p.8
あれから季節はまた1つ過ぎた。今からオレは、配信ライブという形で、ファンの前に立つ。一夜限りの復活ライブだ。
ファンの声を意図しない形で受け取ってから、オレは土手にも行かず、『復活ラヂオ』も聴かず、寝ぐらに籠り、彼女の言葉ばかりを反芻していた。そして、ようやく心のモヤの正体に気がついた。
あの日オレは、自身を強制終了したのだ。
メディアと言うものに疲れ、自身を晒し、自身を取り繕うことに疲れ果て、もう無理だと思ったオレは、強制終了という道を選んだ。辞めると宣言したと思っていたのは、オレ自身がその事を受け入れられず、事実を曲げて、自分に都合よく言い聞かせていたことだった。
しかし、実際には誰にも何も告げてはいなかった。それが未練となり、オレをこの場に縛り付けていたのだ。
それに気がついてからは、これからどうしたら良いものかと途方に暮れた。どういう原理か分からないが、オレはまだここにいる。行き先もわからず、ただここにいる。暗い寝ぐらに閉じ籠り、ただひたすらに考えた。どうしたら良いかと。
そしてようやく考えついたのが今夜の配信ライブだった。それを全力でやり切り、自身の口から、きちんと別れの言葉を伝えること。それこそが、今、ALISが必要としていることだと思ったのだ。
心を決めると、無性に『復活ラヂオ』のOTO姫さんの無感情で、機械的なあの声が聴きたくなった。
スマートフォンの画面を光らせる。しかし、そこには、『復活ラヂオ』のアプリがない。どんなに画面をスライドさせても、どこにもない。
あの日、気がついたら、スマートフォンに『復活ラヂオ』のアプリが入っていたように、気がついたら、アプリは消えていた。もう、オレには、必要が無いということだろうか。
あの特徴ある無感情な声がもう聞けないのかと思うと、少しばかり寂しさを覚えるが、アレは、きっと、道に迷ったオレの道を照らすために、手渡されたライトのようなものなのだろう。進むべき道が見えている今、ライトは必要ない。自信を持って進もう。
突然で、不思議な、オレの一夜限りの復活ライブ。
果たしてどれだけの人に必要とされているのかは、分からない。けれど、オレ自身が、また道を見失わないために。ALISの言葉に救われたと言ってくれた人に、光を与えるために。オレは、しっかりと今のオレの、オレが身勝手に終わらせてしまったALISの言葉を伝えよう。
さぁ、復活ライブの始まりだ。
完結しました☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
こちらは、『ちょっぴり不思議体験記 〜不思議体験短編集〜』シリーズ作です。
他作品も併せてお楽しみ頂けると幸いです。