月面基地に迫る、最悪な展開~工藤視点~
ガーベラが暴いた敵機の存在に、月面基地は大慌てで対応を迫られた。
出撃可能な駐在兵の七割が不在の最中での襲撃だ。最も頼りになりそうなガーベラは、補給を受けねばならない状態で、補給を受ける為に今は下がっている。
そんな慌ただしい月面基地日本支部司令室で、居残りを決めるくじ引きである意味大当たりを引いた工藤太一は、早鐘を打つように鼓動を速めた心臓に手を置いて各所に指示を飛ばしていた。ついでに工藤は、日本支部パイロット幹部を全員送り出してしまった事を悔やんでいた。
相談が出来る、日本支部幹部が一人もいない。いや、相談出来る人物は残っているけど、工藤的には相談したくなかった。気分的に。
指示を飛ばし終えたら、今度はこちらに向かっている日本支部幹部達に通信を入れて状況を伝える。
『残り十分ちょいで到着するが、ギリギリだな』
『しかも、誰かが残っていても最悪な状況ね』
「さらっと人を絶望させる言葉を吐くんじゃねぇよ」
好き勝手に言われた工藤はため息にならない程度に息を吐いた。
「佐藤。狙撃でどうにかならないか?」
『無理を言うな。どれだけ距離があると思っている? それに狙撃でどうにかなるんだったら、通信には出ないぞ』
「そーだねー……」
色んな意味で命運が尽きたかもしれない。そんな事を思った工藤は、可能な限りの悪足掻きをする事を決めた。
「他支部もいるけど、何時でも出れるようにしてくれ」
『その準備は終えている。ついでに何時でも狙撃出来るようにしておくか』
「是非ともやってくれ」
佐藤からの言葉に、工藤は何となく泣きたくなった。
それから工藤は大慌てで、ツクヨミに連絡を入れて、他支部の対応を確認して、ついでに他支部からの問い合わせにも対応した。他支部の問い合わせはガーベラに関するものだった。ガーベラは補給の為に一度下げたと告げて通信を切り、出撃中の部隊長からも同じ事を聞かれたので同様の事を教えた。
「あー、もうっ。どいつもこいつも、ガーベラ、ガーベラって、煩いんですのよぉっ! もうっ」
頭を掻きながら工藤は叫ぶ。
確かに、ガーベラが来てくれた事で『どうにかなりそう』と言う空気が出来た。そのまま撃墜してくれたまでは良かった。
「まさか、追加がいるとはな……」
追加で出現した敵機との距離を考えると、星崎が見つけてくれたのは、タイミングはともかく正直に言って、ありがたかった。アレ以上近づかれていたら、月面基地が誕生してから、三十数年振りの危機となる。
三十年以上も前に月面基地が受けた被害を考えて、現在の対応が取られている。それでも結構ギリギリなのだ。今回の襲撃でもう一度、戦闘空域との距離について議論が起きるかもしれないが、それは戦闘が終わってからの話だ。工藤が関わる事もないだろう。
予定よりも早く補給が完了したガーベラが再び出撃した。
奮戦しているが、戦況は悪い方向へ転がって行く。
どうか勝利で終わってくれと、工藤は滅多にしない神頼みをした。