90話 妬み 前編 (番外 ⑥)
久しぶりの番外です。前編、後編あります。
いつもの様に放課後、図書室に向かう時の事、いきなり後ろから呼び止められた。
「おい、武田、ちょっと待てよ」
同じクラスの後藤だ。それなりに背が高くて、それなりに男前で、そこそこモテて、それなりに性格も歪んでいる奴。できれば関わり合いになりたくない人ですが。
「なに?何か用事であったっけ。当番でも忘れていた?」
「そんなんじゃねえよ。ちょっと話がしたいんだ。付いて来てくれよ」
「ここじゃ、ダメなのか?」
「あまり人に聞かれたくないんだよ。直ぐに済むから来てくれよ」
ほぼ無理やり、校舎の裏手まで連れて行かれた先には、これまた同じクラスの猪田が待っていた。 猪田は後藤とよくつるんでいる奴で、こいつもそれなりに性格が歪んでいる奴だ。
なんだか嫌な予感がするな。
「こんな人気のない所に呼びつけて、用事はなに?」
2人はニヤニヤ笑いながら、上から目線で口を開いた。
「お前さ、最近調子のってないか?お前みたいな陰気臭いやつが女子と帰るとかないんだけど。また、前みたいに孤独に独りでいろよ」
ああ、矢代さんときみどりと帰っていた時の事を言っているんだな。メンドウクサイ奴。
「別にたまたま一緒になっただけで、誘ったわけでもないよ。そもそも、そんな話どうでもよくない?」
あまりにも面倒くさくなってきたので無視して帰ろうとすると、腕を掴んできた。力ずくで思い通りにさせようって言う訳か。
「おい、そこで何やっているんだ」
遠くから見ていた用務員が異変を感じたのか、大きな声で叫んだ。
後藤はちっと舌打ちをして将人を突き飛ばした。そして「調子に乗るなよ」と捨て台詞を吐き、2人は立ち去った。
やれやれ、面倒くさい事になっちゃったな。エスカレートする様なら先生にでも告げ口するか。 さっさと図書室に寄って帰ろう。
◇ ◇ ◇
翌日の朝、教室に入ると何やら揉め事が起こっていた。揉め事の中心は昨日絡んできた後藤と猪田と友人の徹だ。その周囲には数人のクラスメートがおろおろしている。
「そんな、しょうもない嫌がらせはやめろよ」
「お前には関係ないだろう。正義の味方かよ」
2対1なので、徹は少し怯み気味だが、弱気を見せまいと頑張っている。
「徹、おはよう。どうしたんだ?」
「武田には関係ない話だ。口出しするな」
「いや、関係あるだろう。お前らが将人の机の中にごみを詰めたり、椅子に画びょうを置いたりしょうもない事をしていたんじゃないか」
徹は皆の前で後藤たちのしていた事をはっきりと口にした。
「そうか。嫌がらせを始めたんだな。それを徹が咎めてくれたんだね。有難う、ま、先生に告げ口してくるよ」
「待てよ」
そう言って後藤は将人の腕を掴みにかかったが、それを徹が制した。
「お前もいちいち煩いんだよ」
後藤は徹に殴り掛かってきた。ここで正当防衛成立。
将人は徹を殴ろうと突き出した拳を、顔に到達する前に掴み一気に投げ飛ばした。
「ガラガラガラ」と大きな音を立てて、並べてある机は散乱した。机であちこちを打った後藤は床で唸っている。その姿を見た猪田は血の気の引いた表情で、後藤を見つめていた。
「猪田。お前もかかって来るのか?」
将人は厳しい視線を向けた。
「いや、おい、じょ、冗談じゃないか。本気じゃなかったんだよ。そんなに怒るなよ」
手を振りながら目いっぱい否定をし、顔いっぱいに冷や汗をかきながら後ずさりをする猪田。そこへ騒ぎを聞きつけた担任が息を切らせながらやって来た。
「おい。何の騒ぎだ。後藤どうしたんだ。誰かこの状況を説明しろ」
周りで見ていたクラスメートたちは下を向いて黙っている。きっと、この後、後藤や猪田に目を付けられるのを恐れたのだろう。そう思うと、徹は勇気があるなあ。
「それなら、後藤と武田に直接事情を聞くことにする。生徒指導室まで来い」
「先生、俺も関わっていますので一緒に行きます」
徹が名乗りを上げて付いて来ようとした時
「先生。後藤君のしていた事を私見ていました」
必死になって震える声を絞り出したのは矢代穂乃果だった。
教室で後藤と猪田がしていた事を話し、将人に伝えに行こうと思った時に丁度、たまたま早く登校していた徹が咎めて揉め事になった。そして先に徹に殴り掛かろうとしたのも後藤だ、と一生懸命説明をした。
必死になって将人と徹を庇う穂乃果を見ながら後藤は項垂れた。少しの妬み心からかえって女子達から敬遠される原因を作ってしまったのだ。
「武田。今迄にも2人になにか嫌がらせをされたことはあるのか?これは明らかにいじめだぞ」
「昨日、2人に呼び出されて、調子に乗っているって脅されましたけど、具体的に何かされたのは今日が初めてです。昨日の事は用務員さんが見ていましたよ」
ひょうひょうと答える将人を見て教師は(なんだか武田は変わって来たな。肝が据わってきたというか、妙に大人ぶってきたというか。彼自身が変わる何かがあったのだろうな)と思った。
「わかった取り敢えず、後藤と猪田、一緒に来い。武田も後から話を聞かせてもらう」
2人が教師に連行された後の教室は妙な空気で包まれていた。




