1話 侵略と希望
ドンドンドン 激しくドアをたたく音がして、兵士のラルゴが血相を変えて飛び込んできた。
「姫!ラシアンの大軍勢が国境近くまで迫ってきております。我が国の勢力ではとても太刀打ちできる数ではございません。直ぐにお逃げください」
ソフィアは驚き、すぐさま窓から外を眺め青ざめた。国境付近で赤い光が絨毯の様にひしめいている。
「クッ…兵を集結させているという噂があったが、もう攻め込んでくるとは、直ぐに父上に知らせに行く」
ソフィアは自室を飛び出し、王のもとへ向かった。ラルゴも後に続いた。
「父上、非常事態です。ラシアンの軍勢が国境近くまで攻め込んできております」
緊迫した様相でソフィアは王マテオに伝えた。
「なに!こんなに早くに侵略を開始するとは…隣のマリス国が侵略されたばかりだというのに。準備が間に合わなかったか…」
周囲は緊迫した状況に包まれる。
「父上!私が時間を稼ぎますので、直ぐにお逃げください」
「馬鹿なことを言うな。民を置いて王である私が逃げるわけにはいかぬ。おい、ラルゴ!緊急避難命令を出し、直ぐに民を避難させろ。そして、斥候に隣のフィビランドに向かわせ、この事を知らせるのだ。私は前線に出向き時間を稼ぐ。戦いたくない兵は一緒に避難させてかまわぬ」
ラルゴは傍にいた兵士に王の命令を伝えた。
命令を受けて兵士はヒト型から妖精へと変化し飛び去って行った。
「戦いに参加できるものは私と一緒に結界を張りに付いてこい。それで、出来る限りの皆が避難できる時間を稼ぐのだ」
そう言うと、マテオ王は懐中時計のようなものを懐から取り出し、大きなボタンを押した。そしてソフィアの方へ向き直り
「よく聞け、これはリワインドタイマーと言って、我が国の秘宝だ。一度押すと押した時間を記憶し、もう一度押すと、さっき押した時間に戻ることができるものだ。小さなボタンが3つ付いているだろう。3つの時間を記憶することができるのだ。大きなボタンと小さなボタンを同時に押すとリセットされ、もうその時間には戻せない」
「ソフィアよ、これをそなたに託す。今、戦えどもとてもラシアンにはとても太刀打ち出来ぬ。そなたは生きのび、力を蓄え、その時計を使ってこの忌まわしい侵略を止め、これから起こりえる悲惨な未来を変えてくれ」
と言って、ソフィアにリワインドタイマーを握らせ、
「我々の持つ空想を現実化させる能力を使い、何とか攻略の糸口を掴むのだ、お前がこの国の最後の希望だ。後は頼んだ」
と言うや否や王はソフィアに向かって「トランスミッション」と唱えた。
「あ…」と言う声を残し、ソフィアの姿は消え失せた。
「さあ、ラルゴ、お前は民を逃がし、自由にするといい。私は最後の悪あがきをするとしよう」
マテオは結界が長く持たないことは承知し、勝てるはずのない戦いだという事がわかっている。ラルゴもマテオが死へむかう事を自覚していた。
だが、ラルゴは首を横に振り
「いえ、民を避難させたのち、王の元に参ります。この身は王と共にあります」
マテオは目を閉じ俯いた。
「さあ、参ろうか」
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