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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
作戦と試練 西暦3147年10月後半

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作戦開始

 さて作戦は開始となったが、自分の役割は三つだ。正規の作戦内容の役割分担は知らない――他支部の人からガーベラのパイロットと疑われない為に、スパイと疑われない為にも、敢えて聞かなかった――が、自分の役割を果たす事だけを考えよう。


 クォーツとの戦闘に勝利。

 オニキスを受領する。

 受け取ったオニキスに搭載されている武装で短距離転移門を破壊する。


 これらを果たす為にも、先ずはクォーツを探さなくてはならないんだけど、敵機が多い。ガーベラ弐式の右手に右肩の剣を握らせ、近づいて来た敵機を切り捨てながらクォーツを探す。

「ん?」

 モニターの隅で、何かがキラリと光った。中央モニターに映るようにその姿を捉えると、光源はターゲスだった。それも複数機――数えると三機もいた。教えて貰ったターゲスの残数は二十二機。この二十二機の内、五機を松永大佐達三人が撃墜する。それが、ティスから課されたノルマだ。

『ガーベラ。アレはこちらで対処する。佐々木、井上、行くぞ!』

 一機だけ撃墜してしまおうかと思ったけど、却下するように近づいて来た赤いアゲラタムに搭乗している松永大佐から通信が入った。

『分かりました』『行きます!』

 呼応する二つの声が同時に響いた。赤いアゲラタム三機がターゲスに突撃した。自分は三機を見送った。

 ……ここで手を出すのは良くない。三人にとっては訓練の成果を試す時なのだ。相手をするとしても、赤いアゲラタムを無視して、こちらに来たターゲスの相手だけをしよう。もしくは、遠目に何時でもフォローに入れるところにいよう。

 行動を決め、周囲を素早く見回す。接近して来た敵機を一機、二機と切って撃墜し、合間を縫ってクォーツを探す。だが、中々見つからない。

 その間も、イヤーカフスからアゲラタムに乗っている三人の声が聞こえる。戦闘の間に三人の戦闘状況を何度もチラッと見た。

 フォーメーションの研究を熱心にやっていただけあって、危なげなくターゲスを三機撃墜した。一機が撹乱して、残り二機で挟み撃ちにして一機ずつ確実に撃墜する形で落ち着いたのかな? 

 どうだか知らないけど、ノルマの内の三機は撃墜した。残り二機だ。三人にはその調子で頑張って欲しい。

「にしても、見つからん」

 黙々と近づいて来た敵機を切り捨ててクォーツを探す。ティスには予定を教えたし、何より、転移門近くでの戦闘に気づかない筈が無い。

 新しいバーニアに振り回されない程度には訓練を行った。クォーツと戦闘の前の慣らしだと思ってやるにしても、数が多い。

 どこだと探していると、再び三機一組のターゲスが近づいて来た。松永大佐達の方にも、三機一組のターゲスが接近していた。あの三人に相手を任せられない状況だ。自分が対処する必要が有る。

 ガーベラ弐式を操縦して、三機のターゲスと戦闘を行う。

「む?」

 この三機ターゲス、今月半ばに戦った同型機と違い、個々の操縦練度が高い。もしかして、あの時のターゲスのパイロットは――いや、考えても意味は無いか。操縦も半自動だったみたいだし。自分が直感で思った『こいつもしかして出来る奴?』は何度空ぶれば気が済むのか。

 何時も通りに無心になって、敵の動きを予測しながら戦闘を行い、一機ずつターゲスを確実に撃破して行く。



『ガーベラ! 無理に交戦しなくても良いんだぞ』

「無理はしていません。実戦での速度に慣れたいんです」

 三機のターゲスを撃破し、追加で来たターゲス以外の敵機を撃墜したところで、三機の赤いアゲラタムが近づいて来た。少し時間が掛かっていたけど三人も撃破したらしい。これで合計六機を撃墜した計算になるから、一先ずノルマは達成だ。ここからどこまで『撃墜数が増やせるか』が勝負となる。

「そんな事よりも、ノルマ達成です。これから撃墜数を頑張って増やして下さい」

『……』『あ』『げっ、そうだった』

 松永大佐に言い返したら、沈黙が返って来た。井上中佐『あ』じゃないよ。佐々木中佐『そうだった』って、忘れていたんかい。

 戦場のど真ん中なのに、微妙な沈黙が下りた。

『ゴホン。今は戦闘中だ。戦闘に集中しろ!』

 沈黙を払拭するように、咳払いをした松永大佐が声を張り上げた。通信機越しなのに、ピリッとした緊張感を得た。

 確かに今は戦闘中だ。しかも大事な作戦中である。それに乱戦の真っただ中で、四機が一纏まりになっていたら『的』になりかねない。

 そこまで思い至り、三機と少し距離を取った。自分がガーベラ弐式を操縦して距離を取った事で、松永大佐達も戦闘に意識を戻した。そのまま四機で行動する。



 接近したターゲスを含む敵機を撃墜する事――出撃してから約一時間後。

 四機で一度、帰艦した。

 慣れない機体で戦闘する大人三人は休息を目的として帰艦した。

 自分が帰艦した理由はクォーツが見つからないからだ。万全ではない状態でクォーツとの戦闘は避けたい。

 待機室でガーベラ弐式の補給完了(所要時間約二十五分前後)を待つ時間潰しとして、ティスにノルマ達成の知らせを含めた連絡を入れる。待機室には各々休息を取っている松永大佐達も――室内に入るなり三人は水分を補給すると、揃ってベンチの上に伸びた。作戦開始前のように、フォーメーションについて議論をする体力と気力は残っていないらしい――いるが、ティスとの会話が聞こえないように部屋の隅へ移動してから端末を起動させた。

『へぇ、八機も撃墜したんだ』

「現時点では、ね。あたしも同じ数を撃墜したよ」

『残りは六機か。他が撃墜しているのかな?』

「今は補給ついでの休憩中だから、それは分からない。それよりも、クォーツはどこ?」

『すまない。移動に時間が掛かったそうだ』

「……何やってんの?」

 思っていた以上に低い声が出た。自分の低い声を聞いてか、慌てたティスが弁解する。

『破壊対象とオニキスの距離は短い方が良いだろうと、勝手に判断したそうだ』

「それは時と場合によると思う。オニキスはアゲラタムの二倍近く速いから、要らない気遣いだね。……もう、オニキスを受領してさっさと終わらせるつもりだったのに」

 個人的な希望と言うか、これが王道的な流れなら、出撃してから三十分も経過しない内に接敵して激闘繰り広げて――となるんだけど。

 気遣いとか要らないから、早よ出て来いや。本当に、マジでさぁ。

 やる気満々の自分を見てか、映像の中のティスはドン引きしている。

『君はリアルタイムアタックでもやるつもりだったのかい?』

「違う。戦闘が長引く事で起きる事は何だと思う?」

『戦闘になれば必ず討たれる人間が出て来る。戦闘が長引くと、討たれる人間の数は増える。戦闘が長引けばその数は更に増えるだろうね』

「そっちの不手際でその数を増やすつもり?」

『不手際なのは間違いないけど、戦死者を数字で見ると大差は無いと思うな』

「……」

 ティスの言葉を聞き、思わず目を眇めた。

 別に圧力を掛けている訳では無い。時に指揮官は部下を数字として捉えなくてはならない時が在る。一国の王でもあるティスは国民を数字で捉えなくてはならない時が在り、即位したての頃はその辺りが原因で何度も歯がゆい思いをしているところを見た。

 現場で指示を飛ばしても、立場の違いで物事の捉え方は変わる。

 

 平和ボケした元日本人だったのに、ティスもすっかり変わっちゃったなぁ。

 子供の頃(五歳ぐらい)は『挽肉を使ったお好み焼きが食べたい。たこ焼きが食べたい。唐揚げが食べたい』って駄々をこねていたのに。

 王の立場がティスを変えてしまったのか。


『何だい、その顔は?』

「いや、おやつの鶏の唐揚げで大喜びしていたティスが懐かしいなぁって」

『故人を偲ぶ感覚で、私の幼少期の変な事を思い出さないでくれ』

 ティスの顔が引き攣った。その顔を見て自分は思った。

 いや、事実じゃん。

 帝王学の勉強を嫌がるティスに、何度、蛸の代わりにブロックチーズを使ったたこ焼きを餌にして勉強させた事か。昆布(に近い海藻)と魚のアラ出汁を使ったお好み焼きとたこ焼きモドキを食べる為に一番努力していたのは――間違いなくティス本人だ。そして、お好み焼きとたこ焼きに使用する『中濃ソースとマヨネーズ』の存在に、狂喜乱舞していたのも、『紅生姜を多めにして!』と追加注文をしたのも、鰹節が無くて泣いたのも、ティスだ。

 遠い過去を懐かしく思い、すっかり成長してしまったティスを生暖かい目で見てしまう。時間の流れは残酷――ではなく、ティスも立派(?)に成長したんだね。

『んんっ、ん。でも戦闘が長引く事で生まれる損失は他にも存在する。戦闘の長期化が良くないのは確かだ。三十分以内に移動を終わらせて戦闘に移れと指示を出す』

 ティスは早口でそう言うなり通信を切った。咳払いのあとの台詞はノーブレスだったよ。

 そんな事よりもね。三十分で終わるのかと思ったけど、ティスに尋ねる前に通信を切られてしまった。

 過去を懐かしんだだけなのに、急にどうしたんだろう。

 空中ディスプレイを消さずに首を傾げていると、ベンチで寝転んでいた筈の松永大佐が自分の背後にやって来た。松永大佐は自分の頭越しに、まだ閉じていない空中ディスプレイを覗き込む。

「星崎。通信していたようだが、どうしたんだ?」

「え? ああと、向こうでちょっとした不手際が起きたそうです」

「不手際?」

「はい。余計な気遣いとも言いますが、三十分以内に終わらせて戦闘に移るそうです。事前にメールで、他の機体を攻撃しないようにと、要請してあります」

「不手際なのに不要な気遣い、と言うのは?」

「それはですね」

 空中ディスプレイを閉じ、端末を落としてから、松永大佐に向き直って意味を説明する。松永大佐から説明の合間に質問を受けて回答する。説明の途中でベンチの上で伸びていた中佐コンビも加わった。

「それで一時間も探して見つからなかったのか」

 説明を聞いた井上中佐は渋い顔をしてそうコメントした。残りの二人も何もコメントはしていないが、井上中佐と似た反応を見せている。向こうから提案しておいて、不手際で遅れるって言うのは、ちょっといただけない。ティスにはあとで、絶対にペナルティを科す。

「はい。個人的にはタイムアタックをやるつもりでいたので、肩透かしを受けた気分です」

「そもそもタイムアタックってのが不適切な気がするんだが」

「……被害を最小限にする為にも、速攻で終わらせたかっただけです」

 佐々木中佐からの指摘で、向こうの宇宙にいた頃と『同じノリ』になっていた事に気づいた。それらしい事を言って誤魔化す。こう言う時は誤魔化すに限る。

「三十分以内に戦闘に移るそうなので、二十分後に私は再度出撃します。松永大佐達はどうしますか?」

「二十分後か。だったら、それぐらいにこちらも出撃した方が良いな」

 松永大佐は中佐コンビを見る。松永大佐の視線を受けた二人は同時に頷いた。

「俺もそのぐらいの時間で出た方が良いと思います」

「佐々木と同意見です。ダラダラ休んでいるのは気分的に良くないです。何より、ガーベラと一緒に行動しないとフレンドリーファイアを受けそうです」

「その可能性が残っていたか」

「そんな可能性が残っていましたね」

 井上中佐の意見を聞いて、松永大佐は腕を組んだ。自分も井上中佐が口にするまですっかり忘れていた。

 松永大佐達三人が乗っているアゲラタムは、機体の色はガーベラ弐式と同じだが、元々は敵機なのだ。無人機と公表されていた敵機が『有人で操縦している』とは思われないだろうし、支部長も作戦前の手間を考えて『公表はしない』とハッキリと言った。日本支部の隠し玉の一つとして、作戦終了後に改めて公表するそうだ。

「星崎。先を急ぎたいだろうが、出撃は四機で同時に行う。ガーベラ弐式の補給が完了次第、再出撃だ」

「……分かりました」

 少し考えたけど、流石に作戦中のフレンドリーファイアは避けねばならない。元敵機のアゲラタムに乗っている以上、誤射した奴が悪いと主張しても『事前に公表せず、勘違いさせた奴が悪い』と言い返される可能性が高い。

 未然にフレンドリーファイアを防ぐ為にも、ガーベラ弐式の同伴は必須だ。

 松永大佐の言葉に頷いて同意を示し、一つの懸念を口にする。

「ですが、私は特定の機体を一対一での戦闘を控えています。実際に戦闘が始まったら、どうするつもりですか?」

「これまでの反応を見るに、大丈夫だとは思うが、油断は禁物だな」

 松永大佐の言葉に同意するように中佐コンビも頷いた。

 確かに、戦場にいた一時間は何も起きなかった。でも、これからも同じようになるとは限らない。

 再出撃まで打ち合わせと言う名の議論を行い、『可能な限り距離を取り過ぎない』の結論が出て、議論は終了した。



 帰艦してから三十分後。補給が完了するまでの間だったが、休息をとった自分は松永大佐達と再出撃した。

 再出撃前に松永大佐に尋ねたが、当初の予定よりも数が少ないからか、作戦の進捗状況は良くないそうだ。これを聞き、大人三人と別れたあとでポツリと呟く。

「責任重大だな」

 クォーツとの決闘は何が何でも勝たねばならない。機体そのものが駄目になりかねないが、必要ならば六月の時のように補助魔法を使う事も考慮するか。自分の体ならば、治癒魔法でどうにかなるから、気にしなくても良い。

 アナウンスの指示に従い、再度戦場へ出撃する。

 ガーベラ弐式が出撃したあとに続いて、三機のアゲラタムも出撃した。四機一塊になって戦場を突っ切る。

 向かう先は、事前の話し合いで決めている。今回の作戦の破壊対象となっている転移門だ。直感だが、近づけば向こうから見つける。根拠の無い自分の勘だったが、松永大佐達は信じてくれた。佐々木中佐が言うには、『向こうの考えが読めるのは、お前だけだから』と反対もされなかった。

 自分を信頼してくれていると取れる言葉だ。嬉しいんだけど、向こうの連中との『付き合いの長さから成る信頼関係』を肯定された気がして――いや、これ以上考えるのは止めよう。

 四機で戦場を突っ切り、近づいて来た敵機を撃破しつつ、転移門を目指して移動する事、十数分後。

 正面から銀の閃光が駆けて来た。

「――あれは」

 カメラを操作して拡大表示にして確認する。こちらを目指す銀の閃光の正体は、銀色のクォーツだった。

 惑星セダムを去る前の面差しすら残っていない、嘗て自分が開発した高速機動型の機体。六月に見た銀色の機体が、再び目の前にやって来た。

「遂に来たか」

『ガーベラ』

 自分の呟きを聞いてか、松永大佐に呼ばれた。松永大佐は緊張しているのか、その声は硬い。

「特定機体が来ました。行って来ます」

 敢えて明るく言ってから、三機と離れる。

『必ず勝て』『行って来い』『頑張れよ』

 松永大佐、井上中佐、佐々木中佐の順に激励の言葉を貰った。

 ガーベラ弐式の速度を上げて、右手に握らせた剣を振り被る。クォーツも同じように剣を振り上げた。

 ほぼ同じタイミングで振り下ろされた剣がぶつかり合い火花を散らす。

 

 ――自分の役割を果たす時が来た。


 モニターに映るクォーツは六月に見た時と変わらない装備だった。つまり、双剣と盾だけだった。

 対する自分はあの頃とは違い、ガーベラ弐式と呼ばれる新たな機体に乗っている。ガーベラの開発自体は三十年前だが、現代の機体と比べても高い性能を誇る。機体に搭載されている各パーツも、新しいものに換わっている。

 そして、自分の役割は『クォーツと交戦し、片腕を落とす』事だ。

 出来るか、出来ないかと、悩む事はしない。やり遂げる以外に道が無いのだ。今はやり遂げる事に集中する。


 実を言うと移動中の三日間、作戦終了後について色々と考えていた。松永大佐にも相談した。

 作戦の結果に関わらず、ガーベラのパイロットの公表を迫られる可能性が高い。

 公表とは即ち、顔と名前が表に出てしまう事だ。

 記憶を取り戻した二年前。モブキャラでいる為の人生設計を立てたのに、こいつとの戦闘が原因で崩れ去った。命からがら生還したのに、打ちひしがれた。

 出発前にも考えたが、作戦成功の報酬として『顔出しと名出しの公表拒否』を支部長にお願いする以外に、少しでも長く群衆に埋もれる道は無い。

 他に手段が無いのなら、その手段を取るしかない。

 こいつの片腕を獲れば、交渉権が得られる可能性が出る。ならばやるしかない。目立つ人生はルピナス帝国にいた頃で懲り懲りだ。

 動機が不純と言われようが、その首――じゃなかった、その腕を獲る。


 だから。 


「墜ちろぉっ!」

 弾かれてもすぐにクォーツに突撃して切り掛かる。回避されても切り掛かる。動きを読んで切り掛かる。

 こっちは人生が懸かっているのだ。何が何でも、獲る!

 クォーツがこちらの攻撃をどう取ったかは知らないけど、すぐに対応した。剣と剣が何度もぶつかり合い、火花を散らす。

 互いにこの一戦で決着を付ける勢いで、戦闘が始まった。

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