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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
再会と出会い 西暦3147年11月以降
191/191

新体制の訓練学校 ①

 学長室から出て、武藤教官の案内で荷物を置きに二泊三日間の宿泊部屋へ移動する事になった。

 自分は使っていた学生寮の一室で、氷室中将は臨時教官用の部屋を使う。

 荷物を置いたら、武藤教官の案内で氷室中将と三人で校内を歩く。自分の位置は大人二人の間だ。

 事前に連絡が行っていたからか、三人で校内を歩いても大騒動にはならない。

 自分がいた頃に比べて、目に見える変化は少なそうだけど、生徒の顔が前に比べて活き活きとしている。

 特に女子生徒は武藤教官を見掛けると、ビシッと、音が付きそうな勢いで敬礼してから去った。女性教官は軽く会釈をしてから去る。

 一方、男子生徒と男性教官は武藤教官を二度見してから慌てて去った。

 男女で分かれる反応を見て、氷室中将が武藤教官に尋ねた。

「ねぇ、武藤。あんた何をやったの?」

「大した事はしていない。生徒指導室で無能な男教官と、一対一で話し合っただけだ」

「背中に般若を背負っていないのならば、大した事にはなっていないわね」

「ふっ、出すまでも無い。正面から見据えただけで震え上がるような軟弱もの揃いだったからな」

「そうだったの? あ、星崎。ここは笑うところだからね」

「……さいですか」

 大人二人の会話に入り込めず、間に挟まれる形で黙って聞いていたが、氷室中将が急にそんな事を言ったのでどう返せば良いのか分からなかった。

 ……氷室中将、滅茶苦茶大事になっているようにしか見えないんだけど。それ以前に、そこは笑うところなのか?

 武藤教官の身長がここにいるどの教官よりも、頭一つ分背が高いからか。武藤教官の笑い方が『葉巻を咥えたマフィアの女ボス』にしか見えない。

 そして、氷室中将が『眼鏡をキラリと光らせる腹黒商人』か、『女狐系悪役ブローカー』にしか見えなくなって来た。今の日本支部で中将になっている女性が『癖の無い』人物で在る筈も無いって事か。

 あるいは、向こうの宇宙でも散々見たが、『一癖持たないと利用され易い』のかもしれない。

 何と言うか、嫌な訓示だね。



 武藤教官の案内で校内を軽く一周してからシミュレータールームを訪れた。満室なのは何時もの事だが、監督役しかやらない教官が、生徒の模擬戦の相手を務めていた。

 待っている生徒は壁面モニターに映し出される映像に釘付けだった。自分達三人が入室しても誰も気づかない程に集中している。

 けれど、シミュレーターを使用している人数が何時もよりも多く感じたので、シミュレーターの数を数えてみたら増えていた。

 武藤教官に数が増えた理由を尋ねると、新学長が予算を使ってシミュレーターを増設したらしい。

「凄い熱気ね」

 士官学校ではどうなのか知らないが、氷室中将が目を丸くしている。

「そうだな。士官学校に通うやる気の無い馬鹿に、爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいの熱意だ。一部の人間のくだらない思惑で、この熱意が潰されていたのかと思うと、実に腹立たしい」

「これは殺意を抱くレベルで怒っても良いわね」

 氷室中将、しみじみと言わないで欲しいんだけど。

「訓練学校にくだらん干渉をしていた関係者は全員、新学長が一人ずつ膝を詰めて懇々と、相手が泣いて土下座をするまで話し合っていた」

 武藤教官、『懇々』の使い方が違う気がするんだけど。

 そして如月学長は、一体何をやっているんだ!?

 喜ばしい変化なんだろうけど、実際に話を聞くと絶句するような事ばかりで、反応に困る。

 支部長になんて報告すれば良いのやら。

 頭痛を覚えた時、シミュレーターの対戦を終えた一人の男子生徒が『星崎も来ていたのか!?』と自分達に気づいて声を掛けて来た。その声に釣られて、他の生徒と教官もこちらを見た。

 事前に連絡の効果か。歓迎の声が上がるけど、騒動には発展しない。やっぱり、事前連絡は大切だね。

 武藤教官が室内にいる生徒に調子を尋ねた。生徒達から活気に満ちた返答が帰って来る。特に女性生徒は生き生きとしている。

 何でも、男性教官からのセクハラが無くなったらしい。そもそも起きてはいけない事だよ。今までがどれ程異常だったかがよく分かる。

 武藤教官に話を詳しく尋ねたら、納得の回答を得た。

 訓練学校に新教官一行がやって来た当初、女子生徒にセクハラをしていた男性教官を、現行犯で見つけ次第その場で捕まえ、小脇に抱えて尻を叩いて反省させていたらしい。

 その尻叩き役が武藤教官だったと知り、効果は絶大だと納得した。

 もし、レスラーみたいな体格の人に尻を叩かれたら、どうなるかは想像に難くない。


 それよりも。

 世界を越えて、尻叩きは効果的なのね。


 呆れるべきか、感心すべきか。その二つの判断で困っていると、シミュレータールームに新たに誰かがやって来た。視線を向けるとそこには、間宮教官がいた。

「ひぃ、般若っ!?」

 けれども、間宮教官は武藤教官の姿を視認するなり、悲鳴を上げて逃げるように部屋から出て行った。

 間宮教官は何しにやって来たんだろうね。

 自分と同じ疑問を抱いたらしい氷室中将が武藤教官の気を引いてから質問した。

「ねぇ、武藤。今やって来た男の教官が悲鳴を上げていたんだけど、本当に尻を叩いただけなの?」

「む? 誰がやって来たんだ?」

「間宮教官ですよ」

 自分が首を傾げた武藤教官の疑問に答えた。武藤教官は自分の回答を聞いて小さく声を上げた。

「ああ、間宮か。アレは最初に尻を叩いた教官だ。十回叩いても反省の色が無かった。当初は回数を十回ずつ増やす事で対応したんだが、最終的に十分間尻を叩くようにしたら漸く反省した。全く、男を十分間も叩くのは、重労働だったぞ」

 そう言ってから武藤教官は声を上げて笑ったが、『成人男性を小脇に抱えなければ、重労働じゃないのでは?』と疑問が湧いた。

「武藤教官、成人男性を小脇に抱える意味は在りますか?」

「在るぞ。佐藤もそうだったが、尻を叩く時には小脇に抱えないと何度も逃げられた」

 ……佐藤大佐。アンタが原因だったんかい。と言うか、アンタも尻を叩かれていたのか。裸足で逃げ出すと言うのは、尻叩きから逃げる為だったんだね。

 武藤教官の回答を聞き、氷室中将が鈴を転がすように笑った。

「あら、そうだったの」

 氷室中将。そこは笑うところなのか? 

 呆れた視線を氷室中将に送ったら、威圧感の有る笑顔が帰って来た。笑うところなんですか。そうですか。

 乾いた笑い声を漏らしていたら、また誰かがやって来た。

「ん? 三人ともここにいたのか」

 新たな訪問者は、学長室で別れた三人だった。

 如月学長を先頭に松永大佐と、少し萎びた飯島大佐がシミュレータールームに入って来た。如月学長と松永大佐を見て、女子生徒が黄色い声を上げた。

 松永大佐は解るが、如月学長も人気なのか。意外だけど、色々と学校の改革をした人だからかもしれない。感謝の気持ちから人気なのかも。その証拠に、如月学長を見て男子生徒が歓迎の声を上げている。

 生徒の反応を観察していたら、如月学長から『対戦をしないか?』と提案を受けた。

「私と、誰が対戦を行うのですか?」

「はっはっは。提案者だから私とだよ」

「……学長とですか?」

 如月学長からの、思わぬ提案に目を丸くした。反射的に松永大佐を見たら、ここに来るまでに聞かされていたのか額に手を当てていた。その隣の飯島大佐は明後日の方向を見ていた。

 代わりに武藤教官を見たけど、こちらは興味津々そうな顔をしている。

「これでも元パイロットだ。そう簡単には負けないぞ」

そう言った如月学長は笑顔を浮かべていた。でも、シミュレーターとは言え、学長と模擬戦をやるのはハードルが高いぞ。接待か?

 反応に困っていると、氷室中将に耳打ちされた。

「星崎。手加減せずにやっても良いと思うわよ」

「良いんですか?」

「星崎は今のところ模擬戦で負け無しなんでしょう? 連勝記録を伸ばしちゃいなさい」

 連勝記録を伸ばせって言われてもなぁ。六月にクォーツと引き分けたんだけど、アレは実戦だから含まれていないのか? 氷室中将は『模擬戦で』って言ったし。

 それ以前に、『負け無し』って言われても覚えていない。

「氷室中将。非常に言い難いのですが、模擬戦後に色々と言われる事が多かったので、戦績は覚えていません」

「……今日から戦績を覚えましょう。先ずは、そこの学長に勝ちなさい」

 氷室中将は自分の肩を掴み、凄みを足した笑顔を浮かべた。

「十分ぐらい『弄んでから捨てれば』大丈夫よ」

「あの、氷室中将。そこは『撃墜』と言うのでは?」

「細かい事は良いの。とにかく十分ぐらいで撃墜しなさい」

 氷室中将は念を押すように笑みを深めた。ついでに肩を掴む力も強くなった。

 色々と言いたい事と突っ込みどころしかないが、どうやら自分に拒否権は無いらしい。

 提案者の如月学長はノリノリだし。最後の抵抗として、他の生徒の邪魔にならないかと聞いたが、『席は予約済みだから大丈夫』と返されてしまった。『計画犯か』と、内心で突っ込んだよ。

 こうして、なし崩しに如月学長との模擬戦をする事になった。


 そして、十分後。


 氷室中将の言葉通りに、模擬戦は十分で終わらせた。

 五分もの時間を掛けて如月学長の動きを覚え、残り五分でどうにか撃墜した。

 自分の記憶が正しければ、如月学長は在学中にシミュレーターで戦ったどの教官や生徒よりも強かった。

 動きの種類が多くて読み難くく、スピードのアップダウンも激しかった。急停止と急加速の使い分けは見事で、『シミュレーターで可能な動きを完全に覚えている』としか思えない戦法だった。

 ただし、比べてはいけないんだろうけど、実際に交戦したクォーツと比べると動きの予備動作が大きかった。そのお陰で攻撃パターンが読めて、どうにか撃墜出来たともいえる。

 如月学長の予備動作の癖は種類も豊富で、二択・三択にまで絞っても、どれか判らない事が多く、半分ぐらい直感で対応する事になった。直感対応で何度もヒヤッとした。

 勝ったけど、辛勝って感じだ。

 観戦していた生徒は興奮し、教官達は戦法について議論している。

 如月学長は『やっぱり負けたか』と呟いていた。やっぱりって何だろう?

 次の対戦相手が登場する前に、シミュレーターからこっそりと離れて、氷室中将のところへ戻る。

「本当に十分で撃墜したのね」

 氷室中将は目を丸くして感想を述べた。けど、その言い方は無いと思う。

 でも、氷室中将の『十分ぐらい弄んで』の発言の解釈は、『十分以上の時間を掛けてから撃墜すれば良い』とも取れる。流石に十分で終わらせたのは、駄目だったかもしれない。

 けれど、十分以上もシミュレーターを使うと、他の生徒の邪魔になりそうだ。

「星崎の成績は聞いていたが、実際に見ると見事だな」

 武藤教官が零した言葉に、『えっ!?』と声が出そうになったけど、教官の権限を使えば調べる事は可能だ。飛び級する生徒なんて滅多にいないから、調査を受けるのはある意味当然かもしれない。

 そんな事を考えていたら、飯島大佐に呼ばれた。

「星崎。何も十分で撃墜しなくてもいいだろう」

「もう少し、時間を掛けた方が良かったですか?」

「そうじゃない。そうじゃねぇんだよなぁ」

 頭を抱えた飯島大佐から出て来た言葉に、内心で首を捻る。

 こう言う時の模擬戦って、もう少し時間を掛けた方が良いのか? でも、十分以上も対戦してもなぁ。

 実際の戦闘で、特定の一機と何分も戦闘を行う機会は少ないから、その調子でやっていたんだけど、やっぱり駄目なのか?

「星崎。何を思ったのかは知らないが、お前の感性は色々な意味でズレている。こう言った場では、観戦者の操縦方法の参考になるように少し時間を掛けて戦闘を行った方が良い。観戦者がいる場で実戦を基準に考えるな」

「えっ、そうなんですか?」

 松永大佐の言葉を聞いて、思わず声を上げて驚いてしまった。目から鱗だわ。けれど、同時に得心が行った。

 ……そっか、ルピナス帝国基準が駄目だったのか。


 ルピナス帝国の武官が行う戦闘訓練は、常に『最悪の状況の戦闘』を念頭に置いている。

 そのせいか、訓練内容も非常にハードだ。その最たる例が、先輩が後輩を襲撃する『強襲訓練』だろう。

 いや、公開演習とかもやるけど、決まった『戦闘の型』を披露する以外に、刃を潰した剣を使った実戦さながらの模擬戦を行う事が多い。

 この模擬戦で負傷者が出た事も在る。負傷と言っても、その内容は打撲と鞭打ちが殆どだが、負傷した事には変わりない。

 この公開演習で戦闘の型を披露するのは『他国のお偉いさん向け』で、模擬戦は『民衆向け』なのだ。

 最初に誰が思い付いたのか知らないが、派手に実戦を行っているところを民衆に見せて、『不慮の事故は完全に防げない』現実の厳しさを知らせるのが目的らしい。

 入隊を考えるのならば、この現実の厳しさを知って欲しい。そんな意味も含まれているらしい。

 実際の訓練は地味で厳しい。華々しいところだけを見て入隊して、地味で厳しい訓練に付いていけない奴はお断りの意味の方が強いかもしれない。訓練に付いて行けなくて、すぐに辞める奴は要らんと言う事だ。

 一方、戦闘の型の披露が他国のお偉いさん向けなのは、『こんな感じで高等技術を必要とする操縦が出来るよ』と見せるのが目的だ。要するに、高い操縦技量を持ったものを保有していると広める為だ。

 型と言っても、実際に行うと割と激しいので、広告としては役に立つ。


 ルピナス帝国所属の武官の訓練内容について少し思い出した。

 確かにこのノリを、新米相手に行うのは駄目だな。

 それに、向こうで武官を目指す奴の殆どは、幼少期より一定の訓練を『家族か一族のもの』から受けている事が多い。所謂、武官家系出身者か、戦闘に適した種族か獣人族の家系出身者が、これに当て嵌まる。

 一方、身内から訓練を受けていないものが不利な状況じゃないかと思わなくも無いが、こちらに属する連中は自主訓練として筋トレをやっている。

「鍛えた筋肉は全てを解決する」

 ルピナス帝国歴代の『首都防衛支部長』の何人かがそんな名言(迷言?)を残して体現したので、皆揃って筋トレを行うのだ。

 そんなルピナス帝国に対して、訓練学校の生徒が入学前にその手の訓練を受けているかと問われれば、答えは否以外に無い。

 一つ学んだと思い、頷いていると松永大佐に頭を掴まれた。

「星崎。何を思い出した?」

「いえ、誰かが『鍛えた筋肉は全てを解決する』と発言していた事を思い出しただけです」

 松永大佐からの質問に素直に答えたら、近くにいた大人達が何故か揃って、武藤教官を見た。視線を集めた武藤教官は仏頂面になった。自分の頭は回答するなり解放された。

「確かに、その通りね」

 氷室中将の言葉に、皆が同意したかのように頷いた。



 このあと、他の生徒や教官と対戦をする事はなかった。

 シミュレータールームを出て、今度は視聴覚室へ移動する。

 なお、自分と対戦したい生徒は今日の夕食後に申請を出し、明日と明後日の二日間に分けて行うと、シミュレータールームから出た直後に如月学長から教えられた。

 ……何故自分だけ、訓練学校を訪れる情報が出回っていないんだ?

 奇妙に思ったが、如月学長が言うには『サプライズがあった方が良いだろう?』との事だった。

 自分はサプライズ扱いなのか。サプライズは自分よりも、氷室中将か松永大佐の方が適任だと思うんだが。

 勝手に予定は決められているし、思うところしかないが、自分に関する情報が出回っていない理由は知った。

 夕食時が大変な事になりそうだが、こればかりは仕方が無い。

 如月学長の案内で移動途中に、今後の予定について聞かされた。

 

 今日は、到着時点で最終授業中だった事から、校内を見て回り、用意されている映像を見るだけになる。

 明日の午前中は、二手に分かれて高等部と中等部の授業を見て回る。午後は高等部の生徒とシミュレーターの対戦だ。

 明後日の午前中、講堂で高等部の生徒向けに氷室中将が講演を行う。その間、自分は中等部のシミュレーターで対戦を行い、十五時頃にツクヨミへ出発する。

 

 視察と授業の手伝いで来た筈なのに、この日程で良いのかと思ってしまうが、如月学長が事前に準備した授業風景を撮影した映像が大量に存在する。何でも、支部長への報告用に撮影したものらしい。

 この映像が大量に在る為、授業視察は明日の午前だけになった。

 その代わりに、これから視聴覚室で長時間映像を見る事になった。映像は大量に存在したが、ランダムに選んで、四人で手分けして視聴する。

 ここでランダムに選ぶのは……疑うようで悪いけど、如月学長と武藤教官が選んだものに『映像に加工がされていないか』と疑惑を抱いてしまう。

 撮影者が学校側なので、撮影された全てに映像の加工を疑ってはキリが無い。そこで、どの映像を見るかランダムに選ぶ事になった。意味が解らないが、如月学長が選んだものを見るよりかは疑惑を抱かなくて済むと言う事だ。

 逆を言うと、選んだ映像に如月学長が待ったを掛けたら、それには見られては困るシーンが含まれると言う事になる。

 自分はかつていたクラスの映像を見る事になった。それでも、日付はランダムだ。

 適当に選んだ日付と言っても、ここ二ヶ月間に撮影された映像だ。最後に授業を受けたのは七月なので、違いがあれば判る。

 機器を操作して、ランダムに選んだ映像を見る。

 教壇に立つ教官が知らない人である事以外に、授業風景に変わりは無いが、授業の内容は変わっていた。

 以前以上に、実戦を想定した授業内容で聞いている生徒達は解らないところが有れば、その場で挙手して質問をしていた。教官は快く質問に回答していた。


 以前の教官だったら、『授業が終わってから聞く』と言って、授業中に質問の受付を拒んでいた。そして、授業が終わり次第、教官は質問から逃げるように教室から去ってしまう。職員室にまで追い掛けて質問をしても、『また別の機会に回答する』と言って職員室から追い出される。

 一年生の頃、休校日に授業で判らないところを聞きに行き、『また今度』を五回ぐらい受けた。

 確かこの時、『教官の仕事はやる気の無い適当な授業を行って、生徒を疑問漬けにして、女子生徒にセクハラして遊んで、生徒に仕事を押し付けて楽をする職業なんですか?』と真顔で言った。

 職員室内がお通夜みたいな空気になったけど、無視して退室したっけ?

 教官が質問に回答してくれないから、生徒は先輩後輩間で教え合うようになっていた。教官の対応が御座なりだからか、先輩後輩間の結束は強かった。

 これ以降、解らないところが出現すると、自分は教科書を何度も読み直して、自力で理解を深めていた。

 

 一つの映像の視聴を終えると、如月学長から感想を求められた。

 自分は『授業中に教官が生徒の質問に回答してくれるなんて凄い進歩ですね』と、素直な感想を述べたら、如月学長の顔がハッキリと引き攣った。如月学長と共に自分の感想を聞いた武藤教官は眉間を揉んでいる。

 どうやら、一番言われたくない感想だった模様。

 若干無邪気過ぎた感想だったかなと、ちょっと後悔した。

 気を取り直した如月学長から『今までが異常だっただけだから気にするな』とフォローの言葉を貰った。こんな言葉が出て来る時点で、色々とアレだと思う。けれど、その言葉通りだから何とも言えない。

 下手に言葉を返すよりも、別の映像を視聴すると言って如月学長と武藤教官の視線から逃げる事にした。


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