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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
私はモブキャラその一の訓練生 西暦3147年6月下旬~7月中旬まで
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この顔触れで、国際会議ではなく面会なの?

 ちょっとした悪戯心で事を起こしたら、予想外のパニックになった。

 ここまでの騒動になるとは……予想外だ。

 正当防衛で見逃して貰えたから良しとするか。二度目は無いだろうけど。

「はぁ~」

 兵舎の個室。ベッドの上でゴロゴロする。

 こんな状況になっても思う事は一つ。

「早く訓練学校に戻りたい」

 呟きは空しく宙に消えた。



 佐久間支部長と会うのはこれが何回目になるのかと、共用会議室へ続く道を歩きながら心の中で数える。四回目だった。訓練生としては異常だろ、コレ。

 イタリア支部の痴漢騒動からさして間も置かずに、再び支部長に呼び出された。

 呼び出しの内容は『痴漢の上司に当たる人物から面会を要請の通知を受けた』である。これさ。謝罪したいとか言って、阿呆をやらかした自分の顔を見る気満々だな。そんな気しかしねぇ。

 この通知に対して日本支部の上層部は、『訓練生にどのような理由で会いたいのか不明な為、支部長他三名と共に面会する』事で要請に応える事にした。何をどう話し合えばこうなるのか、さっぱり分からない。自分の耳に届いていない情報が出回っている、としか思えない。

 先を歩く佐々木中佐の背中を見つめながら、魔法を使い諜報活動すべきか否かを考え始めた頃、目的地に到着した。自分の両サイドには井上中佐と高城教官がおり、眼前の佐々木中佐の前に佐久間支部長がいる。体格差もあってか、自分は大人達の陰に完全に隠れている。

 支部長以外は痴漢騒動の現場にいたメンバーだ。

 入室しながら思う。

 何故この面子で向かう事になったのか。移動前に支部長から『細かい事は気にするな。話を合わせろ。何時も通りの対応で良い』とまで、お言葉を貰った。

 どう言う意味? どうなってんの? つーか、訓練生を巻き込むんじゃねぇよ。

 ああ、早く訓練学校に戻りたい。そして、自堕落な生活を送りたい。

 

 そして入室し、何故かパニックが起き始めた。


 自分は何もやっていない。一言も喋っていない。主に喋ったのは佐久間支部長と、憲兵部長官と、確認作業をした他支部の側近だけ。

 室内には何故か、憲兵部長官とイタリア支部長にイタリア支部の幹部らしい人物以外に、他の支部長と側近らしい幹部までもがいた。国際会議でもやるのかよって面子だ。訓練生の自分は明らかに浮いている。場違いにも程が有る。

 自分の姿が確認出来なくてちょっと騒めき、

『外野がいる理由は問わないが、イタリア支部長。我が国の訓練生に何の用かね?』

 と、佐久間支部長が公用語(英語)でイタリア支部長に問い掛けて、自分を訓練生と紹介しただけ。

 これだけで何故かパニックが起き始めたのだ。訳が分からん。自分を呼び出したのはイタリア支部だよね? パニックを起こし掛けながらも、確りとデータベースにアクセスして自分が訓練生か否かを確認する当たり、幹部だなぁと思ってしまう。

 しかし、どうなっているんだろう?

 訳の分からない状況だが黙って大人達の会話を聞いていると、何となく状況が見えて来た。個人的には『そんな事を気にしてどうするんだよ』と突っ込みたい。

 どうやら他支部は、日本支部の新型機(厳密には乗り手が見つからず、これまで実戦に投入出来なかった)のガーベラのパイロットを探していた模様。流石に訓練生だと明かす訳にはいかず――明かしたら正規兵の面子が潰れるのは確実だから、こればっかりは仕方が無い――他支部から問い合わせが有っても、暈す表現で乗り切ったらしい。パイロットが誰か知っても何の意味が有るのか分からん。英雄にでも祭り上げる気かね? 冗談でも嫌だな。

 別の事を考えていたら、『あの場に訓練生がいる筈が無い』と憲兵部長官が騒ぎ始めた。

 佐久間支部長は慌てず騒がずに、目撃者として現場にいた人物だと佐々木中佐と井上中佐に高城教官の三名を長官に紹介し、当時の更衣室利用者名をイタリア支部側に照会させた。

 嘘偽りが無い事を、糾弾者に証明させるとは上手いな。

 心の中で佐久間支部長に拍手を送る。 

 照会結果、真実だと知った長官が心底悔しそうな唸り声を上げて引き下がる。

 その後の会話から判断すると、自分の扱いは箇条書きにして纏めると次のような感じ。


 ・半月前の実戦に巻き込まれた訓練生。

 ・訓練学校に戻らず、未だに月面基地にいるのは、実戦に巻き込まれた際の過労で、数日間も寝込んでいた。

 ・検査と安静期間を終えて、いざ訓練学校に戻ろうとしたら再び襲撃(これが三日近く前のもの)が発生。引率の教官は出撃要請を受け、量産機を借りて出撃してしまったので自分は兵舎で待機。

 ・襲撃後、放置しっぱなしだった事に気づいた日本支部長が、訓練の一環として模擬戦に出るように指示を出した。

 ・模擬戦に訓練機の姿が無かったのは、半月前の実戦で大破したから。現在、オーバーホール中。他の作業の間を縫って行っている為、時間が掛かっている。

 

 概ね合っている。自分が実戦に出た事と、ガーベラのパイロットが誰なのかを明かしていないだけで。

 もしかして、高城教官が量産機のキンレンカで途中から混じったのは誤魔化しの為か? 佐々木中佐と井上中佐がガーベラのテストパイロットの経験有って聞いたし。

 同情に満ちた視線を貰い受けたが、何故そんな目で見られなくてはならんのか。あんたらが呼びだしたんだろ。

 つーか、さ。模擬戦に訓練機が混ざっていないのは何故かって、自分が操縦してガラクタにしたって情報が出回っていないの? 意味の無い権力争いしている癖に、情報収集怠り過ぎじゃない? 

 思わず『こいつ何を言いだすの?』と質問者を見てしまった。

 質問者はアメリカ支部長だったよ。権力の亡者にしては、随分と妙な質問をして来るな。調べてないのかよ。

『さて、最初の質問に戻るが、イタリア支部長。我が国の訓練生に何の用かね?』

『ぬぐっ』

 パニックが治まった頃になり、支部長が再度イタリア支部長に質問をする。

 回遊魚のように視線を泳がせてから、絞り出すように『謝罪がしたい』と回答した。

 謝罪? こんな状況で?

 思わず『マジで?』とイタリア支部長を二度見した。

 二度見していた間に、イタリア支部の幹部らしい男が前に出て来て『先日の、部下の行動を詫びたい。済まなかった』と頭を下げた。

 この人が痴漢連中の上司? もっさり髭男と違い、凄く実直そうな人なんだけど。痴漢共はこの人に頭を下げろと言いたくなる。

 いやいや。いきなり頭を下げられても……。どうすれば良いのか分からず、支部長を見る。

「好きにしろ」

 好きにしろって、丸投げかよ。ちょっと頭痛がして来るんだけど。

『頭を上げて下さい。謝罪は受け取りました。痴漢の現行犯の方々はどうされましたか』

 塩対応とはこう言う反応を言うのだろうか。過去、王族や貴族連中に揉まれまくった経験が原因なのか、咄嗟にこんな対応をしてしまう。けれども、状況を鑑みるに『これで良い』と感じてしまう。

『謝罪は受け取る。でも許すとは言わない』と言ったからか、周囲から珍獣を見るような視線を貰う。年齢不相応だったかな? 

 頭を上げた幹部が言うに、痴漢連中はこっちの要求通りの処罰で落ち着いたそうだ。既にイタリア支部が保有する軌道衛星基地に出発したらしい。対応が速いなとちょっと感心した。

 このやり取りを最後に解散となった。

 そして更に四日が経過して高城教官から連絡を貰い、翌日の出発でやっと訓練学校に戻れる事になった。もう二十日ぐらい月面基地にいたな。

「やっと戻れる」

 安堵から深く息が漏れた。

 ただし、唯一の不安は軌道衛星基地までガーベラと一緒に行動する事。何でも、ガーベラも軌道衛星基地で精密な点検をするそうだ。長年、埃を被っていたと言うから、オーバーホールでもするのかな? 修理が完了した訓練機も纏めて運んでいるが、こちらは元の場所に戻すだけだ。

 星間運航定期便ではなく、戦艦に搭乗しての移動となった。戦闘機を運ぶから仕方が無いと言えばそうなんだろうけど。ただ、どうして佐々木中佐が同じ船に乗っているのか? 

 軌道衛星基地で更に十日も、アレコレとガーベラに関わる作業に巻き込まれたが、ここでこの機体ともお別れだ。

 そういや、二回目に乗った時痴漢騒動が元で検査類を受けなかったな。何の問題も無いからどうでも良いんだけど。

 


 軌道衛星基地から地球――訓練学校が存在する孤島の着陸場に降りる。降下船から降りて見上げる約一ヶ月振りの青空は眩しい。スマホの日付を見れば、あと数日で夏休みを迎える。

 去年の林間学校の内容を思い出してげんなりとするが、少なくとも数日は自堕落な日々を過ごせる。

 先を歩く高城教官のあとを追い、訓練学校へ続く道を歩く。

 何の変哲の無い日常はまだ続く、いや、このまま続いて欲しい。

 目立たないモブキャラでいたい。

 どんな状況に陥っても、こんな願いしか浮かばないのだから、ある意味自分は図太いと再確認してしまった、波乱に満ちた一ヶ月だった。


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