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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
再会と出会い 西暦3147年11月以降

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見え隠れする大人の不満と不穏

 昼食が終わると、佐々木中佐と井上中佐を始めとした室内にいる殆どの大人が縁日について話し合い始めた。又聞きすると、これから縁日に行くらしい。

 自分には今日の会議終了後の準備が残っているので行かない。食後のカフェオレを飲み終えたら演習場に向かう。無論、午後の予定を考えて松永大佐に一言言ってからだ。

 ただ、演習場で何をやるんだと方々(ほうぼう)から質問を受けて、『今日の会議終了後の予定の準備』と回答したら、嫌そうな顔をされた。何人かは怪訝そうな顔をして口を開こうとした。

「会議が終われば何が起きるか判ります。これ以上、質問をしても意味はありません」

 けれど、機を制するように松永大佐が発言した事で口を閉ざした。

 今度こそ演習場へ向かったが、興味を持った草薙中佐を始めとした五人の大人が付いて来た。

 言い分を聞くと、オニキスを実際に見たいらしい。

 邪魔にならないのなら構わないけど、松永大佐と飯島大佐に、佐藤大佐と中佐コンビがいない状況は初めてだな。時間が経てば来るかもしれないな。

 歩いて移動した演習場で、安置されているオニキスに乗り込み収納機から目的のものを取り出す。ついでに酒樽も出してしまおう。今になって確認したら全部麦酒だった。

 必要なものを全部出したらオニキスから降りて、木製コンテナの蓋を開ける。端末と接続をして省エネルギー状態で起動させ、設定類を始めとした幾つかを確認する。

 実際に使うには、オニキスと接続しないとエネルギーが足りないかな。複数の炉石を保有するオニキスでなければならないと言う事は無いが、アゲラタムでも可能と言う事を明かす必要は無いだろう。

 この手のものには、制限が在る事だけを伝えれば良い。無断で使われても迷惑だし。

 仮に伝えても、文字が読めなければ使えないか。

 自己完結してから電源を落とし、コンテナの蓋を閉めた。

 コンテナを収納機に戻す為に再度オニキスに乗り込もうとしたところで、一緒に来たやや長髪の男性将官から質問を受けた。乗り込む足を止めて質問に対応する。

「星崎。この樽は何だ?」

「中身はお酒です」

「これ全部?」

「はい。全部ビールです」

『おおっ……!』

 男性陣は歓喜した。ワインじゃなくてビールなのに、女性陣も嬉しそうな顔をしている。

 偏見を持ってしまいそうだが、軍人ってお酒が好きなのね。大人達は酒樽の数を数えて、何人で一つの酒樽を消費するか話し合っている。

 ルピナス帝国の武官も大酒飲みが多かったが、貴族階級の武官が多かったので消費されるお酒はワイン系が中心だった。平民階級の武官は麦酒系よりも、アルコール度数の強い蒸留酒を好んでいた。

 自分が知る範囲で麦酒系を好むのは、ティスだけだ。あいつは付き合いでしかワイン系を飲まない。

 オニキスに乗り込み、コンテナを収納機に仕舞ってから降りる。

 誰も見ていない酒樽に近づいて表示を見た。ティスが好んでいる銘柄の麦酒だった。

 セタリアも人工木で作ると何か変わるとか言っていたっけ。

 酒樽を囲んで盛り上がっている大人一同を見て、サイからもお酒を貰っていた事を思い出す。

 月面基地で通信した時に聞けば良かったけど、情報の行き違いが起きていたのか。あの時、サイは自分に向かって『今どこにいる?』と言った。

 後回しにされているところに憐れみを感じるが、自分もどうしてあの時に聞かなかったんだっけ?

 ターゲスを優先しちゃったからか。あるいはセタリアとすぐに交代出来ないから切ったんだったか。もしくは、その両方か。

 ここで気掛かりなのは、サイとティスの仲の悪さだ。

 ティスってたまにサイの名前を無断で使うんだよね。勿論、実害の無い範囲で行われている。でも事後報告なんだよなぁ。

 ま、今日会うから良いか。

 本人に直接会って真偽を確かめるのが一番だと、一人納得した。



 まだ見学がしたい大人達を演習場に残し、自分は食堂へ戻った。食堂に残っていた松永大佐と飯島大佐、工藤中将の三人に一緒に移動した大人達は演習場にいる事を報告した。

 松永大佐はオニキスに無断で搭乗されないか心配したけど、ロックが特殊なので搭乗は不可能だ。仮に搭乗出来るとしても、アゲラタムかジユのどちらかになる。

 でも、その二機は試験運用隊が保有している機体だ。常識を考えると、試験運用隊の隊長の松永大佐に無断で搭乗するとは思えない。


 そう思っていたよ。


 食堂で松永大佐と飯島大佐の二人に、午後の会議で質問を受けそうな事について確認を取っていたら、奇妙な振動を感じた。食堂でのんびりとしていた工藤中将も、何事かと首を傾げている。

 顔を見合わせて食堂にいた大人三人と一緒に演習場へ向かうと、そこでは赤いアゲラタムが倒れていた。不幸中の幸いは一体だけか。

 出したままにしていた酒樽は、一個残らず、壁際に移動されていた。酒樽は人工木で出来ているので、アゲラタムの一発を受けても壊れないけど、見た目はただの木材にしか見えない。

 そして現在、演習場に残っていた五人は床に正座して、松永大佐に何が起きたのか、たどたどしい弁明交じりで説明している。

 主に説明を行っているのはアゲラタムの操縦を試みた草薙中佐だ。他の面々は草薙中佐を擁護している。

 どんな言い訳をしようが、無許可で実行するのは良くない。

 飯島大佐と工藤中将は『無許可で実行した』点だけを責めている。

「言い分はどうあれ、この一件は佐久間支部長に報告をします」

「そうだな。こいつの無断操縦をしたんじゃ、支部長に報告をしない訳にはいかない」

「く、工藤!」

「あのな。支部長が決めた事に不満を抱いても、意味が無い事くらいは解ってんだろ? 先月の作戦への投入も直前に決まった事で、誰が乗るかも支部長が決めたんだ。これから追加で、誰が乗るか話し合うって時なのに何やってんだよ」

「それは……」

 工藤中将に言われて、男性将官は言い返せないのか口籠った。

「工藤中将。佐久間支部長に報告して、午後の会議で最初に処罰内容を決めて貰いましょう」

「おう、報告したぜ。とりあえずそこの五人は支部長の執務室に来いってさ」

「「「「「げっ!?」」」」」

 飯島大佐は自身に注目が集まらない隙に支部長に報告していた。呼び出しが決まり、五人揃って嫌そうな声を上げた。しかし、早く行かないと不味いと判断したのか、五人は慌てて演習場から去った。

「監督役として残っていた方が良かったですか?」

 五人を見送ってから呟いたが、飯島大佐から否定された。

「星崎が止めろと言っても、あいつらは止まらねぇ」

「そうですか」

 階級の上下関係でごり押しする人達だったのか。何か意外だな。

「星崎。気を悪くするなよ」

「それでは『これまでは作戦前だったから我慢していた』とも取れます」

「……そうだ」

 意味を察して確認を取ると、工藤中将はため息混じりで肯定した。

 作戦前だったから我慢していたか。 

 それでは『作戦が関係無ければ我慢出来ない人』とも取れてしまう。

 作戦が終わったのに、先行きの怪しさには天井を仰ぐしかなかった。



 倒れていたアゲラタムを起こして定位置に戻し、食堂へ戻った。

 食堂には縁日から戻って来た数人がいて、その中には大量のお菓子が入った紙袋を抱えた佐藤大佐もいた。でも、何人かはまだ戻って来ておらず、中佐コンビの姿も無い。

「戻って来る途中で、血相を変えた五人を見たんだが、何か起きたのか?」

 佐藤大佐がここに戻って来る途中で五人を見かけたそうだ。慌てて去ったところは見たが、途中で事態のヤバさに気づいて血相を変えたのか。

 それを聞いて軽く嘆息を零した飯島大佐は、演習場で起きた事を食堂内にいた全員に説明した。説明には松永大佐と工藤中将も補足を入れる。

 その間に自分は三人分のブラックコーヒーを淹れて戻った。自分用のカフェオレは配ってから作る。

 大まかな説明を終えた三人にコーヒーを渡し、厨房へ向かった。

 厨房のカウンター越しに見た、説明を聞き終えた面々は揃って五人の行動に呆れた。

「あの五人は何やってんだ……」「つか、清水は大丈夫なのか?」「さぁ? その辺は支部長が決める事だ。今回の一件で草薙と森も範囲に入るかもな」「草薙と森を含めたら、士官学校卒のパイロットの纏め役がいなくなるぞ」「訓練学校の方は各学年に纏め役が必ず一人いたから気にしなかったが、草薙と森が清水の方に含まれると、纏め役がいなくなるのか」「うげっ、また三派閥に分かれるの?」「先代上層部派の掃除は済んでいるから、真っ二つか?」「一番駄目な展開じゃねぇか!」「森の代役はすぐに見つかるけど、草薙の代役が出来る奴を引き込むのか?」「どんな無理難題だよ!?」「草薙だって、何度も話し合ってから決めたんだぞ!」

 頭を抱えて、何かに気づいて、嘆いて、呻いて、等々の反応を大人達は見せた。

 何か大事になって来たなと、作ったカフェオレを注いだマグカップを手に厨房から席に戻る途中で思った。

「こんな時に内部分裂が起きたら、半年後に確実に潰れそうですね」

「星崎が言うと、現実味が出るな」

 大人達の反応を見て思わず、半年後にやって来るであろう犯罪組織との戦闘で起きる結末を思い浮かべてしまった。この分だと負けそうだなと、思っていたら飯島大佐から突っ込みを受けて、ふと気づく。

「……あれ? セタリアの十点満点中三・一評価は正解? サイとティスの評価も同点で落ち着く?」

「星崎。あそこの面々を追い詰める事を言うんじゃない」

 セタリアが下した評価について考えていたら、松永大佐がそんな事を言った。疑問に思いマグカップを傾ける松永大佐を見たら、顎を前後に動かす動作で方向を示された。

「俺ら、そんな低評価だったの!?」「そんな低評価で、向こうはよくもまあ手を貸す気になったな」「何なのその点数!? 私だったら間違い無く見捨てるわよ!」「向こうの懐が深いのか、支部長が上手くやってくれたのか、分からねぇ」「忖度込みでその点数ならマジで凹む」 

 松永大佐が顎で示した先の大人達はギョッとするか、打ちひしがれていた。本国の方は『点数を付ける価値無し』だけど、言わなくても良いか。

 反応が大袈裟過ぎる気もするけど、支部長と似たりよったりだったっけ?

 ちょっとした阿鼻叫喚の地獄絵図が始まったところで、タイミング良く(?)縁日に向かった残りの面々が戻って来た。中佐コンビもその中にいたけど、井上中佐は一際大きな荷物を抱えていた。

 一行は食堂に入るなり、繰り広げられる惨状を見て顔を引き攣らせて、松永大佐に説明を要求した。

『はぁっ!?』

 説明を受けた一行は驚きの絶叫を上げるか、唖然として固まった。

 その中でも、胸の上辺りで髪を切り揃えた何時ぞやかの女性将官は頭を抱えていた。

「要は一体何をやっているのよ!?」

「知らねぇよ。んまぁ、作戦が終わって、溜まっていた何かが爆発したんだろ」

「何で今になって爆発させるのよ!? はっ! 松永大佐。支部長のところに居るんだっけ?」

 女性将官は金切り声を上げて慌てて、何かに気づいて松永大佐に詰め寄った。

「氷室中将。午後の会議で会うのですから、今から行っても意味は有りませんよ」

「意味の有無じゃないわ。私は要の元上官なの。元上官として一言言わないと、要の怒りの矛先が星崎に向かいかねないわ」

 女性将官もとい、氷室中将はそう断言した。と言うか、『要』って誰? 話の流れを考えると、草薙中佐の事っぽいな。てか、何で怒りの矛先が自分に来るの?

「星崎、草薙が向かって来たらどうする?」

 要は草薙中佐の名前で合っているのか考えていたら、いきなり名前を呼ばれた。

「……へ? あ、そうですね。アゲラタムで模擬戦でもやりますか?」

「おめぇが乗ったら確実に勝つだろ」

「では、シミュレーターの対戦ですか?」

「それが最良か」

「いや、草薙が負ける未来しか見えねぇから却下」

 パイロットが納得してくれそうな提案をしたが、別の人に却下された。

 では何が良いんだろうと考えたが、中佐コンビが間に入った。

「星崎。真剣に考える必要は無いぞ。支部長の判断が先だ」

「そうだぞ。それよりも、土産だ」

 間に入るなり、井上中佐は大きな荷物を自分に差し出した。

「ええと、お土産ですか?」

 大きな荷物の正体は紙袋だった。受け取ると、大きさの割に軽い荷物だった。

 井上中佐にお礼を言い、一言断りを入れてから紙袋の封を開けて中身を取り出す。やたらと大きな紙袋の中身は、全長五十センチぐらいの大きさの、デフォルメされた黒猫のぬいぐるみが出て来た。

 持った感触と布の手触りの良さから、『人を駄目にするビーズクッション』を思い浮かべた。マジで似たような感触のぬいぐるみだ。抱き枕にもなりそうだけど、ぬいぐるみを貰うのは久し振りだ。ぬいぐるみを一頻り撫でてから、ふと、疑問を抱いた。

「どうしたんですか、これ?」

「佐々木と射的で勝負して取ったんだ」

「勝負と言っても、互いに十個取ったところでストップが入ったからそこで切り上げた。佐藤大佐と違って、俺らは出禁対象外だったから出来た」

「どうして佐藤大佐は出禁対象になったんですか?」

「知らないのか? 佐藤大佐は日本支部一の射撃の名手だぞ」

「……そう言えばそうでしたね」

 ……在ったな、そんな設定。

 首を傾げた佐々木中佐から齎された情報を聞き、ぬいぐるみを膝に乗せて頭を撫でながら、思わずそんな言葉を言いそうになった。

「佐々木、井上、俺が見た時に、射的の景品にぬいぐるみは無かった筈だぞ」

 そんな射撃の名手でもある佐藤大佐は、大きいぬいぐるみを見て何故か不満そうな顔をした。大物を撃ち落としたかったのか?

「佐藤大佐が去ってから追加されたんですよ」

「そうだったのか。つまらん」

 やっぱり大物を取りたかったのか、佐藤大佐は抱えていた紙袋から、お菓子の箱を取り出した。

「佐藤大佐は菓子を全部撃ち落とす気だったでしょう」

「違う。縁日に行けない奴に渡す用とでも言って取る気だった」

「見え透いた嘘を吐いてどうするんだ? そんな事を言うんだったら持っている菓子を配れよ。何で大事そうに抱えているんだ?」

 飯島大佐から指摘を受けた佐藤大佐は、取り出した菓子箱を紙袋に戻した。そして、紙袋を抱え直し、一分ほど目を泳がせてから、キリッと表情を引き締めて言った。

「……これは大事な戦利品だ」

「配る気が無いなら嘘を吐くな!」

 飯島大佐の突っ込みに大人一同は頷いた。戦利品を取り上げられた佐藤大佐は絶望顔になった。


 

 飯島大佐が佐藤大佐の戦利品を取り上げて大人一同に配っていると、支部長の許へ向かった五人が食堂に戻って来た。五人は疲れ切った顔をしている。

「え? 何この状況?」

 五人の内の一人の男性中佐が食堂内の状況を見て困惑した。残りの四人も少し遅れて室内状況を把握して困惑した。

 お菓子を配る飯島大佐と嬉々として受け取る大人達。絶望し切った顔で床上で四つん這いになる佐藤大佐。長椅子に座り、大きな黒猫のぬいぐるみを膝に乗せた自分。自分の隣で我関せずと言った顔でコーヒーを飲む松永大佐と、近くに座っている飯島大佐と工藤中将。

 経緯が判らないと確かにカオスだな。

 そんな状況を見て、五人は困惑を深めていた。だが、一早くに困惑から抜け出した草薙中佐が自分に近づいて来た。草薙中佐の険しい視線は、自分が抱えているぬいぐるみに固定されている。

「ねぇ、星崎。そのぬいぐるみはどうしたの?」

「井上中佐から頂きました。佐々木中佐と行った射的の勝負で獲得したそうです」

「……は? 射的の、勝負?」

「はい。そう仰っていました」

 険しい視線は消え、草薙中佐の表情は一転して呆けたものに変わった。何がしたかったんだこの人?

 そこへ、眉を吊り上げた氷室中将がやって来た。

「ちょっと、要!」

「っ、げふ、ひ、氷室中将!?」

 明らかに怒っている氷室中将の登場で、草薙中佐は言葉と一緒に息を呑み、一瞬息が詰まったかのような音を漏らした。それでも、姿勢を正す事は忘れていない。てか、『要』って草薙中佐の下の名前だったのか。

 直立不動となった草薙中佐を見て、学長を連れて行く松永大佐を見た訓練学校の教官達を思い出した。

「星崎。今、何を思い出した?」

 九月の出来事を思い出していると、コーヒーを飲んでいた松永大佐からジトッとした視線を貰った。

「訓練学校の教官達です」

「何故それを思い出した?」

「草薙中佐の姿勢の正し方が、九月に訓練学校に出向いた時の教官達と似ていました」

「……あれは私以外にも、飯島大佐と佐藤大佐がいたからだろう。大佐階級の人間が一度に三人も来たら、どこも『ああ』なるぞ」

「それは、学長の首根っこを掴んでいてもですか?」

 最も気になった部分を口にすると、松永大佐は大仰に頷いた。

「同じだ」 

「絶対、違う」

 傍で聞いていた工藤中将から否定が入った。

 自分と松永大佐のやり取りを行っていた間も、氷室中将と草薙中佐のやり取りは続いていた。

 狼狽える草薙中佐と、叱責する氷室中将。その叱責は草薙中佐と一緒に行動していた他の二人の男性中佐や男女の将官にまで飛び火した。飛び火した四人は草薙中佐を庇ったが、やらかしの内容が内容なので、擁護し切れていない。

 氷室中将は『何故止めなかった?』とか、『唆したのか』とか、物凄い剣幕で五人に詰め寄っている。

 その光景に割り込む事は不可能なので、黙って残りのカフェオレを飲む。そして、飲み終えてから気づく。

 このあと会議に参加するんだった。今から部屋へぬいぐるみを置きに行くか、どうするか悩む。

 過去の経験上、部屋にこの手のものを置いておくと、次に見た時にはズタズタにされる事が多かった。

 駄目にされない為にも、この手のものは欲しがらなかったし、礼儀で受け取っても見せしめのように自分と贈ってくれた人の前で裂かれたりと、碌な思い出が無い。

 それでも、今回は受け取った。

 紙袋の中身が判らなかったと言うのもある。でも――あ、今は手元に端末が在る。端末の収納空間は一杯なので、ちょっと整理しよう。問題は整理する場所か。空き部屋を借りてやるか。

 思い立ったら即行動。松永大佐に相談して、空き部屋を使いたいと申し出たら『ここでやれ』と言われてしまった。思わず首を傾げたら、興味を持った工藤中将に『人前で出来ないのか?』と問われてしまった。

 可能か、不可能かを問われたら『可能』だけど……外見が地球にもあるものを出せばいいか。

 そう判断して端末から幾つかのものを取り出す。嵩張る奴だけで良いか。

 包丁一式が入ったケース、木剣、鞭、あっ、ハリセン(人工紙製で電導性の高い合金製の金属板を仕込んでいるので、使い方次第では静電気を利用した一撃が放てる)もあったな。他には、ハリセンと同じ原材料で作った名刺サイズのカード(使い方次第ではカッターナイフの代わりになる)百枚入りのケース五つで良いか。

 適当にテーブルの上に出してから、貰ったぬいぐるみを端末に仕舞う。

 次にやる事は仕舞うものを選ぶだけだ。ハリセンは制服の下に隠し持っても良いかもしれない。いや、ハリセンよりも鞭をベルトのように腰に巻き付ける?

「……星崎。いきなりヘンテコなものテーブルの上に出すな」

「? ヘンテコですか?」

 どうしようかと考えていたら、テーブルの上に出したものを見て大人一同は絶句していた。絶句から一早く復帰した工藤中将から注意を受けて、何がおかしいのか分からず首を傾げた。

「何で包丁とか木刀とか鞭とかハリセンとかカードケースが出て来るんだよ!? てか、誰が使うの!?」

「これは全部、私物ですよ?」

 全て私物だと伝えると、顔を引き攣らせた飯島大佐が、テーブルの上に並ぶ品々と自分を見比べた。

「星崎の、私物? これ全部が?」

「はい。……あ、そのカードはカッターの代わりになる程度に鋭いので、ケースから出さないで下さい」

「ちょっ、先に言え!?」

 見方を変えると名刺入れにも見えるカードケースを手に取り、文房具のように眺めていた工藤中将に注意事項を口にした。工藤中将は血相を変えてカードケースをテーブルの上に戻した。

「星崎。安全の為に、出した私物の説明をしろ」

「? 分かりました」

 何とも言えない微妙な顔をした松永大佐に肩を掴まれて、私物の説明を要求された。貸し出す予定は無いのに、安全の為ってどう言う事?

 周囲を見回すと全員が首肯した。

 こうして改めて見ると、いないのは支部長と一条大将に、大林少佐と高橋大佐と、神崎少佐か。この五人に説明は不要なのかと問いたいが、了承してしまったので簡単に説明する。

 説明を終えたら、最初に包丁を端末に仕舞った。カードケースは制服のポケットに仕舞おうとしたら、松永大佐に取り上げられそうになったのでこれも端末に仕舞った。

 残りは木剣と鞭とハリセンだけだ。

 鞭を手に取ったら『物騒なもんを持ち歩くな!』と、松永大佐以外の男性陣から突っ込みの声を受けた。

 突っ込みの合唱に参加しなかった女性陣は、『使ってみたい』と言わんばかりに興味津々そうな顔をして、草薙中佐を中心に鞭に熱い視線を送る人が何人かいた。

 ……本当はモーニングフレイル(隕鉄製)も有るんだけど、これは出さない方が良いな。

 男性陣が早く仕舞えと騒いだので、鞭も端末に仕舞った。残りの容量を見ると、あと一つは仕舞えそうだ。

 残る二つは木剣とハリセンだ。

 木剣の全長は百二十センチで、ハリセンの全長はその半分の六十センチ。

 嵩張るのは広がるハリセンだが、持ち手の先端部分に包帯のように巻き付ける紐がある。この紐を巻き付ける事で、長さ六十センチの紙の棒になる。

 対して木剣はとにかく長い。材質が人工木なので、使い方次第ではアゲラタムの装甲を凹ませる程度の事は可能だ。実際にこの木剣を使い、新人が操縦するアゲラタムを操縦不能状態に追い込んだ事も在る。剣身の厚みは十センチと、厚めなので非常に割れ難い。

 長さについて悩んだ末に、木剣を端末に仕舞った。

「星崎、その木刀は仕舞うのか?」

「木刀では無く、木剣ですよ。制服の下に隠して持ち歩けないので、木剣は仕舞います」

「普通は制服の下に隠して持ち歩くもんじゃないだろ」

 男性陣の誰かが発言した一部に訂正を入れてから回答する。ハリセンに手を伸ばしたが、寸前で松永大佐に先を越された。松永大佐はハリセンを軽く振った。

「金属板が仕込まれていると聞いたが、持って見ると軽いな」

「松永。ハリセンを眺めて黒い笑みを浮かべるな」

「高橋大佐が馬鹿な事を言った時に備えて、得物が欲しかっただけです」

 松永大佐は一体何を想定しているのだろう。それにしても、松永大佐ってハリセンが似合うんだね。

「ハリセンを得物呼ばわりするのはお前だけだ。星崎、これも仕舞え」

「容量が一杯で、これ以上は入りません」

「……なんつうタイミングだ」

 長髪の男性将官は天を仰いだ。

 別の男性将官に先程仕舞ったぬいぐるみの代わりに、松永大佐が持つハリセンを仕舞えと言われた。

「これから使うかもしれないので私が持っています」

「お前に持たせるのが、一番危険なんだよ!」

 突っ込みの絶叫が響くも、そろそろ会議室へ向かう時間になった。

 ハリセンは紐を巻き付ければ持ち運びに困らないし、その間は紙の棒になる。なので、佐藤大佐を筆頭とした男性陣よ。戦々恐々とする必要は無いと思う。


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