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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
軌道衛星基地にて 西暦3147年8月
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軌道衛星基地~ツクヨミ~

 軌道衛星基地。

 場所が軌道衛星上なので、人によっては国際宇宙ステーションのような形状の基地を思い浮かべるかもしれないが、実際は違う。

 軌道衛星基地と呼ばれているが、遠未来SF系の創作物語で見かける『軌道エレベーターの先端に付け足されたコロニーみたいな基地』なのだ。先端部が軌道衛星上に存在する事から、軌道衛星基地と呼ばれている。基地内の時間は月面基地と違い、基地を所有する国の標準時間を採用している。

 軌道エレベーターがどこに建っているのかって? 教えられていないから知りません。

 地球の自転の影響を考えると、候補としては赤道近くになる。なるんだけど……。


 赤道周辺の国々は百年程前に地表攻撃を受けた際に滅びた。どう言う訳か、最初に地表攻撃を受けた場所が赤道付近だった。最初に受けた地表への攻撃が原因で、赤道付近には国が無く、人々も住んでいない。生き残りの移民を各国で受け入れる代わりに、誰もいなくなった土地は国連防衛軍に無償提供された。

 なお、地表への攻撃を許したのはこの一度だけで、以降は行われていない。と言うよりも、頑張って地表への攻撃だけは防いでいる。


 そんなどこに建設されたか知らない日本支部が保有している、軌道衛星基地は月面基地との経由地にも使用している(これはどこの国も同じ)ので『ツクヨミ』とも呼ばれている。他支部も名称を付けているみたいだけど知らん。月に因んだ名称らしい。

 ……個人的には、『日本神話から名称が取られているのはなんで?』と、是非とも突っ込みたい。意味無いけど。



 現在何の因果か、約五時間も時間を掛けて、その軌道衛星基地ツクヨミにいる。現在十四時。お昼は機内食で済ましたよ。

 半月前にもいたけど。前回との違いは、荷物が入ったボストンバッグと命令書片手に単身でここに来た事か。高城教官は林間学校のお手伝いで一緒にいない。その為、到着しても変な目で見られ続けた。持って来た飴を噛み砕いていないとイライラが治まらない程に、超不躾な視線だった。

 案内所の受付で命令書を見せたら、上級士官向けの待合室に案内された。室内にいた士官達からの視線が困惑する自分に集中する。訓練生が上級士官用の待合室に通されるのは確かに奇妙だが、これから会う人物が上級士官だとするのならば当然だろう。

 けれどその不躾な視線も、ツクヨミで合流した人物のお蔭で無くなった。

 無くなったと言うより、視線の送り主達が合流した人物を見て血相を変えて逃げ出したが正しいな。だってさ、血相を変えて逃げた人の一人が、熊みたいな厳ついオッサンだった。そんな厳つい熊みたいな人が、まるで『森の中で人喰い熊に遭遇した少女』のような顔で逃げた。これから会う人そんなにヤバい人なの?

 自分の顔を見て少し驚いていたけど。

「私が今回君を呼び出した、日本支部試験運用隊隊長の松永晶(まつながあきら)だ」

 そんな名乗りと共に微笑んだのは――黒髪をおかっぱみたいな髪型にした、オネェか美魔女かってぐらいに恐ろしく美人な、長身瘦躯の『男性』だった。骨格がやや四角くて喉仏が見えるから男性で合っている。左胸には『大佐』を表す階級章が存在する。頭二個分近くも身長差が有るので、見上げた際に首が疲れない距離を保つ。

 何故隊長――それも大佐と言う、上級階級の人が自らやって来た?

 よく見ればその後ろに、副官っぽい人もいる。こっちは普通に中肉中背短髪の男で、鈴村大尉と名乗った。副官かなと思ったら副隊長だったよ。諜報員かってぐらいに影は薄いし、顔も没個性だ。

「私立柊学園中等部三年、訓練生星崎佳永依です」

 人間離れした絶世の美形と没個性と言う、怖ろしく対照的な二人の顔の二度見を我慢し、敬礼して名乗り返し、命令書を渡した。

 崩れない微笑に、何故か寒気を感じる。悪魔の微笑、いや、ベネディクトかクラウスがたまに浮かべる腹黒系の笑みだけど――比べる対象が悪いので、あの二人に比べるとちょっと白いな。

 

 何でこんな人に呼び出されたんだろう?



 軌道衛星基地ツクヨミでは部隊ごとに隊舎が存在する。

 文言にすると『当然じゃね?』と思うだろう。しかし、月面基地では違った。あそこでは国ごと男女別に分かれていただけ。部隊入り混じっての部屋が割り振られる。だからこそ、一時使用していた部屋が個室で助かったんだよね。

 鈴村大尉の案内で、出向同然だが試験運用隊で模擬戦を始めとしたデータ収集を行うからと、試験運用隊の隊舎に向かう事になった。

 何で副隊長の地位にいる人が、自ら下っ端のような事をやっているのか。非常に、気になったけど、副隊長以外に真面な人がいない可能性が有るのなら……もはや考えん。試験運用隊は『実力の有るテストパイロット部隊』ってイメージが有ったんだけど、隊長が松永大佐な時点でイメージが崩れて来た。


 厳ついオッサンが顔を見ただけで逃げ出す美貌の隊長。もしや試験運用隊は伏魔殿か何かか?

 そして、試験運用隊の隊長が誰だか分からなくて感じた悪寒は、これの予兆だったのか。


 鈴村大尉の後ろを大人しく歩く(何時も通りに歩くと追い付けないので早歩き)事十分ちょいで、隊舎に着いた。入口で簡単な説明を受ける。

 一階に食堂が有るそうだ。寮部屋は全個室でシャワールーム付きだが、男女入り混じった部屋割りとなっている。

 部屋割りが男女入り混じっていても、相部屋では無く個室ならば気にする事は無い。

 でも一応、両隣と向かいの部屋を使用している人に挨拶ぐらいはやっておくべきかなと思い、どんな人物が部屋を使用しているのか鈴村大尉に尋ねたが。

「その挨拶は不要だ。この隊には幾つかの不文律が存在する。その内の一つに不干渉と言うものが有る」

 と言う返答を貰った。

 何でも、『何か遇って仲良くならない限り基本的に不干渉で、通路で会っても隊長以外への挨拶は不要』だそうだ。 

「戸惑うかもしれんが、これがここの決まりだ。全所属隊員を把握しているのは隊長と俺ぐらいだ」

「もしや、道案内に隊長と副隊長が見えた理由はそれですか?」

 鈴村大尉の回答から、自分を回収に来たのが隊長と副隊長だった理由を理解する。

 新入りの顔すら知らない部隊ってどうよ? って言いたいけど、ここは試験運用隊だから部隊で作戦行動を取らないのかもしれない。そもそも、防衛戦ばかりだから作戦行動自体滅多に取らない。

 攻め入るにしたって、それは『敵がこちらに来る道を潰す』とか、その程度かも知れん。分からないけど。

「そうだ。横の繋がりは基本的に薄い。だが、流石に今回は『訓練生が一時的に来る』と通達はした。誰か顔を見に来るかもしれんな」

「面会と言うのは、顔を見ると言う意味だったんですね」

「理解が早くて助かる」

 鈴村大尉の肯定に、内心で『面会の意味違く無い?』と思った。

 自分の感覚的に面会は『直接会って話しをする、もしくは挨拶をする』って事に使われるものであって、『個別認識の為に顔を知る』為に使う言葉じゃない。

 もしや面会と言うのは嘘で、あの大佐に何か別の思惑が有ってここに呼び出したんじゃないだろうか?

 そんな考えを中断するように、鈴村大尉から続きの言葉を貰った。

「部屋はそこの端末を使って調べろ。何か分からない事が有ったら俺か隊長に聞け。模擬戦やデータ収集類を行うとしても明日からになる。今日は区画内を見て回っておけ。迷子になりやすい作りになっている」

「分かりました」

 部屋の場所案内に関しては月面基地と同じなのか、電話番号を交換し合い、その言葉を最後に鈴村大尉は去った。

 鈴村大尉の背中を見送る。これから書類仕事なんだろうね。命令書は鈴村大尉に既に渡しているし、何時までも入口にいる訳にはいかない。入口の端末を操作して、必要なアプリをスマホにインストールし、部屋の場所を調べて移動する。

「あ。寮部屋より広いかも」

 シャワールーム付きだから当然かもしれないな。当然のように窓は無い。

 天井の蛍光灯を点けて、明るくなった部屋を見る。割り振られた部屋は訓練学校の寮部屋と同じく六畳間だったが、クローゼットが壁面収納の為、部屋が広く感じる。訓練学校の寮部屋も壁面収納にすればいいのに、何で家具として置いて在るんだろうか。

 考えても分からん。

 施錠してからボストンバッグを机の横に置き、室内を改めて見回す。

 ベッドと壁面収納のクローゼットは入口から見て左、机はベッドの反対側に配置されており、入口の横には通信用のパネルが設置されている。主な通信はスマホじゃなくて、これを使うんだろう。よく見ると机の近くに壁面収納の冷蔵庫が在った。シャワールームはさして広くないが脱衣場兼洗面台(浄水蛇口付き)も付いている。小さいけどドラム式洗濯機(乾燥機能付き)も在った。アメニティと洗剤は無いが。

 月面基地の兵舎との違いは、洗濯機が有る事と机とは別にテーブルとスツールが無い事か。机がそれなりに大きいから、室内で何か食べる時の場所の心配は無い。

 ボストンバッグから持って来た荷物を――ノートパソコンは机の上に置き、下着を中心とした衣類をクローゼットに仕舞う。空っぽの冷蔵庫の電源を入れる。

 訓練学校の寮部屋の冷蔵庫には、麦茶を始めとした飲み物と食べ物を入れていた。今回最低でも林間学校の期間中は訓練学校に戻れなさそうなので、冷蔵庫に入れていた飲み物と食べ物は道具入れに容れて持って来た。この部屋の冷蔵庫はまだ冷えていないが持って来たものを選んで仕舞う。流石に冷凍冷蔵保存せねばならないものは仕舞えないが。常温保存可のお菓子類はボストンバッグの中に入れて置こう。

 筆記用具は持って来たが、教科書は無い。あれは地味に重いから寮に残した。何で電子教本じゃないんだろうね。

 スマホに落としたアプリを起動させて試験運用隊の区画の地図を見て、呻いた。

「うわ~」

 迷いやすい作りになっているとは鈴村大尉は言っていたが、地図を見ると『これはもう迷路じゃね?』って感じだった。迷いやすいのではなく、迷路になるように作られたと言われた方が納得出来る。

 区画を見て回れとは言われたが、地図が有っても迷子になりそう。

「一先ず、購買部に行って、必要なものを買い揃えるか」

 今日中に一通り見て回った方が良いんだろうけど、迷子になるのは嫌だな。

 悩んだ末に、買い揃える必要が有るものをメモに書き出す作業から行った。

 


 購買部に行くついでに区画を見て回った結論を言おう。

 迷子にはならなかったが、格納庫近くを通った時に何故か、喧嘩を売られたと言うか突っかかられた。本当に訳が分からん。

 しかも『何で訓練生がいるんだ!?』の台詞と共に詰め寄って来た。それもパイロット一名と整備兵らしき複数名の男が。全員大柄で、デカいなー、と感想を抱く暇も無かった。めっちゃ睨まれた。

「鈴村大尉から『訓練生が一時的に来ると通達はした』と聞きましたが、何故知らないのですか?」

 訳が分からず鈴村大尉の言葉を言うと、睨んで来た全員が『やっちまった』と言わんばかりの顔をして、何かを思い出したかのように言葉に詰まった。

 数分待ったが、何も言わないので軽く頭を下げて去った。本当に何だったんだ。まさか、通達を忘れて突っかかり、指摘されて思い出したのか。馬鹿なの?

 区画外だが購買部(自販機)で必要なものを購入し部屋に戻った。

 そして、夕食時。無人の隊舎の食堂(複数の長椅子と長テーブルが有るだけ)で食事を取っていると向かい側に鈴村大尉がやって来た。

 何かと思えば、明日の十時にパイロットスーツを着て格納庫に向かえと連絡を受けた。電話番号の交換をした意味無いなと思わなくはないが、口頭連絡の方が良い時も有ると言うか、食事のついでの連絡っぽいし。

 鈴村大尉からの連絡に了承したが、格納庫での出来事は報告しなかった。明らかに向こうのド忘れっぽかったし。通達したと言った本人に『通達しましたよね?』とか、聞き難いにも程が有る。

 数度起きない限りは放置して置くのがベストだろう。

 食後は部屋に引き籠り、早めに就寝した。

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