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p.2

 足を伸ばした拍子に、ポケットの中のスマートフォンが太ももに当たり、その存在をここぞとばかりに、オレに主張してきた。


 ポケットから取り出すと、指は、ロックを解除する様に、自然と画面をなぞる。


 土手に吹く緩やかな風は、オレの心や頭に広がる暗い靄を運び去ってくれたのだろうか。いつもだったらそんな気は起こらなかっただろう。しかし、今は、自分のそばに音があってもいい様な気がしていたのだ。


 オレは、特に躊躇することもなく、明かりが灯った画面の、いつ入れたのかもわからない『復活ラヂオ』のアプリをタップした。


 確かに、タップをした。それなのに、スマートフォンからは、一切音が溢れない。どれだけ耳を澄ましてみても、土手の下を時折通る車の音、自転車が軽やかに走り去る音くらいしか聞こえなかった。


 何だよと、期待を裏切られた様な悔しい気分になって、スマートフォ投げ出し、その横に、自身の身体も投げ出した。


 視界には、キャップの鍔に遮られた然程広くない青空が映る。これが水色だと言わんばかりに、隙間なく塗られた様な空の色は、キャップの影が無ければ、今のオレには明るすぎて、とてもじゃ無いけれど、見る事は出来なかっただろう。


 頭の後ろで手を組んで、被っていたキャップの鍔をもう少し下げる。水色が消えて訪れた仄暗い闇の中、目を閉じた。


 時折サワサワと駆け抜けていく風と、ふんわりと降り注ぐ日射しが、いつのまにか狂っていたオレの五感を刺激する。光も風も音も。外の世界は、こんなにも心地良いものだっただろうか。


 いつしか、無心で心地良さに沈みそうになっていたオレの鼓膜を、突然、小さな音が揺らした。


 その音は、次第に大きくなる。ガサガサとまるで、昔、ラジオの周波数を合わせる時に鳴っていた様な耳障りな音と、それに混じって、何か声の様なものが聞こえてきた。音のする位置的に、先程投げ出したスマートフォンからだろう。


 オレは、キャップで視界を閉ざしたまま、音を消すために、音のする方を手で探り、スマートフォンを掴み取る。ほとんど指の感触だけで、アラームを消す様に、その音を止めようとした拍子、スマートフォンからは、それまでの雑音とは違う、クリアでいて、そのくせ異質な音が漏れてきた。


 男とも女とも分からない、機械じみたその声は、感情の伴わない声音で、少し早口に何かをしゃべっている。異質すぎるその声に、思わず手が止まり、耳をそば立てて聞いてみた。

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