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序章➄ 失われた技術と迫る追手

 ほう、それはまた……剛毅な船もあったものだ。


 ここ(スモーキーヒル)の在り様からすれば、その船が不時着したのは10年やそこらの昔ではあるまいに……


「さあ、こっちへ……」


 ミゲル殿は工場の入口を抜けると、我々を奥へと誘っていく。入口から見えていた建物はさほど大きな物には見えなかったが……中は思いの外広かった。


 途中には儂らを案内するミゲル殿を怪訝な顔で迎える警備らしき者達がいたが……ミゲル殿が無言で目配せすると両手に構えていた武器らしき物を下ろした。


「それでミゲル殿、その船は……いったい何が壊れとるんじゃ? 舵か? それとも帆柱(マスト)が折れたか? まさか龍骨(キール)が砕けているのではあるまいな?」


 何じゃ……おかしな顔をして? もしや代表的な船の構造を知らぬのか?


「?? アンサラー殿が言われてるのは……もしかして昔の船の構造かな?」

 

「……ふむ? そうか……()(かけ)る船ともなれば構造も変わるか。では……改めてその船の事を教えてくれんかの?」


「それは……私にも分からない。というより、それが分かる人間は今の時代には居ないんだ。我々の祖先──いわゆる宇宙移民は、かつて“虚粒子”を燃料として稼働していたエネルギープラント衛星の事故、いわゆる『虚空失(ヴォイドロスト)』と呼ばれる事故によってほとんどの電子的な技術(テクノロジー)記録を失ってしまったからね……」


「何と……」


 その事故というのがどういう物かは分からぬが……我らの時代ですら地球が丸いという事実が忘れ去られた時があったしのう……


「どうやら幾星霜を経て、星の海を征く様になっても……人の持つ愚かさは変わらぬらしいな」


「はは、耳に痛い言葉だな。今の我々は虚粒子原動機(ウェーブリアクター)の一世代前の技術である“反物質(アンチマター)発電機構(ジェネレータ)”を文明の中心的な技術として使っているんだ」


 またしても見知らぬ技術が出て来おった。反物質?


「だが、反物質の精製にはそれこそ惑星規模の精製工場(プラント)が必要だ。それに、どれだけ周辺技術を効率化しても……恒星間航行可能な船を作ろうとすれば膨大な反物質を貯留出来る超大型船が必要不可欠になる。それこそ小さな惑星ほどの大きさの物がね……」


「なんともはや……スケールが大き過ぎて想像するのも一苦労な話じゃ。ならばその帝国とやらは、星の行き来をする為にそれほど巨大な船を使っておるのかね?」


 雑談を重ねながら……ミゲル殿と儂らは工場の最奥に隠されていた階段に辿り着き、そこから更に地下へと降りて行く。


「ああ。ただし、その艦艇数は多くはない。三つの恒星系に連なる七つの惑星を支配下に置く帝国といえど……恒星間航行が可能な船を維持するには莫大なコストがかかるからな」

 

 なんと……帝国とは七つもの惑星(ほし)を支配しておるのか? しかし……それほどの権力(ちから)を持つ国家のくせに、このスラムの現状はいったいなんなのだ?


「実はロストテクノロジーの中でも恒星間航行を実現させていた技術体系……いわゆる虚粒子原動機(ウェーブリアクター)関連の技術は“虚空失(ヴォイドロスト)”の時に失われた代表的なテクノロジーなんだ。帝国では未だにその復元を目指して学者達が喧々諤々の議論を重ねているよ」


 今のところミゲル殿が語る内容は……儂にも分からぬ事だらけではある。だが……幸いここにはその技術の粋である船が残っているという。ならば……


(ひとまずは……現物を“残留思念解析(サイコメトリー)”してみるしかあるまい)


 階段を降りてしばらく複雑な道筋を進んだ後……儂らは厳重に施錠されている重厚な扉の前に辿り着いた。


 扉はここまでの建物とは明らかに違う造作をしており、ミゲル殿はおもむろにその表面に掌を押し当てた。


「さあここだ。入ってくれ」


 なんと……扉がひとりでに開きおった?!


「なんともはや……宇宙に上がるほどの長者達は扉の()()()()すら自ら働かんのか……もはや“怠惰”が七つの罪に数えられておった事も伝わっておらぬとはな」


 儂は嘘偽り無い素直な感想を口にすると……ミゲル殿を始めとする彼の部下達や……妹御までがクスクスと笑っている。


「あのアンサラー様(?)……流石にお兄ちゃんの記憶の中にだって自動ドアの事くらいはありませんでしたか?」


 なに?? ちょっと待て……おお?! 確かにアレンの走馬灯(メモリ)の中にも自動ドアは存在しておった!


「スマン……確かに知っておったようじゃ。なにしろ実感を伴っておらん記憶なのでな……」


「まあ、アレンにしても日常的に見かける物では無かっただろうしな。だが……()()()()の中の物は……アレンは勿論、アンサラー殿も想像すら出来ないだろうな」


 儂らは、ミゲル殿が語った言葉の意味をその部屋の中で知る事になる。


「これは……驚きじゃな」


△△△△△△△△△△


 コールサインがデスク上に浮かぶウィンドゥに表示される。私が応答すると……そこには副官であるグレイヒル少尉が敬礼した状態で映し出された。


「ふむ……楽にしてくれ」


「は……閣下のご命令通り、勤務中の下級・中級警邏員合わせて四十名。全員フル装備にて庁舎一階ホールにて集合完了しております」


 敬礼を解いた副官が、捜索隊の編成が完了した事を報告してきた。


 アレン・フィッシャーの捜索隊を組織する様に命じてから一時間。途中、分析官の報告を聞き、その内容から装備変更命令を加えた事を考えれば……十分に速いと言っていいだろう。


「で、アレンなる少年とその妹のスーツから発するビーコン(識別信号)は捕捉しているな?」


「……はい。把握しております」


 一瞬だが……今年で五十路になるベテラン副官の言葉に躊躇いを感じた? 私がこの職に就く前から仕えてくれている百戦錬磨の元星府軍参謀にしては……どうにも歯切れが悪い返答だ。


「……どうした。本作戦に懸念があるなら聞かせてくれ」


 グレイヒル中尉は、鋼鉄で出来ていると噂される表情を一切変えぬまま……私にとって()()()()()を落としてきた。


「……捜索対象のアレン・フィッシャーとその妹、プリシラ・フィッシャーの所在ですが現在スーツの信号はロストしております。ただ……それまでの、順路から予測した結果……彼等は()()()()()()()()()()()()()様の営む難民キャンプに逃げ込んだ物と推測されます」


「……なんだと? それはあの“穢血(あいけつ)のミゲル”殿の事か?」


「……『帝血七貴族』が一つ、グリフォドール家から廃嫡された()()ミゲル殿──の事ですな」


 なんともはや…………面倒な所に逃げ込まれてしまった。

 



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