人の名前って思い出せないよね。
「うーん、名前思い出せない。」と苦悩の表情を浮かべる。まるでクイズ番組の挑戦者のように唸っていた。その視線の先には、豆柴の私。私はと言えば、もふもふの体を丸めて日向ぼっこ中。女主人の悩みなんてどこ吹く風、と言ったところだ。
「名前覚えるの苦手なんだよねー。」とロダンの考える人のポーズを披露する。その滑稽な姿に、思わず鼻でフン、と笑ってしまう。
「この子なんだけど…」と、スマホの画面を私に見せられる。そこには、見覚えのある顔が現れる。
「中坂さんじゃない?」と心の中で呟く。この顔を見たら建物の間に坂がある場面を思い出せるようにすればいいんじゃない?
なんて考える。だが、悲しいかな、私は犬。しかも豆柴。言葉を伝える術はない。
「誰だったっけなー」女主人はポーズを変え、今度はヨガの木ポーズ。ますます滑稽さに磨きがかかり、私は堪えきれずに吹き出してしまう。
その瞬間、女主人の目がキラリと光った。「わかった!ヨガのポーズしてたから思い出した!中坂…ヨガ…中坂…あ!中谷美紀さんだ!」
「え?中谷美紀?女優さん?」私は心の中でツッコミを入れる。
「そう!この写真の子、中谷美紀さんに似てると思わない?」女主人は得意げに頷く。
私はため息をつく。似てるか?いや、似てない。
「中谷美紀さんかー。名前覚えた!」女主人は満足そうにスマホをしまう。
主人は満足げにスマホをしまうと、おもむろにヨガマットを広げ始めた。
「よし!せっかく思い出したし、中谷美紀さんみたいに美しくなれるようヨガのレッスン開始!」
彼女は動画サイトでヨガレッスン動画を再生し、見よう見まねでポーズを取り始めた。しかし、その動きはまるでコントを見ているかのよう。
「どうしたの?笑ってるの?もしかして私のヨガ、おかしい?」
女主人は首を傾げながら、鏡に映る自分の姿を確認する。
「え?どこがおかしいの?中谷美紀さんみたいでしょ?」
彼女は自信満々にポーズを決めてみせる。
私は見てられないと思い、キッチンの方に向かう。
女主人は拗ねたようにヨガマットを片付け始めた。
「でも、まあいっか。今日はもう疲れたし、お昼寝でもしようかな」
彼女はそう言うと、私を抱きかかえてベッドにゴロンと横になった。
「ねえ、マルメ。あなたも一緒に寝ない?」
私は彼女の誘いに応え、彼女の腕の中に潜り込む。
「いつもありがとう」
彼女は私の頭を優しく撫でながら、静かに目を閉じた。
私は彼女の温もりを感じながら、心の中で呟いた。
「私は何をしているのだろう。……温かい。」
そして、私たちは、穏やかな眠りに落ちていった。
私の女主人は面白い。そして、私は今日も平和だ。