第六話 オレの酒をなぜ飲まない!
魔獣撃退は無事成功するも、二人の仲は相変わらず。
ルブの必死の懇願で、宴会には参加する事にしたジンだったが、騒動の火種はくすぶって……。
宴会の行方やいかに。
どうぞお楽しみください。
「んじゃ今日の大戦果を祝して! 乾杯!」
『かんぱーい!』
「……乾杯」
兵舎の食堂に明るい声が響く。
ルブに拝み倒されて連れてこられたジンだけが不満げに、それでも一応杯を掲げる。
「いやー! ジン様すげぇな! 魔獣共が爆発でドーンって吹っ飛んでさぁ!」
「あぁ、胸がスーッとしたぜ!」
「僕こそあなた方があれほど頑健で、勇敢な兵士とは知らなかったです。魔獣の突撃にびくともしないなんて、驚きました」
「そりゃあジン様の魔術があったからだぜ!」
「そうそう! 今までは無傷で突っ込んで来るからさぁ。ホント助かったぜ!」
「ありがとうございます。これからも力を合わせて戦い抜きましょう」
「あぁ!」
「よろしくな!」
「……」
ジンと兵士達が楽しく話をしているのを、不機嫌そうな顔で見つめるトイ。
ルブは気が気ではない。
「た、隊長……。あ、あいつら隊長差し置いて、何してるんですかね……? 俺、ちょっとこっちにちゃんと来るように言」
「あぁ!?」
「ごめんなさい!」
怒りの原因が、自分の部下がジンをチヤホヤしてる事かと思ったルブだったが、それがさらにトイの不興を買った。
ルブはとにかく謝りながら、トイの機嫌を伺う。
「別にそんな事で怒るほどケチな性分じゃねぇよ。オレが腹立ててんのは、あいつが酒に一口も口付けてねぇ事だよ」
「……え、あ……」
戦場において、酒は貴重な嗜好品である。
命がけの戦いに向かう不安を和らげたり、戦いを終えて飲む酒を生き残る支えにしたりする兵士もいる。
そのため支給されるものだけでは足りず、時折駐屯地にやってくる行商人から買い置きをして、こういった祝いの場で隊長が振る舞うのが慣例となっていた。
つまりトイの振る舞い酒。
それに口も付けないのは、確かに失礼と言えた。
「い、いや、ほら、全く身体が受け付けないって人もいますから、無理強いは」
「あいつはさっき、わざわざ『飲めないじゃなく飲まない』って言ったんだぞ? オレの酒だから気に入らないんだ、そういう事だろ?」
「う……」
そう言われると、ルブには返す言葉もない。
「やっぱりあいつはオレと徹底的に合わない、その事がよーくわかったよ……!」
「た、隊長! 飲みましょう! 今日は大勝利の祝いなんですから!」
「オレの酒だけどな。あいつが口も付けないオレの酒だけどな!」
「こ、細かい事は言いっこなしですよ! その分俺らに酒が回るんで、むしろありがたいなー! さ、隊長もどうぞ!」
敵意に満ちた凄絶な笑みに、ルブは引きつった笑みを浮かべながら、酒を注ぐしかなかった。
「よし、よく言った! なら徹底的に付き合えよ?」
「……はぃ……」
部隊一の大酒呑みのトイに捕まったルブは、明日の二日酔い地獄を、確定した未来として受け入れる事を決めた。
「あれ、もうねぇのか。ルブ、厨房から一本、いや二本持ってこい」」
「うぅ……、もぅ、のめまへぇん……」
「ったくだらしねぇ。仕方ねぇなぁ」
トイは机に突っ伏すルブを置いて、厨房へと向かった。
すると途中、廊下の窓から外で何かが光るのが見えた。
「ん? 雷? にしては低い……」
じっと目を凝らすと、再び閃く光。
「!」
その光に浮かび上がったのはジンだった。
そのまま見続けていると、ジンがかざした手に炎が光ったり、稲妻が走ったりしていた。
「……そうか」
トイはその姿で唐突に理解した。
今日酒を断った理由。
常識を超えた魔術の腕。
大戦果にも関わらず謝罪した理由。
そして着任の日に怒ったもう一つの原因。
「苦労知らずのボンボン、か。……悪い事言っちまったな……」
ぼそりと呟くと厨房へ行き、酒ではなく水差しを食堂へと運んだ。
「おいルブ。水、飲めるか?」
「……み、みず? いいんれすか……?」
「あぁ、今日は満足した。水飲んで寝るぞ」
「あいがと、ござます……」
「しっかりしろよ。全く……」
「……あぇ? たいちょー、なんか、きげん、いいすか……?」
「……さーな」
「……?」
酒で濁ったルブの視界では、トイの顔に浮かんでいたわずかな笑みに気付く事はできなかった。
読了ありがとうございます。
おや? トイのようすが……?
次話は明日朝七時に投稿予定です。
よろしくお願いいたします。




