レポート44 腐った街
前回の前書きで落選の報告をしたら、直後にブックマークが1件つきました。
なにか温かいエールをいただいたようで、とても嬉しくなりました。
ぼくは落選の常連ですが、落ちると必ず、森博嗣先生のある言葉を思い出します。
「上手く書けないなんていうことは、長編の20本も仕上げてから言ってもらいたい」
というものです(記憶で書いているので、正確な引用ではありません)。
森先生の著作量と較べて、いかに自分が書いてないことか(ま、森先生と本気で較べたら逆に落ち込みますが)。そう思うと、早く次作をと、奮い立つのです。
フラが化粧室から戻ってきた。少しやつれたように見える。
「どうしたの?」
「……別に」
「なにかあったの? ぼく彼氏だし、パーティーのリーダーなんだから、なんでも言ってよ」
「知ってるくせに」
「え?」
「吐いたのよ。理由はわかるでしょ」
「吐いた?」
ぼくは驚いたフリをした。別に意味はないが、女性の口から吐いたという告白を聞いたら、どんな気持ちがするかを試してみたかったのだ。
「水分摂ったほうがいいね。逆さ男マン、ここの水は、飲めるの?」
「当たり前だ。水をなんだと思ってる」
「ひょっとして、生きてるのかなーって思って」
「そりゃあ、口の中や胃袋を噛まれはするが、気にするほどじゃない。身体から出て行くまで、炭酸がずっと消えないジュースみたいだぞ」
「わたし、アドバイ爺に聖水を出してもらうからいい」
3人でエレベーターに乗った。逆さ男マンは、扉に優しくキスをし、階数ボタンや開閉ボタンをそっとつまんでまわすように動かした。
「なにあの変態。バッカじゃない」
「シッ! こんな近くで言ったら、撃ち殺されるぞ」
しかし逆さ男マンは、扉のつなぎ目に沿って指を這わせるのに夢中で、フラの声は逆さの耳に入っていないようだった。
「よし。これで望みの階まで連れてってくれそうだ。エレベーターってのは、扱いが難しいからな」
「いちいち勉強になります」
ぼくも真似して、階数ボタンをつまんでみた。優しく、真剣に。が、フラがものすごい顔でにらむので、慌てて手を引っ込めた。
「前回は、バイオ博士マンの話の途中だったな」
逆さ男マンが、肩の筋肉の傷をかゆそうに掻きながら言った。
「あいつのバイオ実験が、金になったのは事実だ。しかしそのせいで、争いも生まれた。街は潤ったが、住人のモラルは低下した。犯罪が増え、男は〇〇〇になり、女は〇〇〇ンになった。ひどい話だろ? そこでバイオ博士マンは、腐敗した街をクリーンにしようと、最強の警察官をつくるべくバイオ実験をした。が、それが失敗して、とんでもないモンスターが産まれてしまった。結果として、街の住人のほとんどが、そのバイオ刑事マンに牢屋にぶち込まれちまった」
「あ、殺されたんじゃなかったんだ。街の人たちは、牢屋で生きてるんですね?」
「ああ。しかし、ゴミのポイ捨て程度の微罪で独房入りだからな。死刑を待ってるのが1万人もいる」
「そのモンスターは、バイオ博士マンでもコントロールできないんですか?」
「無理だ。あいつは産みの親でさえ、逮捕しようとする。だからバイオ博士マンは逃げちまった。本当に無責任な、腐った〇〇〇の〇ツの〇〇みたいな野郎だ!」
「そのバイオ刑事マンを倒して、バイオ博士マンにもう実験をやめさせたら、街は平和に戻りますね?」
「おれもそのために戦っている。しかし敵は手強い。ああやって、マネキンの真似なんぞをしてたのも、やつに見つかったら言いがかりをつけられて、たちまちブタ箱に放り込まれるからだ」
「恐ろしい敵ですね。だけどぼくも、山のボスを倒した勇者です。勝つことはできそうですか?」
「不可能だな。まず先に、バイオ博士マンを見つけなければならない。そして博士しか知らない敵の弱点を聞き出さないと、到底勝ち目はない」
「博士のいる場所の手掛かりは?」
「ない。まだ捕まってない住人たちと接触して、情報を集めないと。それには危険がともなうから、銃が必要なのだ」
「ぼく、頑張ります。街に平和が戻ったら、いろいろ遊んでみたいんです」
「動機は不純だが、仲間は多いほうがいい。頼んだぞ、勇者」
「はい!」
エレベーターが、8階についた。扉が開く。
「おい、おい、よせよ」
エレベーターは、扉を閉じたり開いたりして、まるでじゃれ合う男女のように、逆さ男マンの身体を優しく挟んだ。
「イヤらしい。変態エレベーター」
フラが「開」のボタンを思いっきり叩いた。するとエレベーターは怒ったようにピンピン鳴り、扉を閉めて1階まで急降下した。
PV1284
LV12
*西村滋先生のこと。
ぼくの大切な先生について、少し書きたくなりました。
西村先生には、ドラマや映画にもなった「お菓子放浪記」という代表作がありますが、4年前に91歳で亡くなりました。その少し前まで、ぼくは親しく話をさせていただいたり、手紙の交換をしたりしました。
ぼくは西村先生と知り合ったころ、作家になることを諦めていました。自分が書いたもののレベルに、ほとほと嫌気がさしたからです。
しかし西村先生は、ぼくの書いた手紙を読んで、
「ああいうふうに面白く書けるんだから、(作家に)なれるはずだけどな」
と言ってくださったのです。
今、再びこうして小説を書き始めたのは、その言葉のおかげです。
この続きは、次回の後書きで。




