私は変わってないでしょ?
「……もし、そうだと言ったら?」
【ここから……生きて返すつもりは、ア~リマセンッデスネェ!】
奴に不快感を感じつつ、何とかそれを抑え必要な情報を聞き出すための会話をしていたが、もうここまでだ。互いに、意識して抑えていた殺意が爆発的に膨れ上がっていく。
――ついに、憎き仮面の男ジェスターとの戦闘が始まる。
俺達は、すぐさま打ち合わせた作戦通りに行動を開始した。
『それではユウコ様、ジェスターは私に任せるであります』
仮面の男ジェスターが自分から姿を現した時、使徒レミナはスキルを使って自分の存在を完全に消していたのだ。
ジェスターとの会話で、情報を引き出すのを邪魔しないように、との彼女の考えもあったのだろうか。
そして今、正に満を持して使徒レミナの参戦だ。
『ジェスター。貴方は決して逃がさない、であります。固有スキル《聖域》発動、であります。
これで周囲には、カルマ値がマイナスであればある程、強力に作用する聖なる結界を張りました、であります。貴方の能力も、これでほぼ無効化された、であります。覚悟するであります!』
使徒レミナは、この部屋全体に光のオーロラ? 光り輝くヴェールのような物を発生させた。
これが聖域……聖なる結界か。
あ、ちょっと待って、何これ。
イイ……何か気持ち良い。ジワジワ何かがクルゥ~!
俺達には、何故か心地良い空間になったみたいだった。味方にはバフ効果か!
聖域の効果により、仮面の男ジェスターとカルシファーは大幅に弱体化したのだろう。カルシファーからは、凄く苦しそうな表情が見てとれた。
【グルアァアアアア!】
これなら行けるか!? この空間ならもしかして!? 俺達でも、今ならカルシファーを何とか出来そうだ。
「ジェスターは、予定通りレミナに任せます。こちらは、カルシファーを何としても助ける!
みんな……行くよ!」
『ではオレが先に行きます! うおおお! 武技〖レイジオーラ〗』
ルークがサッと前へ飛び出し、カルヂファーのヘイトを稼ぎ始めた。
その全身が派手に光輝いているのは、今回新調した装備に魔力を通しているからなのだろう。
そうだ、その通り。俺達は力の差から言っても挑戦者の立場なのだ。
このような格上の相手には、最初から全力で行かないと話にならない。
流石ルークだ。わかっている。
『ああ、やっと会えたね、カルシファー……。私よ? わかる? ホラ、私は変わってないでしょ? ……貴方はすっかり変わってしまったわね。でも大丈夫。私がきっと助けるから。……絶対助けてみせるから! だからお願い。どうか正気に戻って! 目を覚ましてカルシファー!』
鴉さんは、彼への呼び掛けを必死に何度も行っていた。少しでもいいんだ、彼からの反応があれば良いのに。だが見た感じでは、それはきっと望み薄な事なのだろう。
『それじゃーえいっ! 〖プロテクション〗&〖対象拡大〗&〖効果増幅〗だよっ!』
アスカが、まずはPT全員への防御魔法を展開した。うん。それも中々に良い判断だ。
覚悟はしてきたとは言え、実際いきなり彼へ全力で攻撃する事は、俺達はまだ躊躇いがある。
それならば、まずは自分達の守りを固めるのは悪くない手だ。
「じゃあアスカに続こう。みんなに聖なる祝福〖ホーリーブレス〗&〖対象拡大〗」
俺はPT全員へと、破邪の効果を持つ聖なる祝福を付与する。
闇属性の相手や、カルマ値がマイナスな存在からの攻撃を軽減したり、闇属性魔法や一部の特殊スキルへの抵抗力を上げて無効化、またそのダメージを軽減させる効果がある。
そして、自分達の武器にもその効果が付与されるので、こちらの攻撃のダメージも上がる。
(この手の相手にはかなり有効な魔法だろう)
……さて、あちら側はどうだろうか?
【ナッ!? アナタは、忌々しい女神の使徒デスカネェ!? これは大きなミステーイク! デスネェ。これでは、逃げ道も塞がれてしまいましたデスネェ? では仕方ないデスネェ~? ワタクシも、本気でお相手するしかないデスネェ!】
どうやら、あちらでも使徒レミナと仮面の男ジェスターの戦いが始まったようだ。




