レポート76 重大局面⁉︎
次の章では、王道ファンタジーをやろうと思っている。
ところで、王道ってなんだろう?
どなたか、「王道の肝はコレだよ!」というのがあったら、感想欄でこそっと教えてください。
旅館に帰って露天風呂に行ってみると、先にでっかい猿が浸かっていた。
「いや、おまえは猿じゃない。ドンチーゴリラだ!」
「フフン。勇者くん、お疲れだったな」
「ぼくも入っていいかな?」
「遠慮するな。おまえはおれさまに勝ったんだ。あとで背中を流してやるよ」
「それはいい。きみにやられたら、背中の皮が剥けそうだ」
白く濁った湯に身を沈めた。今日1日のことが思い出される。昼寝猫が戻ってきたときの、全校生徒の喜び。タコ☆インベーダーズへの感謝を表す、「残酷な園児たち」によるミニライブ……タコ☆インベーダーズは結局、夢中でヲタ芸をやってるときに宇宙警察に捕まってしまったが。
「おまえ、女将に気に入られてるらしいな」
唐突にドンチーゴリラが言った。街というのは、変な噂がすぐに流れるものだ。
「そんなこと、きみには関係ないだろ」
「寝たか?」
「寝てない! 失礼なことを言うな!」
「おれは寝たぜ」
「オエッ、気持ち悪い」
「まあ、そんなことより、相談がある」
「なんだよ。自分から女将の話をしたくせに」
「宝探しに行きたくはないか?」
「宝探し? なにそれ?」
「おれさまは、この街の西の外れの川を下った先にある、魔境と呼ばれるジャングルの出身なんだ。で、そこにはお宝伝説がある。おまえ、おれを倒したときにはレベル8だったが、もうレベル43じゃないか。きっとおまえなら、お宝をゲットできるぞ」
「だけど、ぼくには学校の仕事がある」
「なんで先生なんかやってんだ。おまえは勇者だろ?」
「元はと言えば、きみがボスとして君臨していた山の門番に、世界から争いをなくすようにと頼まれたんだ。その第一歩として、人々の教育に取り組んだのさ」
「まだるっこしいことをやってるな。救世主になるつもりなら、ジャングルに来い。お宝を手に入れた者には、世界を変える力が宿るらしいぞ」
「本当か? だけどどうして、自分でやらずにぼくに頼むんだ?」
「おれじゃあレベルが足りない。最低でも、レベル70か80はないと」
「だったらぼくも、まだ全然足りない」
「話を面白くしろよ。王道のファンタジーっぼくしたら、PVがたくさん入ってレベルが上がるだろ?」
「王道をできるくらいなら、最初っからこんな邪道な連載はやってないさ」
「チャレンジしろよ。女子校の教師なんかやってたら、世界を変えられやしないぞ。じゃあな」
ドンチーゴリラが、ざばっと立ち上がった。すると、それまで白い湯に隠れて見えなかった部分が、ちょうどぼくの顔の真ん前にあらわになった。
(……まさか。女将、嘘だろ?)
唖然としているぼくを残して、ドンチーゴリラは悠々と歩み去った。
ぼくも風呂からあがって、部屋に戻った。
「ご夕食でございます。モフモフさま、大層な人気だそうですね。当旅館の誉れでございます」
ぼくは、女将の顔をじーっと見た。
「お客さま……なにか、お食事が好みに合いませんでしたでしょうか?」
「いや、別に」
「嫌ですわ。そんなにお見つめになって」
「女将さんは、動物が好き?」
「ええ。好きでございますよ」
「例えば?」
「例えば……猫ちゃんとか、ウサギちゃんとか」
「馬とか、ゴリラは?」
「さあ。ゴリラちゃんは、それほど」
「本当は、バカでっかいゴリラが好きなんじゃないのか? え?」
「どうしたのよ、ユメオ。酔ってる? なんだか目がギラついてるけど」
フラがそう言うと、女将が顔を背けて、逃げるようにして部屋から出ていった。
ぼくは首を振って、女将の映像を頭から追い払った。
「さっき、露天風呂でドンチーゴリラに会った」
ぼくはフラとアドバイ爺に、ドンチーゴリラから聞かされたことを話した。
「ユメオは、先生辞めたいの?」
フラに訊かれた。ぼくは考えた末、今の気持ちを正直に伝えた。
「生徒への愛着はある。でもここでやってることは、ファンタジーじゃない。ハイスクールライフを長引かせたら、やがて読者は離れていくと思う」
「じゃあ辞めるのね?」
「うん。生徒たちの心が、本当は純粋だってことがわかった。もうぼくたちの助けは必要ない。そろそろ旅に戻ろう」
「それじゃあ、この子ともお別れね」
そう言って、フラがペンギンのモフモフを撫でた。するとペンペンは、なにかを察したのか、魚の入ったバケツをひっくり返し、
「ペンペン!」
怒った様子でフラを揺さぶった。
フラはいっさい抵抗せず、
「ごめんね。わたし、お母さんになれなかった。あなたにジャングルは無理。これからは、琴美お姉ちゃんがお母さんになってくれるわ」
「ペンペンペーン!!」
ペンペンの怒りは凄まじかった。フラの髪の毛を引っ張り、胸を殴り、畳に叩きつけ、全体重を浴びせてのしかかった。
やられるまま、フラは泣いた。
ぼくはペンペンを起こそうとした。ほっとけば、フラが窒息してしまう。
と、ペンペンの目から、涙がボタボタ落ちているのが見えた。
「ペンペン……」
ぼくは決心した。
ペンペンを、パーティーに入れよう。
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ドンチーゴリラと山の門番については、レポート33〜37を見てね!




