私は絶対に、それだけは見逃さない
『……(コンコンッ)失礼する。私は鴉と呼ばれている銀級冒険者だ』
私はまず、そんな風に挨拶を切り出したのだった。そして部屋を見渡す。
部屋の中には、1人と1匹、いや2匹が居た。
――部屋の椅子に座ってこちらを向き、どこか探るような視線の女性のユウコ。その足元に座り、ユウコに大人しく撫でられている狼。そしてユウコの肩の上に乗った鼠だ。
決して、睨まれている訳では無いのに、私は重圧を感じてしまう。
(ゴクリ……)と思わず、緊張で喉を鳴らしてしまうとは、何とも情けないな私よ。しかし早く【敵意が無い】という事を、伝えねばならない。
決意を固め、私が口を開きかけた時、ユウコが突如立ち上がって喋り始めた。
「……初めまして? 鴉さん。私はユウコ。一応金級冒険者です」
「そしてこの子が魔狼で、こっちが魔鼠。皆私の眷属であり家族」
(コクリ)なるほど眷属か。私は肯いてから本題に入った。
『丁寧な自己紹介痛み入る。実は貴女に少しお聞きしたい事がありこちらに参った次第です』
「う~ん。立ち話も何なので。まずはベッドへ座って下さい?」私にそう声を掛けて、彼女は椅子に座り直した。
「それで? 私に聞きたい事って何でしょう?」
まだお互い、緊張しているのを感じた。もう早く本題を切り出そう。
『私は同族の竜人を探している。カルシファーと言う名の男で私の番だ』
そして私は、カルシファーの容姿などをユウコへと説明した。
「カルシファーさん? すみませんが、私の知り合いにはいませんね」
申し訳無さそうにするユウコだが、私もそこは始めから期待していない。
『そこは御気になさずとも良い。それを踏まえてむしろ本題はここからなのだ』
そして事情を詳しく説明した。
――実は王都で、彼女を最初に見かけた時に、自分が追っている男の臭いがした。そして、ダンジョン制覇をした後のユウコからは【その臭い】が更に強くなった事。
『私が今追っているのは、奇妙な仮面を被った男。だがその正体は決して人ではない』
『そのような怪しい男と、貴殿は出会った事はないか? 見かけた事はないか?』
『その男により、番の彼は致命傷を受けただけではなく、何か変な病のようなものにも侵された』
『その病のせいで、次第に彼は変わり、最後は私を傷つけないように離れたのだ』
……だからこそ。
『彼だけではなく、その仇である仮面の男も探しているのだ。知らないか?』
『間違いなく貴殿からはその男の臭いがした。間違いなく接触している筈だ』
私は必死に畳み掛けた。
――何としても今、彼へ繋がるものが欲しい。それがほんの少しの情報でもいい。
私はユウコを、真正面から見つめた。ユウコも真剣な表情で、じっと考え込んでから、やがて口を開いた。
「その怪しい仮面の男に、私は出会った記憶が無いのは間違い無い」
「臭いがしたと言われても、それが私にもどういう事なのか分からない」
そう語る彼女は、確かに嘘をついている様子では無かった。
『どんな情報でもいいのだ。きっと何かある筈だ。何でも良い。思い出してくれないか!』
私はユウコへ、深く頭を下げながらそうお願いした。
――きっとある筈なのだ。その仮面の男への糸口が。それだけは、絶対間違いないのだ。何としても。
私は絶対に、それだけは見逃さない! それが愛する彼への、やっと見つけた手掛かりなのだから。




