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第十三話 何があっても死なせない!

魔獣の襲撃に、自然発生とは考えにくい規則性を感じたジン。

トイと協力して、その謎の解明に挑む。


二話分に近い容量がありますが、よろしければお楽しみください。

「こんな森の中に遺跡、か……」

「おそらくこれが魔獣発生の原因でしょう」


 ジンの調査から三ヶ月。

 駐屯地を他の部隊に任せて調査隊となった一行は、森の中の古く、しかし存在感を放つ遺跡へとたどり着いた。


「どう見ても怪しいもんな。どうする? 遺跡ごとジンの魔術で吹っ飛ばすか?」

「この遺跡が発生源ならそれで良いですけど、もしもっと大量に出てくるのを抑えてるのだとしたら、破壊するのは早計ですね」

「そっか、封印してる可能性もあるのか。そこまでは思い付かなかった。流石慎重だな」

「いえ、僕の慎重さは臆病に近いものです。トイの決断なしにはここまで来れませんでした」

「逆だろ。その用意周到さがなかったら、上層部を説得できなかったし」


 魔獣は死んで少し経つと灰のように崩れてしまうため、その生態の研究は進んでいなかった。

 そこでジンは、わざと逃走させた魔獣の行動調査を繰り返し行い、人間以外に敵対行動を取らない事、睡眠を取らない事などから、魔獣を自然界の生き物ではないと断定。

 魔獣の移動速度から目星をつけた地点への調査を上層部に申請し、再三の却下を乗り越え、許可を取り付けたのだった。


「野郎共! ここは魔獣の発生地である可能性が非常に高い! だが実際のところ何もわからねぇ! 妙なものを見つけたら全部ジンに報告しろ!」

『おお!』

「いいか! ここの調査の結果によっては、魔獣共との戦いにケリをつけられる! 気合い入れてけよ!」

『おお!』

「よし突撃!」

「ちょっと待ってください」


 一人冷静なジンの言葉に、全員がたたらを踏む。


「このタイミングで何で止めんだよ!」

「これまでの規則的な襲撃から考えて、この扉が定期的に開く事で魔獣が出てくるんじゃないか、と思いまして。そしてその周期から考えると……」


 ごうん。

 ジンの言葉に呼応するように、扉が重々しい音を立てながら開き始めた。


「成程、わざわざぶっ壊さなくてもあちらさんから開けてくれるって訳だ」

「ただ、飛び出してくる魔獣は、今が一番強いはずです。移動で力を失っていないですから」

「よし、ならこの入口を中心に扇状に展開して抑え込んで、ジンの魔術でトドメってのが良さそうだな。野郎共!」

『おお!』


 隊員達がすぐさま扇形に遺跡の入口を包囲する。

 徐々に開く扉。

 その隙間から覗く魔獣の姿に、


「で、でけぇ……」


 今まで猪大の魔獣と対峙してきた隊員達が呑まれそうになる。

 まるで熊だ。

 反射的に身を引きそうになる隊員達の耳に、トイの笑い声が突き刺さった。


「はっはっは! ジンが脅かすからどんなもんかと思ったら、大した事ねぇなぁ。オレだけでもやれそうだぞ?」


 その軽口に、ジンが両手を上げてやれやれと首を振る。


「手柄を独り占めしようとしても、そうはいきませんよ。むしろ僕の魔術の高速発動で、トイに触れる前に倒してご覧に入れましょう」

「はっ! そんな無茶したら脳みそぶっ壊れて今以上のバカになるぞ! 大人しくオレのサポートに回りな!」

「冗談ではありません! この大きさの魔獣、守りに徹しなければ大怪我します! 無駄な怪我を負わないように、防御を固めてください!」

「お前を守って受ける傷に無駄なもんなんかねぇんだよバーカ!」

「何です!」

「何だよ!」

「はいはい、仲良いのは十分わかりましたから、力合わせてとっとと片付けちゃってくださいな」


 ルブの呆れたような言葉に、ジンとトイはにやりと笑い合う。

 隊員達に笑顔が、そして闘志が蘇る。


「やるぞ相棒!」

「望むところです!」




 後に当時副隊長だったルブは、その時をこう振り返る。


「俺達が盾で固める扇形の陣形は、まるで舞台でした。隊長が槍矛で魔獣をあしらう姿はまるで踊ってるみたいでしたし、ふっと隊長が引っ込むとジンさんの魔術が幕を下ろすように降り注ぐ。筋書きのある芝居みたいな見事な戦いでした」




「何だこりゃ……。研究所……?』

「ここが最深部のようですね……」

「……ジンさん、あの真ん中で光ってるやつ、何ですかね……?」

「おそらくですが、魔獣を生み出す装置でしょう……」


 遺跡の奥に進んだ一行は、様々な魔術設備と、部屋の中央に位置する巨大な装置に目を奪われていた。


『……未来の民よ』

「! 抜剣!」


 突如響いた謎の声に、トイはすぐさま臨戦体制に入る。


「どなたですか! ここに人がいるのですか!?」

『……魔獣は私からの贈り物だ』

「贈り物……?」


 戸惑うジンに構わず、声は続ける。


『……人は争わずにはいられない生き物。……故に私はこの装置を作った。……共通の敵を作り、戦い続ければ、人同士が争う地獄は避けられる』

(過去の魔術師が、人々を団結させるために作った人工の敵、それが魔獣……。そう考えれば大半の辻褄が合う……。だとしたらこの装置は破壊するべきなのか……?)


 考え込むジンに、声はなおも喋り続ける。


『……この施設は破壊しなければ半永久的に動き続ける。……人同士の争いを望まないのであれば、この施設はこのままにして立ち去れ』

「うっせー! 大きなお世話だ!」

「!?」


 トイの怒りに、ジンは沈みかけていた思考から引き戻された。


「お前がどんだけ偉いか知らねぇけど、魔獣がいなかったら争うなんて勝手に決めるな! 絶対わかり合えねぇと思っていた奴とだって、話して、酒飲んで、仲間になれたんだ!」

「トイ……」

「隊長……!」

「オレはこの戦いを終わらせて、ジンに」

『……魔獣は悪ではない。……人の悪を押しとどめる抑止力なのだ。……破壊してはならない』

「こいつ話聞いてねぇな!」


 変わらず喋り続ける声に、トイが怒りをぶつける。


「おそらく音を記録して、人が入ると流すようになってるんでしょうね」

「じゃあここに作った奴はいねぇ、と。ならこいつをぶっ壊せば終わりだな!」


 槌矛をぶんぶんと振り回すトイに、ジンは先程までの迷いが消えているのを感じた。

 過去の賢人の危惧は理解できる。

 だが何を平和とし、何を幸せとするのかは、今を生きる者達が決める事だ。


「やりましょうトイ! 狭い部屋ですから電撃、で……!?」

「おいジン! その鼻血……! お前やっぱり無理して……!」

「ら、らいじょうぶ、れふ……」


 言葉とは裏腹に、膝をつくジン。


「寝てろ! オレがぶっ壊して来る!」

「……早く、しないと……、また、魔獣が……」

「わかってる! 全員であの装置を破壊するぞ!」

『おお!』


 トイの号令で、隊員達は一斉に装置を攻撃する。

 だがそれを想定して作られているのか、


「かってぇ!」

「くっそ! 刃が立たねぇ!」

「斧かハンマーでも持ってくりゃ良かったぜ!」


 苦戦する隊員を見て、ジンがよろよろと身を起こす。


「……やっぱり、僕の、魔術じゃ、ないと……!」

「やめろバカ! 頭ぶっ壊れるぞ!」

「でも、このままじゃ、魔獣が……」

「オレが何とかする! オレを信じてくれ!」

「……わかり、ました……」

「うおおおぉぉぉ!」


 トイが必死になって武器を振るう。

 このまま破壊できなければ、ジンは自分の身を犠牲にしてでも魔術を放つ。


(そうは、させねぇ……! ジンは死なせねぇ!)


 その鬼気迫る攻撃に、さしもの古代の装置も支えを失い、轟音と共に倒れた。


「やった! 壊したぞジン!」

「! ……まだ、です……! 残った、エネルギーで、最後の、魔獣が……!」


 ぬるりと魔獣が、倒れた装置から顔を出した。

 穴から這い出すように現れた魔獣は、周囲にいる隊員を敵と見定めた。


「最後の悪あがきか! やるぞ野郎共!」

『おお!』


 士気は依然衰えない。

 しかし体力と武器は、士気だけではカバーできない。

 装置を破壊するために疲弊した状態で、陣形も魔術の支援もなく魔獣との真っ向勝負。

 体力がさらに削られ、武器が次々と砕け、分の悪さがじりじりと現れて来る。


「くっ!」


 トイの槌矛が折れる。

 何とか残った柄で攻撃を防ぐも、押し込まれる。


「こんの……、野郎……!」


 このままではいずれ力負けし、トイの命運は尽きる。


「隊長を、放せえええぇぇぇ!」

「この野郎! 隊長はやらせねぇぞ!」


 武器を失った隊員達が助けようと飛びかかるも、空いた手で振り払われてしまう。

 この絶望的な状況で、ジンは立った。


「ジン!? やめろ! オレは、何とかするから!」

「……」


 再び鼻から鮮血がしたたり落ちる。


「やめろっつってんだろ! おい! 聞いてんのか!」

「……トイ……」


 魔獣に向かって真っ直ぐ手を伸ばす。


「……やめろよ……! これでお前が死んだら、オレ……!」

「……君は絶対に……」


 手のひらに光が集まる。


「やだぁ……! ジン……! 死んじゃやだよぉ……!」

「……死なせない……!」


 放たれた光は、魔獣の頭を真っ直ぐに撃ち抜いた。

 崩れ落ちる魔獣。

 そして、ジンも。


「ジン! ジン! ジン!」

「隊長落ち着いて! 揺すっちゃ駄目です! おい! 担架持ってこい!」

『はい!』


 その慌ただしさに、ジンがうっすら目を開ける。


「……トイ……」

「ジン! 今外に運んで、すぐ街に戻る! だから、もうちょっと頑張れジン!」

「……トイ、今だけ、約束、破って、いいかな……?」

「や、約束……? 何の事だよ!」

「……僕はね、随分前から……、君を、女性として、愛している……」

「!」


 髪飾りの約束。

 その事に思い至ったトイの目から、涙があふれる。


「やめろよ! そんな遺言みたいな、縁起でもねぇ! 戻ったらちゃんと髪飾りつけるから、その時に、もう一回……!」

「……」

「……ジン……?」

「……」

「おい! ジン! てめぇふざけんな! 言い逃げなんて許さねぇぞ! 目ぇ開けろ! ジン! ジン! ……ジン、目、開けてよぅ……!」


 トイの悲痛な叫びが遺跡に響き渡るが、ジンの目が開く事はなかった。

読了ありがとうございます。


ジンの運命やいかに。


次回最終話。

本日夜七時となります。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自らの命を削ってでも大事な人を守ったジンさん、そして倒れたジンさんに泣きつくトイさん、二人の絆は思っていたよりもずっと深く強く結ばれていて、素敵でした。 随分前から素敵だと思っていたなんて…
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