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転生したら豆柴だったケン  作者: 原田 キントー
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女主人は私に対して気分屋であり、自分の話ばかりをしてくる。

 私は看護師だった。特に目立った経歴はない。

 仕事はルーティンワークだけでなく書類をまとめるものも多く、何とか夜勤を終え自転車で家に帰るところだった。夜勤が終わった後で疲れていた。夜勤終わりにもかかわらず、もう日は高かった。


 ぼーっとしていた。疲れていた。信号待ちをしていた。なぜか違う信号を見ていた。あっ青だったんだ。と思って出たら車にひかれた。その交差点はちょっとした丘になっていて、下に川が流れていた。

 丘を自転車と一緒に転げ落ちていた。自転車が川に落ちた音が聞こえた。


 気がつくと病院にいた。いや、病院のベッドに横になっている自分を見ていた。ベッドサイドには妻がいた。泣いていた。隣には今年から小学生になる幼い息子が妻を慰めていた。息子は妻が泣いているのを見て、今にも泣き出しそうだった。2歳の娘は、妻の服を持ってなんで泣いてるのかわからない様子だった。

 でもお母さんは悲しいんだろうなぁというのはわかっているようだった。


 私はもう3日も病院のベッドで意識不明の状態のようだ。妻と両親がそのような話をしていた。

 私はもうすぐ死ぬのだろうと思った。

 そう思った瞬間、紫色の光に包まれた。


 気がつくと私は誰かの部屋にいた。しかし、なんだか全て大きい。テーブルもカラーボックスもオーディオもテレビもリモコンも。これじゃ、人間が使うには不便だ。

 もう日が暮れるところだった。今日は何日だったろうか。私が病院で気がついた日、紫の光に包まれた日が2月14日だった。だからそれから時間が少し経っている頃だと思う。

「ただいまー」

妻だろうか。事故が起こったことも自分が死んだこともすべて幻想であって欲しいと思った。しかし、妻とは違う声のようにも思う。

 玄関に向かって歩いて行った。

 帰って来たのは知らない人だった。誰なのだろうか。玄関で靴を脱ぐために背を向けてかがんでいるところだった。ロンTにデニムパンツ、キャップ帽を被っていた。眼鏡にマスクをしているため、表情が読み取りづらい。ただ玄関から入って来た知らない人は女だった。

「マルメー、ただいま」と顔を近づけて私をいともたやすく抱き抱えた。

 年齢は20代後半くらいだろうか。肌は白くやや華奢に見える。しかし、2月にしては薄着な感じがする。

 カレンダーを見ると5月になっている。

 去年のカレンダーをめくらずにまだ残しているのだろうか。というか今、私はどういう状況なのだろうか。

 女の胸に抱えられてリビングに向かっている。温かい。と思い、目がとろんとしてきた。いやいや、そんなことより今の状況だ。

 「さぁ、マルメ。ご飯食べようか」と言いながら私を降ろした。

 「どのくらいご飯あげればいんだろう。難しいんだよねー」と女は言いながら廊下兼キッチンに向かって行った。私はお前よりは食べると思いながら私もキッチンに向かった。

 「マルメは向こうに行ってて、お腹空いてるんだろうけど」

 何を言ってるのだ。私はお前のことが心配でキッチンに来たのだ。と思いながらもおずおずリビングに向かった。リビングにいると部屋の角に姿見があった。なんとなく姿見を見ると……。

 私は豆柴に姿を変えていた。驚愕と恐怖に打ちひしがれ、大声を上げた。

 「ワンワンワン」

 「こらっ、マルメ!うるさいわよ。静かにして」

 私はこれから豆柴として生きていくのか。 


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