漆黒竜の最後
※ 主人公視点
そしてついに、使徒レミナから繰り出される連打の内の1発がジェスターの右頬に決まった。
【ブベベベッ!】(ドゴゴゴッ)
仮面の男ジェスターは、顔から盛大に錐揉み回転をしながら吹き飛んだ。そして、ダンジョンの壁にめり込んで止まる。
(あ、なんかピクピク痙攣してる。これは効いてる?)
それにしても、使徒レミナさんちょっと強過ぎ問題だわ。
(おっといかん。ついつい、あちらを注視してしまった。こっちも集中しないと)
こっちは、全く油断が出来ない相手だからね。俺は意識をモッチーから少し戻しつつ考えた。
今現在のカルシファーとの戦いは、ほぼ膠着状態になっている事もあって、俺はモッチー視点と自分の視点を半々に分け、全体的な状況の把握に努めようとしていた。
まずこちらは、鴉さんが必死にカルシファーへ呼び掛けを継続中だ。それに反応を示さず、暴れ回るカルシファーを、少年ルークがヘイトを引き付けながら、ひたすら耐え続けている。
アスカは、支援魔法を駆使しながら味方のバフ管理と、カルシファーへの弱体化デバフを付与して頑張っている。
そして俺は、皆の被弾状況を確認しつつ必要に応じて回復魔法を使っていた。こうして、今の膠着した状態が生まれたのだった。
だがその状況も、そろそろ終わらせなければいけないと感じる。俺は鴉さんに呼び掛けた。
「鴉さん。どうやら、カルシファーとの対話は残念ながら不可能みたいだ。このままじゃジリ貧だし、元々こちらには分が悪い相手だからこれ以上の引き伸ばしは厳しい。カルシファーに攻撃が出来ないままだと、味方に被害が出てしまう。だとしたら? もう戦うしかない。それに、戦って彼を殺す事が目的じゃないよね? 例え可能性は低くても、彼を救える方法があるのならそれに賭けるって皆で決めたじゃないか。鴉さんもそれを承知して、今ここに立って居るんだよね? そろそろ【彼を倒す】といいう覚悟を決めて欲しい。鴉さん……。そろそろ決断の時だよ!」
『クウッ……。確かに私の言葉は、今カルシファーには全く届いていないようだ。ならば最早、対話はこれまで。ユウコ殿! 委細承知いたしました。それでは皆で、カルシファーを倒しましょう。そして絶対に、カルシファーを救って下さい!』
勿論だとも! 彼を救う為に、今は戦って倒すんだ。
――皆がそれを理解し、彼への攻撃を一斉に開始した。
『彼は竜人って聞いてたけど、変異して竜になってるとか、オレは聞いてないんですけどっ? くうっ……。こ、攻撃が重いぃ! けどやるしかないっ! うおおおおおぉ! 身体強化〖剛力剛体〗!』
(うん。そうだね。キミにはちゃんと話せていないね。ごめんねルーク君。ほんとごめん)
カルシファーが、竜族って知っていたのは鴉さん以外は俺だけだろう。しかしこれは、鴉さんが隠している正体にも繋がる案件だから、俺の口からは簡単に言えなかった部分が大きい。
『カルシファー! 私はここに居る! 早く目を覚ましてっ! 届け私の想いよ! 武技〖スパイラルピアース〗!〗
『ごめんね~? なるべく痛くしないからねっ! 〖シャイニングジャベリン〗&〖効果増幅〗&〖詠唱ダブル〗!』
鴉さんの槍が、彼を貫き大ダメージを与え、アスカのW詠唱の強化魔法が追い討ちを掛ける。俺は皆に支援魔法を掛け、カルシファーにデバフを付与してから武器を換装して前に出て戦った。
敵は聖域により弱体化され、逆にこちらは強化されている。仮面の男ジェスターは使徒レミナが抑えてくれている。横槍の心配は全く無かった。
(このままなら、いけるかっ!?)
『オレが皆を守るんだああぁ!』
『彼に、届けえええええええぇ!』
『どんだけHPあるんですか? 早く倒れてくださ~い!』
――俺の黒魔鉄の小剣から、ボスの体へと1本繋がった《線》のようなものが見え始めた。その線の繋がった先、ボスの体までの《道》を忠実に小剣でトレース、最終地点であるその場所へと俺は小剣を深く突き刺した!
「カルシファー! 今楽にしてやる。 武技【クリティカルブロウ】」
「これで終わりだカルシファー!」
【グルァアアアアア!】(ズズーンッ)
彼を救う為、惜しまず全力を出した俺達の攻撃により、ついに変異したカルシファー〖漆黒竜〗は倒れたのだった。最早その意識は無くなり、ただ微かに息をするだけだった。
俺達はついに、ダンジョンボスのカルシファーを倒した。それも、大成功と言っても良い状態で。
――後は諸悪の根源、仮面の男ジェスターを倒すのみ。




