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1話:お兄ちゃんどこぉ~~!?

助けて、お兄ちゃん。今、私の目の前にはドラゴンがいます。

まだ10歳。短い人生でした。リビングでお兄ちゃんとゲームをしていたところまでは覚えてる。

だけど、今現在気が付いたらドラゴンがいた。


転生転移したのだとしても、小説や漫画なら貴族の子供として生まれ変わったとか、神様からチートをもらうとか……。

それなのに気が付いたらドラゴンとの対面ってなかなかハードモードすぎない!?


私はドラゴンに対して、ややぎこちない笑顔を向ける。

ごくりと生唾を飲み込む。目には溢れるばかりの涙が溜まっていき、額からは汗がだらだらと流れ落ちてくる。

後ろへ逃げようと後ずさろうとすると硬い壁に突き当たった。


どうやら逃げ出すことは難しいらしい。

せめて誰か助けてくれそうな人や武器がないか辺りを見渡す。

何もない。あるのは半壊になった柱のみ。周りには人影がまったくない。

誰も居ない場所なのか、すでに避難済みなのかはわからない。

ついでに武器になりそうなモノも見当たらず、空を見上げると真っ青に染まっていて眩しく光る。


なんでこんな目にあってるんだろう。

お兄ちゃんと一緒にゲームをしていたはずなのに……。

私は大きく深呼吸をした。このままだと私はドラゴンのお腹の中に入ってしまう。


夢の中でも食べられるのは嫌だし、これが現実ならこのまま死んじゃうのは嫌だ。

せめてもの抵抗だ、私は恐る恐る口を開いた。

そして、ドラゴンを小バカにするような見下した視線を向ける。


「……っ、……ざ、ざぁーこ♡ざぁーこ♡寝込みしか襲えない♡雑魚ドラゴン♡」

ドラゴンは私の言葉を理解したのか怒号をあげた。鼓膜が破れてしまうのではないかと感じてしまうほど空気が振動した。


なんか滅茶苦茶怒ってる!?

え、嘘。ドラゴンって私の言葉わかるわけ!?


鼓動が速くなった気がした。足がガクガクと震えてしまい立ち上がることさえ無理そうだ。

煽るのはもうやめて深呼吸をしよう。

私は気持ちを落ち着かせるために、再び口を開いた。


「あれれ~?まさかの図星で顔真っ赤♡」

ちがーう!!私は別に煽りたいわけではなかった。

だけど私の口は止まらない。悪い癖だ。ついついピンチになると煽ってしまう。


だってお兄ちゃんにはその戦法でゲームに勝てたし。

負けたことなかった。そう、煽ることによって、お兄ちゃんにゲームで負けたことなかった。

だからこれは私の癖であり、必勝法だ。きっとこの状況もどうにかなるはず……。


……な、なるわけないじゃん!!

ああ、もうどうしたらいいわけ!?


頭の中をパンクしそうなほどフル回転させる。

そんな私の様子を知る由もないドラゴンは怒りを露にしている。

大きく鼻息を吐き出す。長いツインテールの髪が天へと昇っていくかのように舞い上がった。

床に転がっていた瓦礫が飛び散っていく。


小さな瓦礫の欠片が私の頬を掠めた。

私はパチパチと瞬きをする。当たらなくてよかったと思うと冷汗が止まらない。

だけど悟られるわけにはいかない。煽ることでピンチからなんとかなるかはわからないけど……。

ここまで来たらヘタレになったら死亡フラグだろうし。


「うわ♡鼻息荒い♡二人っきりで興奮して気持ち悪♡」

ドラゴンの全身が黒い光に包まれていく。

赤から黒へと染まっていく身体、まるで私の言葉に反応して変化をしているようだ。

ドラゴンは僅かに口から小さな炎を漏らす。


本格的にまずいかも。

ドラゴンに起きている異変、フォルムチェンジ?進化?よくわからないけど……。

たいてい強化フラグだ。私は死を覚悟する。何故だろう、つい最近同じような場面に遭遇したような気がする。


夢なら覚めてほしい。

だけどこれが現実なら……最期にお兄ちゃんに会いたかったなぁ。


ドラゴンは大きな口を少しだけ開いた。粘り気の強い唾液が糸を引いているのが見えた。

剥き出しになった牙は刃物のように鋭く、私の頭上へと振り落とされた。


「ひ、ひぃ……。い、いやぁ!!」

やっぱりこのまま大人しく食べられてしまうのは嫌だ。


私は意を決するように拳を握りしめた。

そして、少しでも抵抗するため握りしめた拳を振り上げた。


拳はドラゴンの顎の下に入り込み、ぶよっとした柔らかい何かに当たる。

ドラゴンが一瞬だけ宙に浮いたような気がした。

目をパチパチとさせて何が起きたのかを理解しようとする。


時が止まるかのようにスローモーションでドラゴンが落ちていく。

地面が大きく揺れた。地震でも起きたのかような物音を立てる。

気が付くと目の前には倒れ込んだドラゴンの姿が見えた。


私は再度瞬きをした。何が起きたのかわからない。

だけどこれだけは言える。

「ざっこぉ♡」


思わず頬が緩みだす。口元が釣り上がり、ニヤニヤとした笑みが止まらない。

あんなに強そうだったドラゴンを楽々倒しちゃうなんて、もしかしてチート能力もらっちゃったぁ~~!!


私は鼻をふふんと鳴らす。倒れ込んだドラゴンを見下すように視線を向けた。

大きく足を振りかざしてドラゴンを蹴り上げた。


「っ……!!」

体に衝撃が走った。まるで鉛を蹴り上げたかのように足の指先が痛い。

私は思わずその場にしゃがみ込んだ。声を抑えるように歯を食いしばる。


痛いっ!なんでぇ、ゆ、夢じゃないの!?

それにチート能力を持ってるはずなのに普通に痛いだなんて!


私は心の中で必死に後悔した。調子に乗ったことを。

だってこんなにも痛いと思わなかったし。

私は少しでも気を紛らわそうとして、辺りを見渡した。


元々神殿だったのであろう半壊となった柱の奥には小さな祠が見えた。

また、周りはたくさんの木々が生い茂っている。


もしかしたら何かが襲ってくるかもしれない。

少しだけ警戒心を高めて、私はドラゴンの影に隠れた。


時間と共に段々と痛みが和らいでいく。

それは現実を理解するのには十分な時間だった。


夢じゃないなら、私はこれからこの世界で生きていかないといけないってこと!?

それになんでドラゴンを倒せたかわからないと生きていけないし。

……あと、一番気にしないといけないことが1つある。


私は息を大きく吸い込んだ。

小さな胸にこれでもか!っていうくらいに空気を溜め込んだ。

溜め込んだ空気が腹の奥底に沈んでいた不安な気持ちを押し上げる。


「お兄ちゃんどこにいるのぉー!?」

もしかしたら近くにいるかもしれない。私はそんな甘い期待を込めて大きな声で叫んだ。

不安な気持ちを吐き出すように。こんな場所、一人で生きていけないよ。


「誰かいるのか。」

野太い声が返ってきた。

太陽に照らされて、キラリと眩い光が見えた。


もしかして神様?

私はごくりと生唾を飲み込んだ。


ガサガサと木々の隙間から厳つい顔をしたハゲが顔を出すのであった。



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