第五話 認めはするがやっぱり合わない!
ルブの必死の取りなしも功を成さず、お互いに不信感を抱えたまま始まった迎撃。
果たして無事撃退できるのか?
どうぞお楽しみください。
前回の襲撃から五日後。
対魔獣戦線西地区は、戦闘態勢に入っていた。
「よし、準備はいいな野郎共!」
『おおおぉぉぉ!』
「確認だ! 今回はあの魔術師の策でいく! 会敵する前に一撃魔獣共にぶち込んで、数を減らした後はいつも通りだ!」
『おお!』
「まだあいつの力は未知数だが、オレが任せると言った以上、全員一丸となって遂行する事! いいな!」
『おお!』
「よし! 隊列組め!」
トイの号令で、兵士達は大楯を手に隊列を組む。
それは上から見ると、ほれぼれするほどの美しさ。
物見櫓の上で少しだけ頬を緩めたジンは、魔術の構成に入った。
魔術の発動には、種類、座標、威力を定める必要がある。
ジンはまず座標を定め、種類は広範囲に威力が広がる爆裂系とし、威力を高めていく。
(とりあえず一発目は場所も決まってますから、楽をしないとですね……)
魔術の発動において、手順は非常に大切だ。
特に威力を決める際に、座標を決めているのかいないのかは、魔術師の脳の負担に大きな違いが出る。
膨らみ続ける大きな風船を、自分で抱えながら大きくするのか、破裂させる場所に置いて大きくなるのを待つのとでは、精神的な負担が全く違うのに似ている。
(来た……! まずは一発……!)
ジンは高めた魔術を解き放つ。
兵士達に当たる心配がないから撃てる、遠慮も容赦も皆無の一撃が魔獣の群れを襲う。
「うお! す、すごいですね隊長!」
「……あぁ……。野郎共! 次はこっちが根性見せる番だぜ! 半日かかろうがあの魔獣共をこの線できっちり抑え込みな!」
『おお!』
前衛が大楯を構える腕に力を込める。
後衛がその肩に槍を置き、その機を待つ。
「来たぞ!」
「焦るな! オレ達の役目は殲滅じゃなくて足止めだ! いつもと違ってすぐに魔術は来ない! 倒す事よりも隊列の維持に努めろ!」
『おお!』
大楯が軋む。
槍が唸る。
激しいぶつかり合い。
しかし隊列は微動だにしない。
押し込まれるでも押し返すでもなく、一枚の壁のように魔獣の動きを受け止めていた。
(……これは、侮っていましたね……)
多少隊列が崩れても対応できるように、今度は座標を定めず魔術の構築をしていたジンは、舌を巻いた。
この隊列への信頼感があれば、座標指定してからの構築ができ、より早い発動へと繋げられたのに、と後悔すら感じた。
(……今は仕方ない! 反省は次に生かし、この場を守り切る!)
高めた魔力を指向性の高い光の魔術に変え、兵士達に当たらない位置、威力を設定して放つ。
天から振り下ろされる神の剣のような光の束が、魔獣の群れを薙ぎ払った。
戦場に静寂が落ちる。
「……状況確認!」
『おお!』
いち早く我に返ったトイの号令で、兵士達は残敵の掃討に当たる。
と言っても普段の逃走する魔獣を追うのとは違い、動かなくなった魔獣の喉に槍を刺し、確実にとどめを刺すだけだ。
「魔獣、生存なし! 討伐完了です!」
「よし! 被害は!」
「軽傷とも言えない擦り傷や打撲が少々! 人的被害はゼロです!」
「よし! では撤収!」
ほぐれる緊張感。
副隊長ルブが、トイに報告とは違う口調で話しかける。
「やりましたね! 殲滅! 被害ゼロ! ジン様は本当に」
「黙れ」
「……はい」
有無を言わせない迫力に、ルブは黙るしかない。
(隊長、悔しいだろうな……。怒りに任せてジン様を殴ったりしないといいけど……)
足早に戻るトイに小走りで追いつきながら、その時には自分が盾になって殴られようと、悲壮な覚悟を固めるルブ。
「おーおー、手柄の自慢かねぇ。必死なもんだ」
トイのからかうような笑いにルブが顔を上げると、ジンが物見櫓から走ってくるのが見えた。
先日の自信をへし折る話が頭をよぎり、ルブの顔から血の気が引く。
(な、殴られるなら武装を解除してからが良かったなぁ……)
ルブの嘆きなど知らずに、ジンは二人の前に立つ。
「はぁ、はぁ、隊長、さん……」
「おうお疲れさん。いやーお見事だっ」
「申し訳ありませんでした!」
「……あ?」
「……え?」
ジンの突然の謝罪に、目を点にするトイとルブ。
「お、おいおい。何の話だよ。お前さんのお陰でこちとら余裕で勝てたって言うのによ」
「……僕はあなた方を侮っていました」
「……何?」
ピリッとする空気。
ルブがハラハラしながら二人を見比べる。
「魔獣の突撃、あそこまで完璧に止められるとは思っていませんでした。そのため前回は勝手な行動を取り、今回は魔術の発動が遅れました……」
「遅れ、え、あれで!?」
「黙ってろ。……で?」
ジンは頭を上げてじっとトイを見つめる。
「あなたは立派な隊長です。今後は全面的に協力していく事を誓います。これまでの非礼をどうかお許しください」
再び頭を下げるジンに、毒気を抜かれた顔になったトイが頭をかく。
「……こっちこそあんたが魔術をあそこまで使えるって話を信じなくて悪かったよ。お陰で今日は部下に誰一人大きな傷を負わさずに勝てた。ありがとよ」
「こちらこそありがとうございます」
手甲を外して差し出した手を、ジンはためらわず握った。
(あぁ、良かった! これでこの二人も息の合った『バディ』に……!)
ルブは神に心から感謝した。
「よし! じゃあ今夜は打ち上げといこうか! あんた、酒は飲めるんだろ?」
「いえ、僕はお酒は飲みません」
「はぁ!? 男のくせに酒も飲めねぇの?」
「……『飲めない』のではなく『飲まない』のです。それと女性扱いされるのを嫌がるくせに、相手には男性らしさを求めるとは、都合のよろしい事ですね」
「あぁ!? 喧嘩売ってんのか!?」
「先に喧嘩を売ってきたのはそちらでしょう!」
「何だと!」
「何ですか!」
「まあまあお二人とも! とりあえず装備を外しましょう! ね!?」
二人をなだめて引き離しつつ、やはりこの世に神はいないのだと確信したルブの目は、悟ったような、諦めたような、静かな色に変わった。
読了ありがとうございます。
握手までしたのに何で喧嘩するのだ?
ルブは訝しんだ。
次話は本日夜七時に投稿予定です。
よろしくお願いいたします。




