なんの救いもない、最悪な形での恋の終わりの話
俺はこの小さな国の田舎で衛兵をやっている平凡な男だ。
俺には好きな人がいる。
「おじさーん!」
「お、嬢ちゃん!」
「いつも見守りありがとう!きれいな泥団子できたから、おじさんにあげる!」
「おお!上手に出来たなぁ?有り難く受け取るよ!」
「お母さんとお父さんが、今度またご飯食べに来てねって!」
この可愛い嬢ちゃんは、俺の初恋の人の娘。俺の初恋の人の幼い頃にそっくりだ。とても純粋で、優しくて、可愛い。
嬢ちゃんの母親には、告白は結局出来ないまま。嬢ちゃんの母親と、その夫とは親友のように付き合っている。
そんな俺はまだ初恋を引きずっている。おかげでお見合い話にも乗り気になれない。
「おじさん、弟が今度また稽古をつけてって」
「おう、いつでもこい!」
「おじさん、ありがとう!」
俺は嬢ちゃんにも懐かれていて、嬢ちゃんの弟…こっちは父親似だが、その子にもやっぱり懐かれている。家族ぐるみの付き合いってわけだ。
嬢ちゃんの弟には時々武術の稽古をつけてやっている。いつかは俺と同じ衛兵になるんだって張り切っている。
俺はそれだけで充分幸せだった。それだけの生活で充分満たされていた。けれど、その小さな幸せは突然壊された。
「何するんですか!?手錠!?やめて下さい、離してください!おじさん、おじさん助けてぇ!!!奴隷にするって何!?私何もしてないです!なんで奴隷にならなきゃいけないんですか!?やめて下さい、やめて下さい!おじさん、見てないで助けてよぉ!!!やだ、やだ!パパ!ママ!助けてぇ!!!」
この国の宗主国の第三王子が視察とか言ってうちの村に来た。そして俺の初恋の人そっくりの、とびきり可愛らしい嬢ちゃんは愛玩奴隷として目をつけられた。
嬢ちゃんは俺に助けを求める。俺は第三王子をぶん殴ってでも嬢ちゃんを逃がさないとと飛び出そうとした。
しかし同僚達が俺を押さえつけて無理矢理止める。
「落ち着け!相手は宗主国の王族だぞ!これはお前だけの問題じゃないんだ!あの子のことは諦めろ!」
「離せよ!俺はあの子を守らないといけないんだ!」
「この分からず屋!下手したら村人全員殺されるんだぞ!?」
同僚の一人にぶん殴られて、ようやく冷静になる。村人全員殺される。あの傍若無人な宗主国の王族なら確かにやりかねない。
…俺は、あの子を見捨てる他にない。
あの子は、そんな小競り合いをしていた俺たちを見て。俺たちの会話が聞こえたようで、助けてもらえないと涙を溢れさせた。
「娘を離せぇ!!!」
そこにあの子の父親が現れた。俺たちの制止も振り切って、第三王子の手から娘を救い出そうと飛び出して。
第三王子の護衛達に、銃で蜂の巣にされた。
「あなたぁ!!!いやぁー!!!」
「パパ…!やだ、やだやだやだ!パパー!!!」
目の前はまさに地獄絵図。そしてあの子は攫われていった。
「俺は絶対、あんたを許さない」
騒動が収まってしばらくして。あの子の弟が俺の元に来て、俺を泣きながら睨みつける。
それはそうだ。あれだけ家族ぐるみで仲良くしておきながら、姉は守って貰えず父親は見殺しにされたのだから。
「すまない…」
「なんで、なんで姉さんと父さんを助けてくれなかったんだ!」
「すまない…」
俺は彼に、掛ける言葉が見つからない。俺が今更何を言っても、もう無意味だ。
そこに、初恋の彼女が来た。
「…」
「…」
お互い無言。彼女は彼の手を引いて、俺と目を合わせずにその場を立ち去ろうと背を向けた。しかし、突然振り返って涙を流して叫んだ。
「お前の幸せは俺が守るからって、あの時の約束はなんだったのよ!」
幼い頃の、小さな約束。大切な大切なそれを、俺は守れなかったのだ。
「…」
こうして俺の恋は、ついに全てを失って最悪な終わりを迎えたのだった。




