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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
動き出す状況と月面基地 西暦3147年10月前半
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皇帝と首都銀河防衛支部長の会話

 懐かしい女性との会話が終わってから半日後。

 サイヌアータは皇帝の執務室にいた。伝言以外に苦情の申し立てをする為だ。サイヌアータは待っている間に、ディフェンバキアに連絡を入れて確認を取った。その確認を取り終えると、執務室の応接用の長椅子にだらしなく寝そべっていた。部屋の主とは気安い仲だし、何かが起きた時には必ず抑え役をしているので、面と向かって文句は言われない。

 長椅子でゴロゴロと過ごしていると扉が開いた。部屋の主が帰って来たのだ。起き上がって出迎える。

「おー、やっと帰って来たか」

「あら、サイじゃない。珍しいわね」

 部屋の主――ルピナス帝国の皇帝セタリアは、青い髪と褐色の肌に負けない程に目立つ赤いドレス(とある人物が女性用の盛装と正装の一部をこの名で広めた)を着ていた。露出度が低ければ、ドレスの色に問題は無い。この皇帝は常に、見えるか見えないかのギリギリに挑戦している。今日のドレスも下品すれすれの露出度だった。

 何度言っても直さない服装について一旦忘れて、サイヌアータは本題に入った。皇帝の後ろにいた侍従が音も無く動いて、お茶の準備を始める。

「来月のウチの予算にケチを付けられたからな。直接文句を言いに来たんだ。ま、そっちがどうでも良くなる通信が来たな」

「通信?」

「リチアから通信が来たぜ」

 皇帝不在の間に起きた事を端的に教える。皇帝はそれだけで、サイヌアータがここにいる理由に気づき、同時に彼に教えていない事を思い出した。

「あ~、そう言えば教えていなかったわね」

「な・ん・で、ディフェンバキアとディセントラまで動いてんのに、俺に連絡がないんだ?」

「ん~、順番かしらね。クゥのいるところがどう動くか分からなかったの。向こうの判断次第では、クゥが一人で動く可能性が高かったからね。軍部と相談するのはそのあとかしら」

 確かに話題の女性は様々な渾名を持っている。その中には『歩く戦略兵器』、『究極の理不尽』、と言う大変物騒なものが存在する。勿論、その渾名を付けられるだけの事をしている。

 ……でも、宣戦布告を受けた翌日に、敵国の首都近くに『小規模隕石を落とす』のは、流石にどうかと思ったが。

 敵国は宣戦布告を撤回して『救援』を求めた。誰も運よく隕石が落ちるとは思っていない。誰が落としたのかも何となく察した。出来る人間は一人しかいない。

 お陰でその国は笑いものにはならなかったが、隕石を落とした本人は知らん顔をしていた。被害の割に死者が一人も出なかった事から、それなりに考えての行動だったんだろう。そうでなければ大量の死者が出て、首都が壊滅しただろう。負傷者は出たが、軽い打撲だけと聞いている。どうやって被害を最小限にしたのか。

 見た目の割に過激な事を平然と行うあの女性の行動を読むのは、付き合いが長くないと少々難しい。考えている事が読めないと言えば良いのか。それとも『どこまで出来るのか知らないと行動が読めない』と言うべきか。

 そこまで思い出したサイヌアータは文句を言うだけに留める事にした。

「順番があったのは理解した。だがな、可能性ぐらいは教えてくれてもいいんじゃないか?」

「教えたら、あんたは行きたがるでしょ」

「否定はしないな」

 何しろ、彼女とは三百年以上も会っていない。久し振りに会いたいし、色々と報告もしたい。

 映像の中の彼女はやや幼くなっていた。今どのようなところにいるのか知りたかった。 

「で、クゥは何で通信して来たのよ?」

 これ以上立ち話をする気が無いのか、皇帝は応接用の椅子に座った。サイヌアータも同時に対面の椅子に腰掛けると、侍従がお茶を出した。

 サイヌアータはお茶を一口飲んでから、伝言内容を告げる。すると皇帝はぎょっとした。

「ターゲスとマルス・ドメスティカの目撃情報を貰った」

「んげっ!? 残りが見つからないと思えば、向こうに在ったの!?」

「ああ。しかも、ターゲスは十一機撃墜したってさ」

 サイヌアータの淡々とした報告を聞き、皇帝は頭を抱える。皇帝の反応を見る限りでは、軽い案件を取り扱っているようにも見える。実際は軽い反応の真逆で、非常に重い案件だ。国際会議を十数回開いても決まらない程に重い案件と言って良い。

 頭を抱えていた皇帝は途中で何かに気づいて、今度はサイヌアータに質問をする。

「あちゃぁ~、……あれ? クゥは他に何か言ってた?」

「喪服女のところか、ディフェンバキアに連絡取ろうとしていたぜ」

 室内にいた皇帝と、会話に加わっていない侍従が一瞬だけ動きを止めた。皇帝は大量に噴出した脂汗をハンカチで拭いながら確認する。

「止めたのよね?」

 この物言いでは、何を止めたのか第三者は分からない。だが、当事者のサイヌアータには意味が解る言い方だ。

「止めるに決まってんだろ!? 頭のおかしい喪服姿の首狩り女に彷徨(うろつ)かれたらどうなるか、分からないって言うのかっ!?」

「分かるわよ! 解るに決まっているでしょっ!? 何人胃に穴が開いて倒れると思っているのよ! 止めなかったら減給処分にするに決まっているでしょ!?」

「さらっと理不尽なことを言うんじゃねぇ」

「あっ!? たった今、思い出したけど、コルムネアの屋敷を勝手に貸し出していた事について言った?」

「やべっ、言ってない!」

 半ば罵り合うように二人は言い争ったが、顔を見合わせると同時にため息を吐いた。

「「……はぁ」」

 気づけは双方共に立ち上がっていた。同時に椅子に腰を下ろして、冷めたお茶を飲む。

「クゥの事だから、譲歩を迫って来そうね」

「譲歩だけならまだ良い方だろ」

「そうねぇ……」

 お茶を飲み干した二人は、揃って椅子の背凭れに寄り掛かって伸びた。

「アレの使用許可を出すに留めるか、う~ん、拾ったものに関しては向こうの自由にさせれば、良いかしら」

 高い天井を眺めながら、皇帝は考えを口にした。無関係のサイヌアータには意味が解らない。

「拾ったものを好きにして良いとか、程々にしろよ」

「解ってるって」

 皇帝は釘を刺されても、適当に返すだけ。

 本当に大丈夫なのか心配になったサイヌアータは内心で嘆息した。


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