第1章 ♯16 約束
前回の続きです。
《何日か前に貴女と同じ、デスウルフを見たわよ!貴女より、少し大きかったけど、顔はそっくりだったわ。》
《・・・えっ!?》
きららはかなり驚いた顔をしている。
そういえば、この森にデスウルフは棲息していない。
きららの仲間かな?
《じゃあ、私たちはこれで···。今度私にも料理作ってくださいね!ほら、貴方、行くわよ!》
《兄貴、またすぐ喚んでくださいねぇ〜》
熊五郎は熊美に引き連れながら帰ってゆく。
「さっき言ってたデスウルフってお前の仲間じゃないの?」
《···判らないわ。偶偶この森に来ただけかもしれないし。》
きららの表情はどことなく暗く感じる。
きららはちょっと前に誘拐されて此処にいる。
きららを探してる両親だって居るはずだよな。
凄い生意気で口も達者だが、きららだってまだ子供。
親にだって会いたいと思うし、甘えたいとも思う筈。
会わせてやりたいな···
「よし、そのデスウルフ探してみるか!」
《え···、いや、いいわよ!大丈夫よ!別に私は御主人様と一緒に居られるだけで幸せだから!》
うん、人間の女性に言われたら最高の言葉だな。
探知スキルを発動すると俺たちの近くにデスウルフがいた。
此方に向かって来ている。
凄いスピードで。
「物凄いスピードでデスウルフがこっちに来てるぞ。」
《え、なんで!?》
「知らないが、お前に会いたいんじゃないの?」
そんなことを言ってる内に一匹のデスウルフが姿を見せた。
きららよりも大きく、貫禄もある。
大人のデスウルフって感じ。
あれなら乗れるかな?
でっかいデスウルフは俺を観るなり、襲ってきた!
デスウルフの突進を俺はひらりと避け、後ろに下がる。
尚も向かってくるデスウルフ。
「暗黒の監獄・・・」
突如、デスウルフの周りに黒い檻が現れ、閉じ込める。
闇魔法:暗黒の監獄
対象を檻に閉じ込める。人数が多い程、大きな檻となる。影縫いと違って檻の中は自由に動ける。
「お前、何なんだ?」
《···!!そなたこそ何者だ?何故、妾の言葉がわかる?そして、何故、
妾は喋れるのだ?》
自分が喋れるとこに少し驚いた様子だが、直ちに俺に問いかける。
俺が答えようとしたとき、きららが割って入る。
《お母様!!》
「え、お母様ぁぁぁ!?」
檻の中にいるデスウルフはきららの母ちゃんだった。
《そこにいるのは我が娘・・・!やはり此処に居たか!》
《お母様、何故此処に!?》
《そなたを探しに来たに決まっておろう?そなた、何故この様な人間と共にいる?》
《御主人様は私の大切な人です。傍に居たいからいるのです!》
《ふざけるなぁ!デスウルフが人間なんぞと共存できるわけ無かろう!妾と共に皆の元に帰るぞ!》
《嫌です。》
《貴様、妾に逆らうつもりか!?それ相応の覚悟が在るのだな?》
「ウルセェェェ!俺を無視すんなぁ!てめぇ、きららの母ちゃんだか何だかん知らねえが、檻の中にいる分際で偉そうにしてんじゃねぇぇ!今迄きららのことほっといた癖に今更出てきて母親ヅラしてんじゃねえぞ?」
《御主人様・・・》
《人間風情が妾にフザケた口をききおって!死にたいらしいな!!》
「いきなり檻に閉じ込められたクソ狼の癖に調子に乗ってんじゃねえぞ?お前なんかに俺が殺られるわけないだろ?ただデカイだけの犬が!」
《妾を犬だと!?誇り高きデスウルフの妾を犬なんぞと一緒にしおって!許せぬ!》
「犬なんぞだと!?全国の愛犬家に謝れ!!お前よりワンちゃんの方が100倍可愛いわ!!」
《妾を犬以下と言ったな!許せぬ!妾をバカにしたこと、死んで償え!》
突如、デスウルフから禍々しいオーラが放たれ、檻を破壊した!
《死ね!哀れな人間風情が!!》
デスウルフが凄いスピードで突っ込んでくる!
「地獄の拘束具···」
その瞬間、デスウルフは黒い鎖で身体を締め付けられ未動きが出来なくなる。更に黒い鎖は徐々にデスウルフを締め付ける。
闇魔法:地獄の拘束具
対象を拘束させる。影縫いの上位互換魔法。徐々に身体を締め付ける。術者が解くか対象が千切れるまで効果は続く。
《ぐぁぁ!!小癪な術なんぞ、使いおって··!こんな物、直ぐに・・ぐぁぁぁぁ!!!》
無理に鎖を解こうとしたとこで、更に締め付けられる···!
「どうした?人間風情の魔法なんて誇り高きデスウルフ様は余裕なんだろ?」
そう言って俺はデスウルフを蹴り上げる!
《ぐぁぁぁ!おのれ、この鎖さえなければ貴様なんぞ···》
更に俺は蹴り飛ばす。何度も、何度も···まるで虐待してるかのように···
《もう止めて!!!お母様が死んでしまうわ!御主人様!お母様を許して!!》
俺に体当たりして、止めに入るきらら!
・・・おせぇぇぇよぉぉ!!!きらら!もっと早く止めに入れよぉぉぉ!!止めどころ判んなくなって、お前の母ちゃん死ぬとこだったんだぞぉぉ!?!?
勿論、今迄のは俺の芝居だ!
母親を虐める俺をきららが止め、仲直り大作戦だ!
俺の予定では拘束した辺りにきららが止めに入ると思ったのだか、全然来ないから調子に乗ってしまった。
意外と俺はドSだったらしい。
《お母様、大丈夫ですか!?御主人様、お願いだからこの拘束魔法を解いてください!!》
あ、忘れてた。
すぐさま、拘束を解く。
《くっ・・・人間風情に手も足も出ぬとは···》
《お母様ももう止めてください!御主人様には勝てません!あの方はカイザーキングベアくらいのモンスターなら一撃で倒します。瞬殺です!》
《何!?あの熊を瞬殺・・!?》
《そうよ!だからもう、無駄な争いは止めて!お母様が死んでしまう!御主人様は本当はとても良い人間よ!あの人が居なければ私はもう此処には居ないわ!》
きららは母親に今迄あったことを全て話した。
俺と出会ったときのこと
俺と喧嘩したこと
サルに殺られそうになったこと
喋れるようになったこと
モンスターを倒したこと
料理が美味しかったこと
熊五郎のこと
思い返して見るとこの3ヶ月くらいの間に色々なことがあったな。
母親に話してるきららは本当にたのしそうだった。
話を聞いてる母ちゃんの方も母親の顔して娘の話を聞いている。
狼だから、人間のようにちゃんとした表情では無いので判らないけど、何となくそんな感じだった。
···親子だもんな。
···そうだよな、その方がいいよな···
《ミコト殿、此の度は申し訳なかった。何も知らぬのにそなたに失礼な態度を取ってしまった。娘がサルに攫われた後、妾は群れを離れ、必死で探した。あのサルの居そうな処全てだ。まさか、この森にいるとは思わなかったのだ。此処は悪魔の森、好き好んで入る奴は滅多に居ない。サルの強さを見くびっていた。この森に入って5日間、諦めかけた処で上空に激しい雷が落ちた。まさかと思って来てみたところ、そなたらがいた。そなたに娘を取られたと思い、嫉妬し、攻撃した。》
「いや、いいよ!きにすんな!大したこと無かったし!」
《大したことない、か···娘を助けてくれたこと、感謝してもしきれない。この恩は必ず返す。》
「そんなのいらないよ、当たり前のことをしただけだ。きららは俺の大事なパートナーだからな!」
《そなたの様な人間ばかりならこの世界ももっと素晴らしくなるのだかな···。》
人間とモンスターは敵同士だ。きららの母親も色々あったのだろう。
《これからは妾が娘を守り通す。今迄娘が世話になった。》
《え、何言ってるの!?私はずっと御主人様の処に居るわ!行くならお母様だけにしてください!》
「駄目だ。お前は母ちゃんと帰れ。」
《え···!御主人様、私のこと嫌になったの···!?》
帰れと言われ悲しそうな顔をするきらら。
「そういうことじゃない。きららはこれからも俺の大事なパートナーだ。でも、お前はまだ子供。子供は親の元にいるもんだ。」
《嫌よ!私帰らない!!》
「ウルセェェェ!」
ビクッとなるきらら。
「お前には母ちゃんが居るんだから、今のうちにいっぱい甘えて、いっぱい親孝行しろ!親孝行は死ぬ前にやれ!俺にはもう親は居ない。前の世界で死んでこの世界に転移してきた。俺にはもう親孝行できる親は居ない。お前にはまだこんな立派な母ちゃんがいるだろう?お前の為にこの危ない森に来た母ちゃんをもっと大事にしろ!」
《前の世界···?移転···!?そなた、この世界の者ではなかったのか!?だからそのような不思議な力があるのか!?》
「俺の力は神様に特別に創ってもらったからな。その代わり、この力で神様との約束を果たさないといけない。そろそろ俺は森を出る。その時、きらら、お前は邪魔だ。」
《私邪魔しないよ!?これからも御主人様のお手伝いするよ!?足手まとい何てならないよ!》
《娘よ、ミコト殿が森を出たら邪魔にしかならぬ。ミコト殿であるから、そなたを面倒見てくれたが、他の人間は違う。皆、そなたを恐れる。そなたはデスウルフ。モンスターだ。必ずミコト殿に迷惑をかける。ホントはもう判ってるのであろう?》
母親の問いかけに何も言えず、黙り込むきらら。
「そういうことだ。だから、此処でサヨナラだ。今迄、楽しかった。お前に出逢えて良かった。一人になった俺と一緒に居てくれてありがとな。」
俺はホントは泣きそうだった。
本当は別れたくなかった。
ずっと一緒に居たかった。
きららが大好きだから···!
大好きだから、親の元に返したかった。
だから、酷いことも言う。
邪魔なんて嘘だ。
俺が何とでもしてやる。
俺がきららを守る。
でも、俺は決めたんだ。
サヨナラを言うことを。
母親狼がきららに何か耳打ちをする。
《···それは本当ですか···?》
《左様。これからのお前次第ではあるがな。》
「何の話しだ?」
《いや、こちらの事だ。》
《御主人様、私帰る。》
「・・・そうか。」
母親狼がきららに何を言ったか解らないが、きららは意外と素直に引き下がった。
《でも、約束して!私が一人前になったら、また一緒に居てもいい?ずっと傍にいてもいい?》
「一人前じゃなくて一狼前だろ?」
きららは狼だからね。
《いいの!約束して!》
「···わかった。約束しよう。」
《御主人様、ありがとう。私は必ず帰ってくるから!ちゃんと待っててね!絶対だよ!?》
「あぁ、約束だ!」
《今迄、有難う。御主人様に出逢えて、助けてもらって私の世界が変わった。絶対に戻ってくる。大好きな御主人様の処に!》
そう言うときららは俺の唇を舐めた。
そして、振り返り、森を出る。
俺は2匹が見えなくなるまで、俺はずっと見つめていた。
見えなくなった時、俺は涙を流した。




