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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
私はモブキャラその一の訓練生 西暦3147年6月下旬~7月中旬まで
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遠いどこかで行われた親子の会話

 黒髪の青年が硝子窓越しに下で行われている作業を眺めていた。

 何時もならば退屈そうな光を帯びている紫色の瞳は、今は楽しげに細められている。その視線の先に在るのは、右腕が半ばから欠損している銀色の人型兵器。

 この銀色の機体はこの青年の専用機だ。

「くくっ」

 青年が数日前の激しい戦闘を回想すると、喉の奥から笑い声が漏れそうになった。

 圧倒的な機体の性能差が有るにも拘らず、片腕を持って行かれて、水を差されるまでその後も激しい戦闘は続いた。

 これまでの侵攻も含めて、討ち取れなかったのは初めてだった。

 あの機体を操縦していたのは誰なのか。性別は問わない。是非とも会いたい、会って見たい。

「あぁ――」

 特定の誰かに会いたいと、ここまで思い焦がれた事は無い。

「片腕を持って行かれたと言うのに、随分と楽しそうだな」

「!? ……父上、気配を消して近づくのは止めて下さい」

 背後から気配も無く声を掛けられて、青年は驚く余り、大きくその場から飛び退ると同時に護身具に手を伸ばした。しかし、背後に立っていたのが自身の父親だと知り、護身具に伸ばした手を引っ込めて胸を撫で下ろす。

 青年と同じ紫色の瞳だが、青年と違い彼の父親は髪色が違った。青年の髪も光の当たり加減で緑色にうっすらと輝くが、彼の父の髪は肩下を過ぎる程に長く光の反射加減で緑色に輝く銀色をしている。顔立ちも似ているが青年と違ってやや童顔な為、親子と言うよりも兄弟にしか見えない。

 青年の父は、息子の隣に立って片腕の無い機体を見下ろす。予想外の機体損傷を聞き、息子の様子を見に来たが杞憂だったかと軽く息を吐いた。

「資源の確保は進んでいる。貯蔵庫も満杯になりかけているし、そろそろ手を引いても問題は無いぞ」

「父上、何を仰るのですか? 少し先に手を加えれば移住出来そうな資源を抱えた惑星が見つかっています」

 元々今回の遠征は『資源回収』を最優先としている。それなりの量の資源が回収出来たら、早々に撤退する予定だった。

 予定外だったのは、他惑星の住民と資源を巡り争う羽目になった事か。共同参加している他国は既に百年以上争っている。だが、所有する技術力の差のお蔭で我が国の被害は軽微だった。それは、我が国の参加がここ数年前だからかもしれない。

 息子からの進言に父は否を返す。

「見つかっているから何だ? 移民を出すにしても、星間距離を考えろ。どれだけ離れていると思っている? 超長距離転移門の限界距離に在るんだ」

「ですが……」

「それに、だ。その惑星の更に先に既にある程度文明が発展した惑星が存在しているだろう。仮定の話だが、移民が不満を抱えて何かを機に反乱を起こしたら、技術提供代わりに協力を求めるのはどこだ?」

 言い募る息子に起きうる可能性を告げて問う。少し考えて青年は答えた。

「……今我らが争っているもの達ですね」

「そうだ。技術の流出は、どこにどんな影響を与えるか判らない。『技術は開発者の手を離れると予想外の事に使われかねない』からな」

「それは、確か母上の言でしたね」

「よく覚えていたな」 

 会った事の無い母の言葉だが、青年は父から何度か聞かされていたので覚えていた。

「次の戦闘で撤退するような事が起きたら、いい加減引き上げも考えろ。今回の遠征は『共同で行う資源の回収』が目的であって、『資源場所の確保』では無いんだ。それに、立て直しが終わりそれなりの時間が経ったとは言え、まだ狙っている奴らは多い」

「分かりました」

 不満は有るが、父が何を懸念しているのかも知っている。何より、跡取りの己を心配している事を知っている。千年前に母を失っている父はやや過保護だが、立場を考慮せず純粋に心配してくれる数少ない人物だ。

 故に青年は素直に頷いた。

 そして、父の仕事の手伝い要請を受けて青年はその場から離れる。

 次の出撃に青年は出ない。他国からどんな報告が上がって来るのか楽しみだった。

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