私の大好きなあの声で
私は周囲の者達に、烏羽色の竜人『鴉』と呼ばれている。
竜人に見せ掛けてはいるが、実は由緒正しき竜族の末裔だ。そそ黒竜族の、現族長の1人娘でもある。
人間族に例えて言えば、強国の姫ポジ? ……まぁ良い。そんな昔の事はどうでも。
彼が、私の元から去って早数ヶ月が過ぎた。彼の痕跡を必死に探し、追い掛けた私だが残された手掛かりは殆ど無かった。
今やっと掴んだ手掛かり、ユウコと言う人間に擬態したとしか思えない化け物の冒険者だ。だが私は、その存在にただただ恐怖し、接触を躊躇ってしまった。
彼女は一体、何者なのだろうか? 人間では決して無い、その圧倒的なまでの力の気配だ。
――いや正体はどんな化け物なのだろう。
しかし意外だったのだが、勇気を出し接触した私に彼女はとても友好的だった。憎き仮面の男の捜索や、私の番のカルシファーを探す旅に同行を申し出てくれたのだ。
その真の目的はわからないが、その手助けは非常に有り難いと感じている。
先日訪れたダンジョンは、(ハズレとも言える)ただの魔獣の巣であったが、ボスは非常に手強い進化した熊の魔獣だった。
恐らく私1人だったなら、最後の切り札をそこで切る必要があっただろう。だがユウコ達とPTを組む事で、そのボスも無事討伐する事が出来たし、それを回避する事が出来たのは良い事だった。
ユウコのPTメンバーも、かなりの実力者揃いだった。
強烈なボスの攻撃を、武技を駆使しながら一身で受け止めきった、その実力は確かな盾戦士の少年ルーク。
普段は少しだけ、呆けた様なキャラをしているが、実戦になると強力な魔法を次々と使いこなし、的確な攻撃や味方を支援をする事が出来る、PTの頭脳であり遠距離最大火力とも言える魔術師の少女アスカ。
それと、ユウコの使い魔のネズミだ。モッチーと呼ばれる、そのネズミはPTの斥候役を遺憾無く完璧に勤め上げた。非常に愛くるしい姿もしていて、PTの癒しも担当していた。
(私も折を見て、モッチーを一度撫でてみたかったな)
そしてユウコだ。やはり彼女は化け物だった。
上手に擬態した姿では、PTの支援や回復を担当するヒーラ的なポジションを選んでいた。だが同時に弓も使いこなし、敵を次々と矢の一撃で倒していくという恐るべし狩人でもあったのだ。
また使い魔の、モッチーからの情報をPTへと素早く共有し、的確な指示を与えていく姿は、正にPTの司令塔としての彼女だった。
そしてボス戦で最後に見せた、あの小剣での華麗で致命的な一撃。あれは武技か?
そのどれもが非凡であったが、だからこそ恐ろしいと思うのは彼女の【正体】であろう。人に擬態した姿でこれなのだ。私もそうだが、人型に擬態した状態では真の能力は発揮出来ない。
その正体は、その実力は一体どれ程のものなのか? あの偽装を解いた彼女の存在は、どれ程の存在なのだろうか。とても私では計り知れず、そして知る事も恐ろしい事だ。
彼女とPTを組み、友好的な関係を結べている事だけでも、私は非常に幸運だと感じている。また彼女自身も、身内や親しき者には親切な性格であったのも嬉しい誤算だ。
この前は、私だけが1人だけ仲間外れにならないように、PTのシンボルである『真紅』のマントをわざわざ作成してくれたし、またお洒落な可愛いピアスもプレセントしてくれたのだ!
私とて女だ。日頃からのお洒落や、美味しい食べ物、そして甘い物には非常に興味がある。ユウコはそれら全てを、私にも分け隔てなく与えてくれた。
その真の正体や、目的は未だわからないが、彼女を信じても良いのではないか? と私はいつしか思う様になった。
本音を言えば、早く彼を探しに行きたい。早く次のダンジョンへ、憎き仮面の男を見つけて倒したいのだ。だが今は、その準備の時だった。
ユウコは献身的に黙々と、PTの装備を整えたり次の段階への準備を進めていてくれるのだ。その彼女の行為を無駄には出来ない。裏切れない。
だから私は、ただひたすら訓練に励み、時に冒険者ギルドで依頼を受け修行をこなす日々だ。
そして次の目的地は王都になる。王都ならば、また新しいダンジョンの情報などがあるだろう。
そうユウコから聞いたのは、それから間も無くだった。
――必ず彼を見つけて、一緒に私達の家に帰るのだ。その為にも、諸悪の根源である仮面の男は、絶対に倒さねばならない。
ああ、早く彼に会いたい。
そして私の大好きなあの声で、私の名前を優しく呼んで欲しいの。




