第七話 詫びはしないと気がすまない!
ジンが討伐の打ち上げで酒を飲まなかった事を不満に思っていたトイだったが、一人魔術の訓練をする姿に印象を改めた。
翌朝廊下で鉢合わせした二人は……?
どうぞお楽しみください。
「あ」
「お」
「……おはようございます」
「……おう。おはよう」
打ち上げの翌朝。
廊下でばったり出会ったジンとトイは、それぞれ言葉少なに挨拶した。
そのまま通り過ぎるかと思われたが、ジンはそのままトイを睨み付ける。
「……昨日は随分飲まれたようですね」
「あぁ、まぁ、な」
「かなりの数の方が二日酔いでダウンしていました。国防の要としての意識はどうなっているのですか?」
責めるようなジンの口調。
昨夜の姿を見ていなかったら、トイは間違いなく反論していただろう。
しかし魔術の精度を高めるために、一人訓練を行っていた事を知り、信頼感と失言の罪悪感があるトイに怒りはなかった。
「あぁ、魔獣の襲撃は規則的なんだ。取り逃しがあると散発的な襲撃があるけど、大規模な襲撃は五日にいっぺん。取り逃しがなければ、その間の襲撃はまずねぇんだ」
「! そうなのですか……。では昨日のような宴会は、取り逃がしがなかった時だけのお祝いなのですね?」
「そういう事だ。本当に久しぶりなんだよ。しかもこっちに怪我人なし。あんなに心置きなく飲めたのは初めてかもしれねぇな。……あんたのおかげだ」
「それで副隊長さんは、あんなに必死に同席してほしいと勧められたのですか……」
納得した様子のジンは、トイに再び頭を下げた。
「先程の揶揄するような発言、失礼いたしました」
「え、あ、いや、それちゃんと説明してなかったし……。悪かったな、それで酒飲まなかったんだろ?」
「あ、き、気付いていらっしゃったんですね……」
「あ、まぁ、な……」
自分の酒を飲まないから凝視していたとは言えず、トイは曖昧に濁す。
「折角のお酒でしたが、お酒が残っていると魔術の精密な発動に影響するので……」
「真面目なんだな。夜中に魔術の訓練してたし」
「なっ! そ、それも見てたのですか……!」
「あ、その、食堂に酒取りに行く途中、廊下からチラッと見えて……、悪ぃ」
顔を赤くするジンに、トイは失言を後悔した。
成果でのみ自分を示そうとするジンのようなタイプにとって、努力が明らかにされるのは相当の恥ずかしさだろう。
トイ自身がそうだから、ジンの羞恥心が痛いほどわかった。
「だから、その、悪かった……」
「い、いや、見えるところでしていた僕が」
「じゃなくてよ! ……その、あんたが来た日に、く、苦労知らずのボンボンって言っちまって……」
「……あ」
「その、ごめん……」
「……いえ、そんな……」
息が詰まるような、それでいてどこか柔らかいような空気が二人の間を流れる。
「……あの」
「……その」
「隊長! ジン様! おはようございます!」
「! ……ルブ……!」
「あ、副隊長さん、お、おはよう、ございます……」
何かを言おうとした二人は、駆け寄って来たルブによって慌てて言葉を飲み込んだ。
何かを察したルブは、二人の間に入り、勢い込んで話しかける。
「いやー、隊長! 昨日はいい会でしたね!」
「あぁ、うん……」
「ジン様も無理言ってすみませんでした! ありがとうございます!」
「い、いえ、み、皆さんとお話できて、楽しかった、です……」
「いやぁお優しい! 皆も良い方が来てくれたと喜んでましたよ!」
「あ、ありがとう、ございます……」
「優しいと言えば隊長! 昨日は途中から水飲ませてもらったおかげで、今朝はほとんど酒が残りませんでした!」
「あぁ、まぁ、な……」
「酒取りに行くって食堂から出てったのに、戻った時は水差し持ってて、何か気が変わる事でもあったんですか?」
「!」
「!」
「え?」
全く同じタイミングで赤くなる二人に、ルブは驚いて二人を見比べる。
(そういやあの時ジン様も食堂にいなかったような……。という事は、二人で何かあったのか!? 隊長があんな時間に会を終えたのも……!?)
その時、ルブに電撃が走る!
(つまりこの睨み合いは喧嘩ではなく……! そうか! そういう事でしたか! 隊長にもようやく春が……!)
一人納得したルブは、満面の笑みで二人に話しかける。
「そーだ! 明日は行商人が来る日です! 隊長、いつも通りお願いします!」
「あ、あぁ、そうか、そうだな……」
「ジン様も行ってみるといいですよ! 色々なものが取り揃えられてますから!」
「そうですか。覗いてみます」
「じゃあ隊長、ジン様の案内、よろしくお願いします!」
「は!? 何でオレが……!」
「お願いしまーす!」
有無を言わさず走り去るルブ。
追いかけるのを諦めたトイが、がしがしと頭をかく。
「……仕方ねぇ。明日朝メシが済んだら、北側広場に集合な」
「いえ、一人でも買い物くらいは……」
「あいつら貴族相手だとしつこいからよ。オレも買うもんあるし、その、さっきの詫びがわりだ。最初だけでも同行させな」
「……ありがとうございます。よろしくお願いします」
「……おう」
そんな二人のやり取りを、廊下の陰からルブがにやにやしながら眺めていた。
読了ありがとうございます。
ルブ、惜しい! でもグッジョブ!
次回は二人でお買い物。
本日夜七時に投稿予定です。
よろしくお願いいたします。




