オバケと小鬼のさがしもの
深い深い森の中。
冬になって落ち葉がたくさんつまれた森に、ひとりのオバケがいました。いつからいて、どうしているのかは誰も知りません。
オバケはいつもひとりでした。
今日もひとりでお散歩です。赤、黄色、緑、ときとぎ松ぼっくりのまんまると、こないだ降った雪のかけら。
冬の森もカラフルで楽しいのです。
オバケがふわふわ浮いてると、泣き声が聞こえてきました。
「えーん、えーん」
小鬼が泣いていました。
トラ柄のパンツにちいさいツノ。冬だからケープを羽織っています。
「小鬼くん、どうしたの」
「僕のおへそ、ないの」
「おヘソがないの? どれどれ。見せてごらん」
ぺろり。
ケープをめくると、ぽっこりしたお腹にはちょこんとちいさいおヘソがありました。
「おヘソあるよ」
「ないの」
「オニのおへそは大きくてでっぱってないといけないの。かっこよくないの」
えーん えーん
小鬼は涙をポロポロ流して泣いています。
おヘソはあるのに、大きくなくていやだと泣いています。
「うーん。困ったね。そうだ、森のみんなに聞いてみよう。どうしたら大きくなるか聞いてみよう」
オバケと小鬼は森のみんなに聞きにいくことにしました。
はじめは冬の巣作りに忙しいウサギの夫婦。
ぺろりとケープをめくって、
「ウサギさん、どうしたらおへそは大きくなりますか」
「知らないよ」
「知らないよ」
ウサギは知らないようです。
「さむさむ」
「ケープをめくったら寒いね」
つぎは村の冬眠中のうとうと熊。
ぺろりとケープをめくって、
「熊さん、どうしたらおへそは大きくなりますか」
「小さくても気にしないよ」
熊は気にしないそうです。
「さむさむ」
「お腹が冷えちゃうね」
さいごは村の見回りをしていたおヘソの大きい大人の鬼。
ぺろりとケープをめくって、
「鬼さん、どうしたらおへそは大きくなりますか」
「大人になれば大きくなるよ」
大人のいうことは本当に思えました。
「さむさむ」
「腹巻きもらおう」
いろんな人に聞くたび、おヘソを見せていた小鬼はお腹が冷えそうです。いちどお家に帰って温めないと。
「あらまあ。お腹が冷えてしまうわ。腹巻きしましょうね」
小鬼のお母さんがもこもこでみょーんと伸びる腹巻きをくれました。
さっそくおなかに巻くとポカポカ暖かくて、寒くなくなります。
「僕のおへそ、みえなくなった」
「きっと大切にしていたら大きくなるよ」
おヘソを隠した小鬼は、それからはおヘソのことを言わなくなりました。見えないから気にならなくなったのです。
もこもこのケープと、もこもこの腹巻き。
温かい服を着て、小鬼は冬の間中、オバケとたくさん遊びました。
温かい春の風が吹く頃。
オバケは小鬼に言いました。
「子鬼くん。ぼくもそろそろ行くね」
「どこに行くの」
「遠くだよ。遠くにいって、少ししたらまた生まれ変わるんだ」
「生まれかわったらもどってくるの」
「わからないよ。きっと覚えていないから」
「かなしいよ、さみしいよ」
えーん えーん
「ぼくも寂しいよ。でもね、冬のあいだ小鬼くんと遊べてとっても楽しかったよ」
小鬼も思い出していました。
オバケと追いかけっこしたこと。オバケといっしょに冬の森にどんぐりを埋めたこと。オバケと大人に鬼に相談に行ったこと。
そうして、思いつきました。
「オバケくん、オバケくんがわすれちゃっても、僕がさがすから待っててね」
「探してくれるの」
「ウサギさんにきくよ。熊さんにきくよ。大人にきくよ。みんなにきいて、オバケくんを見つけるからね。見つけたらまたおともだちになってね」
「もちろんさ!」
小鬼とオバケはにっこりしました。
さみしいけれど、きっとさみしい時間は少しだけ。
小鬼がりっぱな鬼になったとき、きっと生まれ変わったオバケに会えるでしょう。