新入りさんの初日②
三人で支部長室から退室し、試験運用隊の隊長室に移動した。
仕事の邪魔になるから、情報の開示は戻ってからやって欲しいと、支部長からお願いされて移動したんだけど、マオ少佐はちょっと不満気だった。
戻れば情報は得られるからか、マオ少佐の歩くペースは速かった。松永大佐は余裕で追い付いていたが、途中から自分だけ小走りになった。
そんなこんなで隊長室に移動し、応接セットのソファーに座り、マオ少佐に情報を開示した。自分は松永大佐の横に座らされたよ。
開示した情報の中には、自分に関わる情報――ガーベラに関する事も含まれる。
可能な範囲で開示された情報を得たマオ少佐……、滅茶苦茶キレた。立ち上がり、テーブル越しに、松永大佐の胸倉を掴む勢いで怒った。
多分だけど、支部長はこうなる事を予想して、支部長室から出るように言ったのかもしれない。そして、松永大佐もここまで予想して、自分を隣に座らせたのかもしれない。
一頻りキレ散らかして、マオ少佐は落ち着きを取り戻し、松永大佐の胸倉から手を放してソファーに座った。完全に落ち着いたのかと思いきや、何故か今度は自分が怒られた。
マオ少佐のお怒りの内容は、どれもこれも『自分の身を案じて』のものだった。
心配してくれるのは嬉しいんだけど、自分が動かなかったら、今の日本支部は無いと断言出来てしまうのよ。特に、向こうの宇宙絡みとか。
六月にクォーツとの一騎打ちが無かったら、どうなっていた事か。ちょっと想像出来ない。
この六月の一件が原因で、ガーベラに乗る事になり、八月にツクヨミに呼ばれた。
ツクヨミ――と言うか、試験運用隊の隊舎に数日間滞在していた結果。マルス・ドメスティカの探知に自分が引っ掛かった。これが元で、自分は支部長と一緒にアゲラタムに搭乗し、こいつを操縦してマルス・ドメスティカを一時停止状態に追い込んだ。んで、この時にポロっと色々と言ってしまったり、アゲラタムを操縦したりとやったから、情報提供をしたり、前世の事とかを話す事になった。……この辺は良いか。
とにもかくも、六月の一件が無いと、ルピナス帝国は接触して来なかったでしょうね。
ルピナス帝国の接触が無いと、オニキスが入手出来ないから詰む。転移門の破壊は、オニキスが無いと無理。防衛軍の兵器で転移門の破壊は無理だ。誤情報が、正しい情報として残ったままだったし。
ここまで思い返すと、自分が宇宙にいた間に、それも『八月になる前までにクォーツと一騎打ちする』事が、色んな意味で『自分と日本支部のターニングポイント』だったのかもしれない。
非常に嫌な話だが、二つの宇宙を股に掛けた危機が迫っている以上、そんな事は言っていられない。
全てが終わったら、荷物を無人島に持ち込んで、自給自足のスローライフを送りたいところだが、そんな無人島は都合良く存在しない。無念。
自分が現実逃避をしていた間、マオ少佐は短時間で色々と喋り続けていたからか、ソファーに背中を預けて天井を見た。
「マオ少佐?」
「少し疲れただけだ。日本支部が様々な情報の開示を拒んで来た理由は判ったが、納得したら負けた気がしてならねぇ」
「全てを受け入れてしまった方が楽だと言うのに」
「お前は悟り切った坊主か」
「マオ少佐。向こうの宇宙が絡んだ時には、無心で受け入れた方が楽ですよ」
「お前は変な方向に毒され過ぎだ」
……何だろう? 工藤中将を連想させる突っ込みがマオ少佐の口から出て来た。
でも、マオ少佐には諦めて貰わねばならない事実が沢山存在する。
「顔だけは極上の事故物件揃いですよ? 無心にならないと、精魂疲れ果てますよ」
「『顔だけは極上の事故物件』って、何だよ!?」
「愛国心溢れる奇人狂人変態変人ドSとドМの巣窟です」
「どこの地獄だ?」
「向こうの宇宙の、中堅以上の国家の中枢はこんな感じの人の集まりですよ。天から二物三物貰い過ぎて、結果的にマイナス方向に振り切っていますが」
「ヤベェ地獄だな。そんなところとやり取りして大丈夫なのか?」
マオ少佐の顔が滅茶苦茶引き攣っている。警戒心剥き出しのマオ少佐には悪いが、既に接触済みだ。
「トップは真面だ。これだけは言える。他の人員に関しては、今のところは問題無い」
「今のところ『は』って何だよ? ところ『は』って……。それよりも、もう接触したのか?」
「作戦開始前にリアルタイム通信を何度かと、先月上旬には実際にツクヨミに来た」
「ええええええっ!?」
松永大佐が明かした情報を聞き、マオ少佐が絶叫と共に立ち上がった。リアクションが普通過ぎて、逆に新鮮だなぁ。
「来たって、……ホントかどうかよりも、どうやってここに来たんだよ!?」
「向こうから渡された専用の移動装置を使った」
「は? 渡された、専用の移動装置?」
松永大佐の簡潔な回答を聞き、マオ少佐は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。意味が理解出来ないのか、マオ少佐はきょとんとした顔のままで、二度も目を瞬かせた。
マオ少佐からの追加の質問を先んじて断るように、松永大佐は手を叩いた。
「ここから先の質問は演習場で受け付ける」
「演習場って事は、午後までお預けか」
マオ少佐の言葉で分かるかもしれないが、午後は演習場に移動だ。そして、午前中は隊長室で書類仕事を行う。
流されるように書類仕事の時間になったが、ふと疑問を抱く。
「マオ少佐。イタリア支部での戦後処理は終わったんですか?」
「あ? 今になって聞く事かよ。イタリア支部は作戦の参加希望者が少なかったからな。合計で十日ぐらい完徹して、速攻で全部終わらせて、引継ぎも全部やって来た」
「そうだったんですか」
マジかよ。こっちはまだ、戦後処理が終わってないのに。
あ、松永大佐がマオ少佐から見えない位置で、イイ笑顔を浮かべている。そのままマオ少佐の机に、大量の書類(電子ノート)が積み上げられた。
マオ少佐がギョッとしているけど、松永大佐は無視してこちらにやって来た。何だろうと思えば、作って欲しい資料一覧が書かれた紙を渡された。先月よりも少ないな。
「おい、流石にコレは多い。最低でも三日は掛かるぞ」
「? 一日で終わりません?」
「普通は、終わらねぇよ!?」
マオ少佐の机に積まれた書類だけど、内容にもよるが、あれは自分が一日で終わらせている量と同じだ。思わず口を挟めば、マオ少佐は机を両手で叩いて憤慨した。松永大佐はマオ少佐の怒りを笑顔で聞き流した。
「試験運用隊の仕事を覚えるのに、丁度良い仕事だ。集中して、午後も潰せば、今日中に終わる」
「……マジで言ってんのか? 流石に一日で、しかも一人で、終わるの?」
「星崎は一日どころか、六時間で終わらせているぞ」
マオ少佐の顔がムンクの叫びのようになった。だがそれは数秒で解除され、マオ少佐は自棄を起こしたかのように猛スピードで、書類を捌き始めた。まだ九時半を過ぎたばかりだから、そこまで必死になる必要は無いと思う。
「星崎。アレは無視しろ。定例会議で使用する資料だが、来月中旬に月面基地で開催される防衛軍全体の定例会議の状況によっては、他支部に見せるかもしれない」
「? 来月に、防衛軍全体の定例会議を行うんですか?」
「定例会議と言っても、去年の支部内で起きた事の報告と、新年の抱負を言うだけの、支部長同士の交流会に近い」
「その会議を、来月に行うんですか?」
そんな会議を毎年一月に行っているんだったら、支部長間限定だけど、確かに交流にはなるか。
セタリアがこの会議の存在を知ったら、遊び半分で乱入しそうだ。そして会議を好き勝手に荒らして、勝者のようにケタケタと笑いながら帰って行く。最低最悪な闖入者だな。
「そうだ。今月の定例会議で開示する資料の確認は行うが、会議前に佐久間支部長に一度見せる。見せてから、佐久間支部長の希望通りに作り直すか、あるいは、複数パターンの資料を作る事になる可能性が有る。それだけは覚えているように」
「分かりました」
似たような内容の資料を、何度か作る事になる。
言うだけ言って席に戻って行った松永大佐の言いたい事はこれだな。これだけ覚えておけば良いと判断して資料作りに取り掛かった。
時間は流れて十二時。
マオ少佐は任された仕事の、約五分の一を終わらせた。マオ少佐が約二時間半で終わらせた仕事の速度が、速いのか、遅いのか分からない。
自分を基準にすると、他者から理解が得られない事は判っている。
そこで、基準を求めて松永大佐に『マオ少佐の処理スピードは速いのか』聞いてみた。
「五分の一はそこそこに速いな」
「じゅーぶんに、速いわ! お前らの基準がおかしいんだよ!!」
「そうなんですか?」
「人による」
松永大佐の回答はにべも無かった。
キレ散らかすマオ少佐を宥めながら、昼食を取りに食堂へ移動した。
到着した食堂にて、先に昼食を取っていた飯島大佐に、マオ少佐がいる理由を聞かれた。
松永大佐が簡潔に回答すると、飯島大佐は食事の手を止めて、天井に向かって息を吐いた。
「はぁ~、そんな経緯でこいつがいるのか。世も末、じゃなくて、イタリア支部が煩そうだな」
「どっから『世も末』なんて言葉が出て来るんだよ!? その前に他に言う事があるんじゃねぇのか?」
「良く来たな。歓迎するぜ」
「おせぇわ」
最後は心温まる歓迎の言葉で締めて、四人で昼食を取る事になった。
飯島大佐がここで食事をしている光景は見慣れたけど、何か足りない気がする。内心で『何だろう? 誰か足りない』と考えて、佐々木中佐と井上中佐がいない事に気づいた。
会議の準備が忙しくて来れないのか?
「おい、チビ――じゃなかった。ホシザキ、首を傾げてどうしたんだ?」
「佐々木中佐と井上中佐がいないので、ちょっと気になっただけです」
一人で首を傾げていたら、不思議に思ったマオ少佐から質問を受けた。
自分の回答を聞き、大人三人の反応は二つに割れた。
松永大佐と飯島大佐は納得顔になり、マオ少佐は呆れた。
「この強面野郎もそうだけど、何で所属外の隊舎で飯を食ってんだよ」
「ツクヨミと言うか、日本支部では飯を食い損ねないように、所属外の隊舎で飯を食っても良い事になっている」
「いや、許可が下りているとしても、だ。毎日他所で食っても良いのか?」
「他所と違って、ここは飯が余る量が多い。残す量を減らすって意味で、ここで食う分には問題無い」
「……そうかよ」
飯島大佐の言い分を聞き、マオ少佐は何か言いたげな顔をしたけど、それ以上の質問を諦めた。
「んで、星崎。お前は聞いていないのか? あの二人は今月から、月面基地に駐在担当になったぞ」
「……佐々木中佐か井上中佐が、年末月面基地でとか、言っていましたね」
今になって思い出した。それだけあの二人が、ここに来るのが当たり前になっていた証拠だ。
自分が思い出した事を確認した大人三人は食事に戻った。
昼食を取り終え、食休みついでに午後の予定について話し合うんだけど、ここで飯島大佐がやって来た理由が判明した。
「アゲラタムの操縦訓練ですか?」
「おう。乗る機会が少ないとは言え、せっかく覚えた操縦方法を忘れる訳にはいかねぇ。支部長から許可は取っている」
「佐久間支部長から許可を取得しているのならば、私から言う事はありません」
「悪いな。軽く模擬戦もしたいから、星崎を借りる」
「……一人で利用させるよりかは良いか。星崎、飯島大佐の監督を頼む」
こんな感じで、午後の予定が決まった。
本日乗れるか怪しいマオ少佐は不服そうな顔をしていた。
「俺は今日、来たばっかりだから許可を取ったが、アゲラタムだったか? あの機体に乗るだけなのに、一々よぉ、支部長の許可が要るのか?」
「マオ。お前は他所の部隊が保有している機体に無断で乗るのか?」
「……わりぃ」
飯島大佐に問われたマオ少佐は、少し考えてから謝罪の言葉を口にした。
何だろう? 前にも似たようなやり取りが起きたな。
「そ・れ・と、所属が同じ支部になった以上、口の利き方には気を付けろ。試験運用隊の隊舎は人目が少ないから良いが、煩い奴は本当に煩いからな」
「解ってらぁ。ちゃんと使い分けるぜ」
謝罪の言葉を受け取った飯島大佐は、マオ少佐に苦言を呈するが、言われた側は片手をひらひらと動かすだけだった。実に軽薄な反応だ。
「出来なかったら松永と二者面談確定だからな」
「………………急に命懸けになったな」
飯島大佐より『松永大佐との二者面談』を匂わされて、マオ少佐は急に真顔になった。
二者面談ってそんなに嫌なのか? それ以前に、二者面談をするだけで、命懸けって……。どんな二者面談をするんだ?
松永大佐に二者面談の内容について聞いてみたが、威圧感の有る笑顔と共に『知らなくて良い』とだけ言われた。納得出来なくて飯島大佐を見るが、こちらは『その通り』だと言わんばかりに頷いていた。
これは、誰に尋ねても教えて貰えないパターンだ。大林少佐に聞けば教えてくれるかもしれないが、支部長に止められそう。
何とも言えない微妙な空気で、食休みの時間は終わった。
このあと、演習場に四人で移動した。
マオ少佐は書類仕事をしなくても良いのか気になった。けれど、松永大佐がマオ少佐の『操縦席の適性確認をしたい』と言い出したので、四人で移動した。
自分は飯島大佐と十分程度軽く模擬戦を行うんだけど、その前に新しく搭載した通信機の使い方を教えなくてはならない。飯島大佐と一緒にアゲラタムに乗り、通信機の使い方を教える。
通信機の操作は、意外かもしれないが、左右の鍵盤を使わない。機体そのものを起動させれば、通信は一緒に起動し、近くの機体と自動で通信が繋がれる。
一括起動に組み込んでいるから、教える事は無さそうに思えるが、飯島大佐はアゲラタムに搭載されている通信機がどんなものか知らない。知らない以上、例え自動で事が全て済むとしても、一度はどんなものか説明する必要が有る。
ちなみに、この通信機はメールや報告書を作成して送る事も出来る。
その場合は、操縦席のボタンの一つを押すと、技術の差を感じる『仮想鍵盤』と呼ばれるものを出現させる。これは『質量を持った立体映像で出来た、キーボード』のようなものだ。
このキーボードを操作して、メールや報告書の作成を行うんだが、各自が持つ端末と連動させる事も出来るので、大抵の奴はこの仮想鍵盤を使わない。
仮想鍵盤の扱いは、『緊急用、もしくは別の操作を必要とする時に使用する』で落ち着いている。
端末と連動出来るのなら、『仮想鍵盤は不要では?』と思わなくも無い。でも、今回は特殊事情で必要だった。
実を言うと、端末と連動させると、端末の情報が連動させた機体に残ってしまう。これを気にする人がたまに、特に犯罪者でいる。端末の情報を残さない為に、あえて仮想鍵盤を使用する人がいる。
何だか、言っている意味が分からなくなって来たな。仮想鍵盤に関しては、『個人情報の流出を気にするパイロット用に、別の便利な道具が搭載されているよ』程度の認識で良いと思う。
機体に搭載されている仮想鍵盤を使う機会はパイロットからすると少ないが、完全に要らないって訳でも無い。整備兵の人が使うから、決して無駄な機能じゃないのよ。
さて、通信機に関する事を飯島大佐に教えたら、オニキス(飯島大佐希望)に搭乗して軽く模擬戦を行った。
そして、模擬戦を終えてオニキスから降りたら、マオ少佐に絡まれるも、松永大佐が引き剥がしてくれた。マオ少佐の頭を掴んだままの松永大佐から、マオ少佐の操縦席の適性はどちらだったか尋ねる。
「マオ少佐の適性って、井上中佐と同じだったんですか」
「そうだ。詰め込みで訓練をすれば『ある程度は形になる』事は実証済みだ。……だが、初日だから今日はここまでだ」
そう言って松永大佐は、名残惜しそうな顔をしたマオ少佐を引き摺って、演習場から去った。
多分だけど、松永大佐は書類仕事を片付けに行ったんだろう。マオ少佐は『書類仕事を終わらせないと、操縦訓練はさせられない』と松永大佐に言われていそうなのに、名残惜しそうにしていた。
きっと、佐藤大佐や高橋大佐みたいに、動きが滑らかな機体の操縦が楽しかったんだろうね。
二人を見送ってから、自分は飯島大佐との模擬戦に付き合った。
二時間後。満足した飯島大佐と一緒に隊長室に移動した。
隊長室内では、松永大佐とマオ少佐が書類仕事に集中していた。マオ少佐は悪態を吐きながらやっており、松永大佐から煩いと注意を受けていた。
「マオの野郎。スゲェ量の仕事をやってんな」
「朝に比べると五分の二ぐらいは減りましたよ」
「……あれだけやって、五分の二しか減っていないのか」
マオ少佐の仕事量を知って、飯島大佐が慄いていた。慄く程の事なのか?
「松永大佐が言うには、自分が担当すると六時間ぐらいで終わる量らしいです」
「星崎の処理ペースは速いもんな。星崎でそのペースって事は、あいつは雑務をやっているのか」
「聞こえてんぞ」
「わりいな」
飯島大佐の適当な謝罪の言葉は、マオ少佐には届かなかった。マオ少佐は不満顔のまま、飯島大佐に問う。
「何しに来たんだ?」
「帰る前の挨拶だ」
「さっさとして帰れ」
「マオ。お前いい加減にしねぇと、松永と二者面談になるぞ」
二者面談について再度言及されて、マオ少佐は昼間とは違い、口をへの字に曲げた。そのまま何も言い返さずに、マオ少佐は書類仕事に戻った。
飯島大佐は松永大佐の邪魔にならないように、短い挨拶を交わして去った。飯島大佐を見送ってから、自分も資料作成に取り掛かった。
そして本日の終業時刻になった。
マオ少佐は、仕事を半分近く終わらせた。時間に敗北し、全て終わらせる事が出来なかったと気づいたマオ少佐は、机に突っ伏した。そのままピクリとも動かない。
「今日の就業はここまでとする。明日以降の始業時刻は九時だ。マオ少佐。遅刻せずに必ず来るように」
「……分かった」
「食堂の食事は四時間が経過すると、別のところに運ばれる。食事はそれまでに取るように」
「へーい……」
マオ少佐は机に突っ伏したまま、元気の無い返事を返した。そして、マオ少佐は突いても声を掛けても、今度こそ返事も反応も返さなくなった。
まるで屍のようだ。
このままマオ少佐を放置して良いものか考えたけど、松永大佐に手を引かれて一緒に食堂へ移動した。
マオ少佐の異動初日は、こうして終わった。定例会議が近いので明日以降も大変だけど、頑張れとしか言えん。
食堂で夕食を取りながら明日以降の事について、松永大佐と打ち合わせを行う。
打ち合わせを行いながら、クリスマスについて一瞬考え、年末はどうなるのかと思う。
年末について翌日の昼に松永大佐から教えられ、夕方にマオ少佐を隊長室に残して支部長の許へ行き詳細な説明を受けた。支部長の顔が深刻そうだったので、この時に自分も幾つかの提案をした。
提案と年末の予定を決め、年明け辺りにルピナス帝国を訪れたいとお願いする。その際、十月に貰った差し入れの返礼品をセタリアに贈りたいので、支部長にお酒の代理購入をお願いした。
「星崎。返礼の品は酒で良いのか?」
「はい。ブランデーとウイスキーとリキュールの呑み比べセットとかで大丈夫です」
「そうなら、こちらから接待交際費として購入しよう。星崎が言っている差し入れの品と言うのは、ハムとお菓子とジュースの事だろう? 我々も口にしたのだ。日本支部から出そう」
「大丈夫なんですか? 日本支部のお金を使って」
「情報の返礼とでも言えばどうにかなる。こちらのものをどう思うのか知る機会にもなるから、無駄な出費にはならん」
こんな感じでセタリアへの返礼品は決まった。
差し入れ品をくれたのはセタリア以外に、サイとティスがいる。サイはともかく、ティスに関してはどうするか決めているが、セタリアに状況を聞いてからだ。
サイは今月呼び出した時にすれば良い。
翌日以降。
支部長と確認しながら資料を作ったり、サイと連絡を取り合っていると、定例会議までの日々はあっと言う間に過ぎ去り、遂に当日となった。
ちなみにだが、マオ少佐は初日以降、一度もアゲラタムに搭乗出来ていない。書類の山に埋もれたマオ少佐は、毎日悪態を吐いていた。




