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転生したら豆柴だったケン  作者: 原田 キントー
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行燈怪談劇

私は犬だ。

前世は冴えない男だったが、現世ではもふもふの豆柴だ。

名前はマルメ。

飼い主は20代後半の華奢な女性。見た目は可愛いが、中身は...ちょっと残念だ。


私は、今日も玄関で女主人の帰りを待っていた。

「…ただいま」

今日はいつものように明るい声ではない。ドアが開き、華奢な体つきの女主人が帰ってきた。女主人はマルメを抱き上げ、ギュウッときつく抱きしめられた。

何かいつもと違う。どうしたのだろうと思った。

リビングに行くと私を放し、手を震わせながらココアを作っていた。

「もう、あんな怖い思い二度としたくない...」

彼女は青ざめた顔で、ココアに浮かぶマシュマロを見つめていた。

芝居で行燈怪談劇の「雪女」を見に行ったらしい。

芝居が終わった後、夏なのに背中がゾゾっとしたらしい。

劇団を立ち上げた友だちがいるらしく、その劇団の芝居を見に行くと演目が雪女だったらしい。あまりホラーのような怖い物語は苦手な女主人は帰ってきて顔が真っ青になっていた。お気に入りのカフェで心を温めて帰って来たらしいが、そのような雰囲気ではない。

女主人は震えながら、私に語り始めた。

「あの雪女、まるで本物みたいだった。青白い肌に、氷のような目。ゆっくりと近づいてくる感じは、もう怖くて、怖くてしょうがなかった」

彼女はココアを一口飲むと、少し落ち着きを取り戻したようだった。

「ナレーションも怖かった。低い声で、無感情に淡々と語る様子…」

彼女はそう言うと、再び震え始めた。

「もう、怪談劇なんて見たくないわ...」

彼女はそう呟くと、ココアを一気に飲み干した。

私は心の中で思った。なんで行燈怪談劇と書いてある時点で行かないと決断しなかったのか。確かに、友だちの劇団だから付き合いがあるのかもしれないが。苦手と言えば次の機会にと言い訳が立つであろう。

その時、女主人のスマートフォンが鳴った。

相変わらず、まだ怖いらしく、椅子に座っていたのだが、その恰好のまま飛び上がってびっくりしていた。

電話に出るとおびえるようにしゃべった。

「…もしもし」もしもしの言い方の方が怖い。

「ああ、もしもし、今大丈夫?」

基本的に女主人はスピーカーでしゃべるので話は筒抜けである。

「この前さぁ…」と友だちと思われる女と彼氏の話、仕事の話、愚痴などしゃべっている。

そして、女主人の話すターンになって、今日見に行った怪談劇についての話になった。

「でもさ、あんたの友達の劇団でしょ?すごいじゃん!プロ級の演出だったんだね!」

女主人はもう一度入れたココアの湯気に顔を近づけていた。

「そうなんだけどね...。あまりにもリアルで...。特にあの雪女の目!今でも思い出すとゾッとするのよ...」

女主人は身震いしながら、恐る恐るスマホの写真のアプリからLINEに雪女と一緒に取ってもらった写真を送った。

「ほら、これ見て...」

写真には、青白い肌に長い黒髪、白い着物をまとった女性が写っていた。そして、その目は確かに...

「うわっ!青いコンタクト!めっちゃ怖い!」

と友だちは思わずスマホを落としそうになったのかゴソゴソッと通話の音声から聞こえる。

「でしょ!?しかもね、この写真じゃ伝わらないけど、舞台ではもっと怖かったのよ...」

女主人は再び震え始めた。

「ねえ、そんなに怖かったなら、その劇団のホームページとか見てみたら?もしかしたら、雪女役の女優さんのブログとかあって、舞台裏の様子とか見れるかもよ。舞台化粧とか見てみたら、ちょっと怖さも和らぐんじゃない?」

女主人は半信半疑ながらも、PCで劇団のホームページを探し始めた。

しばらくすると、女主人の顔がパッと明るくなった。

「あった!ブログ!雪女役の女優さん、化粧取ったらすごい可愛い!」

動画もアップされており、普通の女の子がみるみるうちに恐ろしい雪女に変身していく様子が映っていた。

「すごい!メイクってこんなにすごいんだ!青いコンタクトも、こんなふうになるんだ。なんか、もう怖くないかも!」

となんやかんやしゃべって彼女は、電話を切った。

女主人はすっかり元気を取り戻し、ココアをもう一杯作り始めた。

「マルメ、今日は一緒に寝ようね。あったかいココア飲んで、一緒に怖い夢を見ないようにしようね!」

私は心の中で思った。恐怖を克服する方法は、意外と身近なところにあるのかもしれない。そして、女主人の笑顔が見られて、私もホッとした。


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