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第十二話 意識なんて全然してない!

飲み会後編です。

お酒の飲み方比べはうやむやになったはずなのに、なぜか響くトイの怒りを含んだ声。

果たしてこの飲み会は無事に終わるのか。


どうそお楽しみください。

「……おいジン、今なんつった……?」


 トイの怒りに満ちた声に、酒に浮かれていた隊員達の気持ちが一瞬で引き締まる。

 聞こえなかったが、またジンがトイのかんさわる事を言ったのだろう、またいつもの言い合いが始まる、と。


「聞こえなかったのならもう一度言います」


 そんな隊員達のハラハラをよそに、ジンはトイから目を逸らさず言葉を続ける。


「トイ、あなたは素晴らしい方だと言ったんです!」


 沈黙。

 硬直。

 時が凍ったような、それでいて間の抜けたような静寂が食堂を包む。


「元よりこの部隊の練度の高さは素晴らしいと思っていました! 今日は二発とも座標指定で魔術を構築できたので、負担も少なく助かりました!」

「お、おう」

「それだけでなく、隊員の皆さんのためにお酒やつまみを用意して、ねぎらおうとする気持ち! 優しさ! トイがこの部隊の隊長に相応しいと改めて感じました!」

「ど、どうしたんだジン、お前酔ってるのか?」

「酔ってなどいません! 偽らざる本心です!」

「え、ちょ、待てよ……」


 兵士の時は女だからとコケにされ、隊長になってからは隊員におべっかを禁じてきたトイ。

 褒め言葉に慣れていないトイは、真っ向からの賞賛に何と答えていいかわからず、頬を押さえる。


「トイには故郷を取り戻すという夢があると聞きました! 焦りもある中、それでも目の前の隊員の事を最優先で考える! そうそうできる事ではありません!」

「そ、そんな事言うならジンだって! これだけ飲み方知ってるって事は、酒結構好きなんだろ? それを襲撃に備えて一人で我慢したり、魔術の訓練を続けたり……」

「僕はこの部隊唯一の魔術師です! 皆さんを守る責任があります!」

「それがすげぇって言ってんだよ! まだ来て一月も経たねぇのに、こいつらが怪我しないように策を練ったり、差し入れで気を遣ったりしてよ! ここまで本気の奴は初めてだ!」

「……そう、だよな」

「あぁ、前の魔術師なんて、全然俺達と接点持とうとしなかったしなぁ……」


 トイの熱弁に、隊員達が戸惑いながらも頷いた。


「……オレはお前がうちの部隊に来てくれて、良かったって思ってる……」

「本当ですか!? 僕もここに来れて、トイに出会えて良かったと思っています! この出会いは正に運命だと!」

「んなっ!?」


 トイの顔が赤く染まる。

 それを見て隊員達に動揺が走った。


「……おい、これ、俺達邪魔じゃないか……?」

「でも酒はまだあるし、ここで終わりってのも……」

「だけど隊長の春は応援したいし……」

「下手に抜けたら隊長怒らねぇ……?」

「……気配を消すんだ」

「副隊長?」

「静かに飲みながら、二人を見守るんだ。息を潜め、まるでここにいないように……」

「副隊長……」

「だってこんなに良い酒の肴が他にあるか? じっくり楽しむんだよ……!」

『……はい……!』


 隊員達は戦場にいるかのように、気配を消してじっと二人のやり取りを見つめる。

 違うのは何とも言えない笑みを浮かべている事だ。


「トイが訓練の時に、苦しくなっている隊員を励ましたり、気が緩んでる隊員を叱咤したりする、細やかで温かい心配り! 見ていて何とも心が和みます!」

「く、訓練の指導なんだから当たり前だろバーカ! そっちこそ隊員から聞き取りして、被害の出ない魔術を選んだりしてさ! う、嬉しいなって思って……」

「トイの仲間は僕にとっても大事な仲間です! だから」

「あー! もー! うっせぇうっせぇ! きょ、今日はオレもう寝るから! ちゃんと片付けておけよ!」


 一方的にそう叫ぶと、トイは食堂を駆け出して行った。

 置き去りにされたジンは、首を傾げる。


「トイ、どうしたんでしょう。具合でも悪いのでしょうか……」

「……あの、ジンさん? ひょっとして気付いてないですか?」

「何にでしょうか。あ! そうだルブさん! あなたにも言いたい事があったんですよ!」

「へ? お、俺に?」

「はい! いつも僕とトイが言い合いをしている時に仲裁をしてくださってありがとうございます! 僕がこの部隊で何とかやれているのはルブさんのお陰です!」

「え、あ、ありがとうございます」

「それに戦いの時もトイの死角をフォローしていて、二人の連携あっての部隊だと感服しています!」

「は、はぁ、どうも……」

「あと隊員の皆さんからの信頼も厚く、いつ隊長に昇格してもおかしくないと思います!」

(……成程、『褒め上戸』って訳か……)


 ジンが酔っている事を確信したルブは、トイの心中との温度差を感じて、天を仰いで目を閉じた。




 翌日昼。


「入れ」

「失礼します」

「失礼、します……」

「おう。ルブも来たのか。資料は出しておいた。紙とインクも置いといたが、足りなかったら言いな」

(あれ? いつも通りの隊長だ。ジンさんの言葉、あんまり真に受けてないのか?)


 ジンから戦闘記録の洗い出しの話を聞き、トイが照れで何かやらかすんじゃないかと心配して来たルブは、拍子抜けした気分だった。


(これなら部屋で寝てりゃ良かったか……。何するのかも知らないし……)


 そんなルブの心境など知らず、ジンはトイに頭を下げる。


「ありがとうございますトイ。助かります」

「……おう。……早く戦い、終わらせような……」

「〜〜〜っ!」


 ぷいっと横を向くトイの耳が真っ赤になっているのを見て、ルブは出そうになった声を何とか押し殺した。


(この戦いが終わったら、俺、二人の結婚式に出るんだ……)


 戦争中に言ってはいけない台詞を心に浮かべながら、ルブはジンの洗い出しを手伝い始めた。

読了ありがとうございます。


ジンの ほめじょうご!

こうかは ばつぐんだ!


残り二話。魔獣の謎に一気に迫ります。

明日朝七時、投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 褒められ慣れてないせいで照れて赤くなって逃げ出すトイさん、可愛いですね。 ルブさんは褒められても酷く落ち着いていて……相手がトイさんだから褒めてたって方がルブさん的には良かったのでしょうか…
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