどうなると思いますか?」

「どうもこうもな。連れて来た奴が二人再起不能になるだけだな。それよりもさ、お前は何であんなものを持って来たんだよ?」

「出発前に神崎少佐に渡されました。受け取った際に『変な人に絡まれたらこれで叩きなさい。これで叩かれたら、二度と近づいて来なくなるわ』といわれました」

「確かにその通りだが、幾ら何でも、流石に(ウィップ)は無いだろう。くそ、あの怪物。絶対、マツナガの手に渡る事を想定したな」

 マオ少佐の悪態通り、松永大佐の手に渡った神崎少佐からの一品は『鞭』だ。乗馬用の鞭ではなく、鞭は鞭でも、拷問や刑罰などで使われる『ウィップ』の方だ。

 憲兵部がどうしてこんなものを保有しているのか、どうして自分に渡したのかなどの疑問は尽きない。でも不思議な事に、聞いたら負けな気がする。

 背後を振り返らずに歩き続けた。体感的にそろそろ二分が経過する。

 まだかな? と思っていると、背後から走る足音が聞こえて来た。

 振り返ると待機場に残った三人、松永大佐と如月学長と武藤教官が走ってこちらに来た。三人の走るペースは速く、そのまま合流した。

 


 会場へ歩いて移動しながら、マオ少佐があの二人がどうなったのかを松永大佐に尋ねた。

「そんな判り切った事を聞くな。星崎。この鞭は私が預かる」

「いや駄目だろ」

 マオ少佐の突っ込みは無視された。

 ……ごめんマオ少佐。鞭は昨日バンダに使った奴がもう一つ、手元に在るんだよ。形状記憶型の鞭だから、こん棒みたいに使う予定で、背中のケースに入れているんだよね。

 神崎少佐から鞭を手渡されたから使う予定は無いと思ったけど、……松永大佐に預けるのならば、こっちも使いそうだ。

 

 交流会は始まる前から雲行きが怪しい。始まる前に二名脱落する事態に発展したので、先が読めない。

 持って来た鞭以外の残りの護身用品は、四つだ。


 一つ目は、もうお馴染みのスタンスティックだ。

 二つ目は、追加購入した痴漢撃退用スプレー各三種。

 三つ目は、ハリセン(人工木原料の紙製。金属板仕込み済み。最大威力落雷級の雷撃可能。使い方次第ではアゲラタムの頭部を吹き飛ばす事も可能)だ。

 四つ目は、木剣(人工木製。バスターソード型。アゲラタムが百回踏んでも割れない強度を誇る。使い方次第ではアゲラタムの装甲を凹ませ、貫通する)だ。 

 

 鞭とハリセンと木剣は、向こうの宇宙にいた頃に『アゲラタムや戦艦に対して』使用していたものだ。『生身の人間』相手に使わない事を祈ろう。使ったら相手は、良くて骨折、当たりどころが悪いと死ぬ。

 スタンスティックと痴漢撃退用スプレーでどうにかなれば良いな。


 淡い願いを抱いていた間に会場に到着した。

 日本支部用に割り振られた場所に移動した。

 全支部が揃った事を確認してから、台の上に立ったオランダ支部長が交流会の開会を宣言した。

 


 遂に始まったんだなと感心したけど、オランダ支部長が第一競技を発表した瞬間、ブーイングの嵐になった。オランダ支部長は突然のブーイングの嵐に狼狽えた。

「松永大佐。こんなブーイングの嵐になるような事ですか?」

「他の支部もこの競技が入る事は予想していた筈だ。我が支部の訓練生が予想外なだけだ」

 井上中佐が小声で松永大佐に確認を取った。松永大佐の返答はにべもない。

 でも、気持ちは解るけど、こんな競技を行うのか。

「訓練生を背負った状態で行う、四百メートルリレー。ウチは楽勝ですね」

「そうだな。ま、どこの支部も軽い奴を選んで来ているだろうから、日本支部(ウチ)は気にしなくても良い。ケチ付けられたら、十キロの重石を追加する程度で手打ちになる」

 佐々木中佐とマオ少佐の会話を聞き、『そうかな?』と思う。

 そうこうしている間に、オランダ支部長は『くじで決めた競技だ! 文句を言うんじゃない!』と怒鳴った。あちこちから舌打ちと悪態が聞こえる。

 それでも、オランダ支部長は強行を宣言し、第二競技内容を発表した。

「コレが水泳の無いトライアスロン風の競技ですか?」

「そうだ。これが最も妨害が発生しやすい競技でも在る」

「そうなんですか」

 武藤教官から、妨害が発生しやすい競技で在る事を知らされた。

 本当にくじ引きで決めた競技なのかしら?

 

 悲喜こもごもならぬ、哀怒嫉妬(あいどしっと)(喜怒哀楽から、怒哀嫉妬(どあいしっと)が正しいか?)こもごもと言うべきか。

 そんな状態で第一競技が始まる事になった。


 いざ始まった交流会の競技だけど……日本支部が圧倒的有利な状況で終わった。

 二百メートルトラックで行われた四百メートルリレーは、他支部へのハンデとして『自分を片腕で抱えた状態で走る』事になった。

 でもね。自分の体重はまだ四十キロも無いのよ。

 ハンデがハンデとならずに、日本支部はぶっちぎりで一位となった。


 続く第二競技は、想像以上に簡単だった。第一競技以上にぶっちぎり一位になった。二位以下がゴールするまでに掛かった時間が、自分が走破した時間よりも数倍長いってどうよ?

 ま、支部長が『一位でゴールしたらご褒美をくれる』と言うから、マジで走ったわ。

 それにしても、過去の経験が活きたわ。ルピナス帝国にいた頃、市街地戦で『傾いた壁を走って登る』とかしょっちゅうやっていたから、想像以上に楽だった。

 妨害らしいものは受けたけど、アレは妨害とは言わん。

 

 第三競技は、重さ六十キロの装備を背負った状態での四百メートルリレーだった。もう一回リレーだったよ。

 このリレーだけど、サイが出場する事になった。

 サイが出場した理由? 

 マオ少佐の判断で、松永大佐を出場させない為だった。自分は重石のように松永大佐の膝上に座らされた。

「いいか? 競技が終わるまで、絶対にそこから立つな! 立つなよ!」

 マオ少佐の念の押しようには少し引いたけど、黙って座ったよ。

 サイは首都防衛支部で一般兵と一緒に訓練を行っている。その中身は防衛軍のどの支部よりもハードだ。

 三種目連続で、日本支部は一位を獲得した。


 午前中は交流会開催前に会議を行った事を理由に、三つの競技で終了した。

 時刻は十一時半過ぎ。

 昼休憩となった。

 飯テロによる日本支部からの嫌がらせの時間に突入した。


連投しましたが、投稿までに間が空いてしまいすみません。

予想以上に長くなってしまい、どこをどう分割して投稿するかで悩みました。

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