必要な物 大切な事 足りない物
――そして、俺は渾身の力で《救世》を発動させた。
俺の体から、眩しい光と共に救世の力が、カルシファーへと注ぎ込まれていくのが分かる。
(厳しい状態なのは分かっている。それでも助けたいんだ!)
――彼に変化が起こるまで、俺は力を注ぎ込み続けた。
俺の救世の力は、もしかしたら……。
変異した彼には、耐えられない様な苦痛を、与え続ける物なのかもしれない。
だがしかし、下手に加減をして失敗は許されない。
俺は必死に、救世を使い続ける。
(このまま消えるな! 元の姿に戻れ!)
そして、皆も一緒にカルシファーへと呼び掛けた。
『カルシファーさん! オレ達みんな、貴方を助けにここまで来たんですよ? まさかこのまま、消え去るなんて無いですよね? そんなの……漢じゃないですよっ!』
『カルシファー! 私を置いて逝かないで! お願いッ!
貴方が、生きていてくれるなら、私はもう、他には何もいらないの。
貴方との、子供が欲しかったとか、もうそんな事も考えない。
貴方が居ない世界だなんて、そんなの私には何の価値も無いの。
だからお願い! これからもずっと私の傍に居て!
それだけでいいから……。お願い! 生きて。』
『カルシファ~さん! 起きて~っ! 死んだらダメです~っ』
「カルシファーの魂よ! こっちへ来い。戻って来い!
愛でも、執着でも、未練でも、何でもいい。
その気持ちを、全力を出してこっちに戻ってこい!
出来るだろ? 『もう無理だ、諦める』なんて言わないよな?
そんな選択肢なんか、ある訳無いだろ?
このまま消滅して、良い訳がないだろう!
いいから早く戻ってこい!」
――俺たち全員が、声を張り上げ彼を呼んだ。
……だがしかし、カルシファーの体は無常にも、救世の光に包まれながら、ゆっくりとその体を崩壊させていくのだった。
ああ、彼の体が……。崩壊していく。
漆黒竜と化していたカルシファーは、その異形化した部分から段々と崩れていく。
全身から生えていた、禍々しくて大きな棘が彼の体から抜け落ちて崩れていく。
大きな漆黒の鱗も、ゴッソリと体から抜け落ちた。
長い尻尾、そして両腕まで。
どんどん彼の体から抜け落ち、崩れ去って行く。
(ああ、まただ。俺はまた救えないのか)
それでも諦めきれず、崩れ行く彼の体を必死に掻き集める。
何か他にも、俺に出来る事は無いか? 俺に出来る事。
『あ゛あ゛あぁ~~カルシファ~~~!』
鴉さんが、彼の最後を看取りながら、ひたすら泣き崩れた。
――その時だ。
『……貴方達は甘いのであります! (フンスーッ)』
厳しい表情で腕を組み、俺たちを眺めていた使徒レミナだったが。
『――ただ救いたい。助けて欲しい。
そんな気持ちや、願いだけでは《足りない》のであります。
まして、救世の力でのゴリ押しなんかは、最悪なのであります。
全くもって、全然ダメダメなのであります!』
それは、本気で俺達を怒っているかのような。
使徒レミナの表情と態度だった。
「それはどういう事? 他にも方法があるって事なの?」
――それが何でもいい。
他にも方法があるならば、俺は何でもする。
『貴方には、覚悟が全然足りてないって事、であります。
気持ちだけで、力だけでごり押して? やるだけやった?
それでダメなら、ハイお手上げ? さよならバイバイ?
そんなものは、覚悟でも何でもない、であります。
ただ勢いに、流されてるだけ、であります』
……確かに。それは、その通りかもしれない。
「力だけでも、想いだけでも駄目。ではどうしたら?」
頼む。教えてくれ。使徒レミナ!
『本当に、出来の悪い末妹には困ったもの、であります。
我等には無かった、その力を手に入れているのに。
オリジナルスキルに目覚めた、唯一の存在の癖にであります。
やはり素体ではなく、中身の問題なのでありますか?
力はあっても、使い方が全然なってないのであります!』
うぅ……。あまりにも酷い言われようだな俺。
『救世の力で無理矢理やっても、相手が持たないのであります。
これ程変異してしまった者を、救うのならば尚更であります。
この者を救う為ならば、例え自分の命さえも投げ出す覚悟。
力だけではなく、ただ願うだけではなく、本気で彼を救う為ならば、自分さえも犠牲にする、その覚悟が必要なのであります。
それ無くして、彼を救う事など不可能であります!』
……そうか。本当の、覚悟。
俺には、自己犠牲も厭わぬ、本気の覚悟が足りなかった。
確かにそうだ。それに間違いはないだろう。
――確かにカルシファーは救いたい。それは偽りの無い本心。
だがしかし、正直に言うとこれ以上が俺には難しい。
もし救えるのならば、救いたい。そこまでなのだ。
彼とは正直これが初対面。元の彼の姿さえも知らない。
彼がどんな性格で、どんな声で、どれだけ素晴らしい存在なのかを、俺は何も知らなかった。
鴉さんが悲しむからと、俺も何か手伝いたいからと。
彼とは所詮、その程度の関係性なのだ。カルシファーとは。
だからこそ難しい。
使徒レミナの言う、本気の覚悟が俺には無理だったのだ。
――俺はとんだ偽善者だ。それは間違いないだろう。
……そんな俺を見て、溜息を吐きながら使徒レミナが言う。
『すぐそこに、居るでありますよ? 分かりませんか?
――彼を救いたいと心から願い、自分の命をも惜しまない覚悟がある存在でしたら、すぐそこに居るでありますよ?』
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