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第三話 女性がバディなんてありえない!

噛み合わないながらも何とか魔獣を撃退したジンとトイ。

しかし二人の険悪なムードは一層ひどくなり、副隊長ルブは何とかしなくてはと頭を悩ませます。


それではどうぞお楽しみください。

 ルブは緊張していた。

 つい先程、隊長であるトイと大喧嘩していた、魔術師ジンの自室の前。

 どんな八つ当たりを向けられるかわかったものではない。

 しかし副隊長として、バディである二人の協調は絶対に必要と、ルブは覚悟を決めた。


「ジン様、副隊長のルブ・シキレフです。今お時間よろしいでしょうか?」

「はい、今開けます」


 思いの外穏やかな声に、一瞬気を緩めそうになるが、希望的観測が戦場では命取りな事をよく知るルブは、心を引き締める。


「どうぞ」

「失礼いたします」


 鍵を開けて招き入れたジンの様子をそれとなく伺いながら、小さな椅子に腰掛ける。


「今日はお疲れ様でした」

「あ、いえ、ジン様こそ強力な魔術と、その後の精密なサポート、ありがとうございます」

「とんでもない。正直あなた方の突撃後は僕の出る幕はなかったです」

「そんな事は……」


 ルブは、落ち着いた様子のジンの感情を計りかねていた。

 トイに対する態度と違いすぎる。

 必死に考えたルブは、一つの可能性に気が付いた。


「あの、ジン様は、女性が戦う事に、何か思うところがあるのですか……?」

「……」


 怒りとも悲しみともつかないジンの表情の変化に、ルブは自分の問いが正解であり、地雷である事を悟った。


「も、申し訳ありません! 立ち入った事を申しました!」

「……いえ、自分でも幼稚なこだわりだとわかってはいるのですが……」


 表情を緩め、恥ずかしそうに頭をかくジン。

 少し緊張が緩むと共に、ルブにはその理由に興味が湧いた。

 それを知れば、トイとの関係に光明が刺すかも知れない。


「あの、差し支えなければ、お伺いしても……?」

「私の母は魔術師でした」

「! ……では、戦場に……?」

「はい」

「……!」


 ルブは言葉を失った。

 魔術師はこの国の国防の要であり、魔術が使えれば男女年齢問わず駆り出される。

 そして過酷な戦場で命を落とす事や、魔術の酷使で廃人同然になる事も珍しい話ではない。


「それで、その、ジン様も魔術師に……」

「えぇ。私から優しい母を奪った魔獣を、戦場をねじ伏せて、誰もが戦わずに済むようにしたくて……」

「それで隊長が女性である事に対して、あんなに過敏な反応をされたんですね……」


 頷きながら、心の中で頭を抱えるルブ。

 身内を失った事が原因では、おいそれと信念を曲げてもらう訳にはいかない。

 かと言って、トイの性別を変える訳にもいかない。

 どれほど男勝りでも、トイ自身が女扱いされる事を心の底から嫌悪していても、隊員達がそれを慮って男のように扱っていても、トイは女だ。


「それにしても何故あの方は女性の身で隊長に? というより、女性が兵士という事が珍しいと思うのですが……」

「……隊長は、魔獣の襲撃で故郷を失ったんです」

「! ……成程」

「いつか自分の故郷を取り戻す、それが隊長が戦う理由です」

「そうでしたか……」


 じっと考え込むジンに、ルブは一縷の希望を抱いた。


「勿論兵士の世界は男所帯、隊長も女である事で散々苦労をしてきたんです。それで隊長、女扱いされると怒るようになったんです」

「……」

「ですからジン様、どうか隊長を女性としてではなく、共に戦うバディと見てはもらえませんか?」

「それはできませんね」

「えっ」


 おそろしく早い即答に、ルブは目を点にする。


「あのような美しい方を女性と思うなと言うのは無理です」

「え、美し、えっ?」

「この魔獣との戦いに人生の全てを費やすなど馬鹿げています。であれば、戦いののちにそれぞれの幸せを探す事になるでしょう」

「え、あ、それはそう、ですけど……」

「その時戦場にいたから男も同然になりました、などと言っては、嫁の貰い手がなくなります」

「そ、それはそうかも知れませんけど、今は協力をして戦いを終わらせないと……」

「戦いを終わらせるために協力する事はやぶさかではありません。しかしそれとあの方を女性扱いしない事とは別ではありませんか?」

「……はい」


 動揺したルブには、ジンを説き伏せる力は残っていなかった。

 力なく頷くと、席を立つ。


「では明日からもよろしくお願いいたします……」

「はい。明日からは僕の提案した戦術で戦えますからね。苦労知らずなんて言った僕の力で戦果が上がったら、どんな顔をされるんでしょうね?」

「……もしかして着任の日に隊長が言った事、根に持ってます?」

「いえいえ。ただ自信をへし折られて兵士を引退していただけたらいいなと、そう思っているだけです」

(絶対根に持ってる……)


 ジンの作り笑いに寒いものを感じながら部屋を後にしたルブは、重い足取りで隊長の執務室へと向かうのであった。

読了ありがとうございます。


キャラ名第三弾。苦労人副隊長ルブ・シキレフ。

逆から読むと『フレキシブル』。

二人の間を取り持つ存在になるよう名付けたら……。


次話は夜七時に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] トイさんの事情、ジンさんの事情、それをお互いが知ったら見る目も変わるのでしょうか。 二人の事情を知ったルブさん、頑張れ!! キューピッドになるのです! [気になる点] 二人の仲が進展するよ…
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