表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/109

草食系? いいえ肉食系女子です

ルーク君……。

「九百……九十三!」


「……九百九十、四!」


「……九百、九十、五!」


 やあ! オレの名はルーク。宿屋の裏庭で、朝の日課のシャドー訓練をしている所だ。


 シャドーとは、今まで戦った敵を脳内で鮮明にイメージしながら戦う訓練だ。

 ただ漫然と、剣を振るだけの素振りよりも効果は高いと感じる。


 脳内のイメージとは言え、実際に戦った事がある相手だ。より鮮明に、具体的に、そのリアルに近い形の強さの相手が訓練になっている。


 オレが本当に強くなるには、もっと色々必要だ。もっともっと総合的に強くならないと。


――特にこの前の、魔獣の巣のダンジョンだ。あの対人戦とは全く違う戦闘、本能的な魔獣の動きにオレは苦戦してしまったのだ。


「……九百、九十六!」(ハッ!)


……特にダンジョンボスだった大熊。アイツは強かった。


「……九百、九十七」(ブンッ!)


 今はその、大熊との戦いをイメージしているところだ。


「……九百、九十八!」


 ヘイトを取るだけで、守りを堅くする武技を多用して、何とか凌ぐ事が出来た相手だった。

 この前の反省会では、皆からも安定したタンク役だったし、良い仕事をしたと褒めてくれたが。


 けどオレは、もっとやれる事があった筈だって思うんだ。まだまだ全然駄目だ。

 あの時も、過剰ヘイトだった場面もあるし、守りを固め過ぎて攻撃が出来なかった場面もある。

 

 オレならもっと、有効な場面での攻撃も参加出来た筈だ。


「……九百、九十九!」


 ユウコさんと本気でPTを組みたいなら、そのくらいは当然出来なければならない!


「……千……回!」(ここだっ!)


「ハアァあああああぁ~! 武技! 《ジャストシールドカウンター》」


 ボス熊のイメージ、相手の攻撃を完全に受け流しつつ、その相手の勢いを利用し即座に盾でカウンター攻撃をする【武技】が完全に決まったイメージだ! よっし!


 あの時、ボス熊と戦った時にオレが、まだ使いこなせなかった武技が今成功した。


――大丈夫だ。オレはあの時よりも、ちゃんと強くなっている! かなりの手応えを感じた。


 この訓練の前には、街の外周を10周走り込みそしてこのシャドー訓練をー千回。だけどまだまだ足りない気がする。


 汗も大量に流れていたので、井戸から水を汲みそのまま頭から一気に水を被った。


 ふぅ~! さっぱりして、気持ちが良いな。やっぱ生活魔法の清潔(クリーンだけでは、この爽快感は得られない。汚れを落とすだけなら、魔法のほうが便利だけどね。


 水に濡れた頭や体を、オレは用意していたタオルで拭き取りながら少し休憩する。その後オレは、PTの皆と合流し朝食を食べ、今日も冒険者ギルドへと向かう事にする。


 ユウコさんは、オレ達の装備の強化や、製造など最近は特に忙しくしていた。


 鴉さんは、ドコかで鍛錬か? 今度一緒に、ギルドで依頼を受けてみるかどうか、誘ってみようかな? 今のPTって、あくまで臨時PTだからね。何となくだけど、皆も鴉さんとは壁があると感じる。


……なーんてね。肝心のオレ自身、皆とPTを組むの初めてだし慣れてはいないのだ。


 決して人事じゃない。オレも頑張ろう! 気合を入れなおして歩く。そしてギルドへ到着した。


『あっ! ルークさん! 今って御一人ですか?』


 そう声を掛けてきたのは、新人受付嬢の女性だった。


……名前は何て言ったかな? ユナさんだっけ?


 まだ成人したてって感じではあるが、顔のソバカスがとても可愛らしく感じる女性だ。まだ仕事に不慣れで、見ていて危なっかしい所もあるけれど頑張っている。


 彼女は最近、ギルドに採用されたばかりの新人さんだった。たまたま彼女の勤務初日に、オレの受付を担当をしてから、そのまま彼女がオレの窓口担当って感じになっている。


 まぁ当然だけど、彼女がお休みの日以外だ。休日もオレと一緒に居る事は無い。

 恐らくは、オレが冒険者としては比較的真面目で、問題を起こさない人物と見込まれてるからかなと思っている。それも当然だ。オレはもう、二度とあんな人生は歩みたくない。


 それにきっと、あの敏腕美人受付嬢さんが動いて、新人の彼女がオレの担当なるように、きっと裏で手を回したに違いない。


「はい、オレ1人ですよ! 今日は良さげな依頼はありますか?」


『は、はい。ちょ、ちょっと待って下さいね!? えっと(パラパラッ)ソロで……中級~上級難易度の依頼……は、ちょっと今は無いみたいです。すみません(しょんぼり)』


「そ、そうですか。いえ大丈夫ですよ? では報酬は安くても構いませんので、ギルドで扱いに困っている依頼とかはありませんか? オレで対応出来る範囲の」


『それも今の所は……。残っているとしたら、かなり日数が掛かりそうな依頼だけです。他の困った塩漬け依頼は、ルークさんがここ数日で依頼を受けてくれたので、本当にいつも助かってます! ありがとうございます~(ぺこぺこ)』


「そうですか、うん、それじゃあまた来ます! 時間がある時は、なるべくギルドに顔を出しますね。それでは~!」


『あっ! あの、る、ルークさん! 私、明日ってお休みなんです! る、ルークさんは? 明日って、何か予定とか、あったりしますか? もも、もし良かったら一緒に、お食事でも(小声)』


「え? 明日? 急な予定が入る――可能性はあるけど。それは、PTリーダーのユウコさん次第なんだ。だから約束は気安くは出来ないかな。ごめんね?」


(これは、もしかしてデートのお誘いなのかな? しかし周りの視線がヤバイな。ここは彼女の為にも、一旦お断りするしかない)


『いえいえ。《霊銀級》ユウコさんのPTに、ルークさんは所属されているのですから。お忙しいのは当然ですよね。あ、あの、ルークさんて、ユウコさんとPTを、今組んでいるのですが、でもそれまでは、ずっとソロ専だったルークさんが、急にPTを組むなんて、それは何故ですか? 私なんかが理由を聞いてしまっても、宜しければなのですが……』


「そうだね、オレが今までソロ専だったのは、今すぐPTを組んで何か大きな事をしたかったからじゃない。今の自分の実力を見極め、まずはソロでも出来る事をやりたくて。1から自分を鍛え上げる為だったんです。小さな依頼からコツコツと。PTを組んでしまったら、そんな事は出来ませんからね。でも今は、光栄にも尊敬する冒険者であるユウコさんからの直々のお誘いで、こうして臨時ではありますがPTを組んで、だからまだオレは、正式なメンバーではない。でもだからこそ、毎日鍛錬を重ね、あの《霊銀級》冒険者のユウコさんと、対等な関係で一緒に冒険の旅が出来るくらいになりたい。今はそれだけです」


(こんな事を言ってて、何だか恥ずかしくなるな)


『こ、恋……恋人とか? なんですか? お付き合いされているんですか? ユウコさんとは』


「あははは! 恋人なんてとてもとても。そんな恐れ多いです。オレなんかじゃ、ユウコさんに釣り合いませんから。ユウコさんはオレよりも、遥か雲の上の存在なんです。だからオレとは、そんな関係じゃないですし、オレはそういう気持ちは無いです。もしオレが誰かを恋人にするのなら、そうですね……【ユナ】さんみたいな人が良いですね~。あはは、それじゃ! また来ます~」


 オレはそう言って、少し急ぎ足でギルドを後にした。


……ちょっとガラじゃなかった。らしくないぞオレ。10代のガキかよ。 


 その後オレは、一心不乱に自己鍛錬をしたのだった。


「まずは鍛錬! オレに色恋はまだ早い! ただ鍛錬あるのみ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そして、ルークが去ったギルド内では……。


『ちょっとユナ~? 聞いてたわよ? 貴女ばっかり、ルーク君と仲良くしててズルイわ! たまには私にも担当させなさいよ~!』


『そうよそうよー! いくら上司から指示があったとしても、たまにならいいじゃない~? ルーク様と、私もお話ししたーい!』


「はわゎ~……。で、でもっ、別に仲良くって言ってもですね、る、ルークさんとは、お仕事の話しだけですからね! そんな先輩達こそ、何を考えてるんですか? 皆でそんな風に言うのでしたら、私もこの件をギルマス達に言いつけちゃいますよ? いいんですか~? ふふーん」


『ギャーギャー『ムキィー!』』 あーあーうるさいでーす。


 ふー……。何とか収まりましたです。

 まだ少し、外野でブーブー聞こえますが、聞こえないフリです。


 それにしても、ルークさん。恋人いないの本当かな?


 本当は私も、皆と同じ様にルークさんと仲良くなりたいのです!


 あの年齢で、すでに《金級》冒険者で。

 礼儀も正しくて、仕事は迅速丁寧。

 そして地味にイケメン。

 人当たりも良し。

 

 PTや人間関係も良好で、変な虫……恋人はいない!


 笑顔なんか、超素敵なんですよね~(はーと)私もルークさんに、もっとアタック出来れば良いのにな! 緊張しちゃって全然話せないの! 悔しい~


 いつか周りの先輩達を出し抜き、ルークさんの恋人の座はきっと。


 私が……絶対掴み取りますから!


――逃がしませんよルークさん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ