烏羽色の竜人【鴉】~カラス~
そうして私は冒険者となり、愛しいカルシファーの後を追った。
直接でなくてもいい。彼の姿を見た者はいないか? 似たような竜人の情報でも良い。記憶の中の彼の匂いを辿り、冒険者として毎日依頼をこなしながら情報を集めて街を回った。
いつしか、周りからは烏羽色の竜人『鴉』(カラス)と私は呼ばれるようになっていた。
……私の名前など、どうでも良かったので『鴉』と最初にそう名乗っただけで真名では無かった。私の見た目が真っ黒なので、その呼び名は矛盾しないし放置した。
私はPTも組まず、毎日ソロで依頼をこなし旅費を稼ぎながら彼を探した。カルシファーを探し出すのは、思っていたよりもずっと困難だった。
それは彼自身が、私に追って来れない様にしていたせいも当然あっただろう。すぐに追いつけると、そう思っていた私が甘かった。
そしていつしか私は、この国の王都ベジーティまで来ていた。人が多いだけに、もしかして彼の情報もあるかもしれないと、そう期待したがすぐそれは裏切られた。
私は悲嘆にくれた。情報が一切入ってこないのだ。
……しかし、そう悪い事ばかりではなかった。
カルシファーではなく、あの憎き仮面男の臭いを私はこの王都で嗅ぎ取ったのだ!
人では決してない怪しい仮面の男。あいつなら、カルシファーに繋がっているに違いない。
私はその臭いを、必死で嗅ぎ取り追いかけた。しかし見つけたその存在は、あの男では全くなくて人間の女だった。
だが決して普通の人間の女ではありえなかった。
見つけたその女からは、膨大な魔力が垂れ流されていたのだ。これは只者ではない! こいつは【化け物】だ。
変化した私でさえ、いやきっと彼【カルシファー】でも勝てないと錯覚させられる程の強者。
しかもそれを、この女は隠そうともしていない。私の第六感が、最大限の警鐘を鳴らし続けてた。
私は、その女から発せられる圧倒的な何かに、ただ恐怖を感じその場から逃げた。あの化け物と迂闊に接触する事は憚られた。
――あの女からは、人間独特の体臭などが全くしない。そう、まったくだ。そもそもあの女は、人間では無いのだろう。
得体の知れない何かが、人に上手く化けている。私はそう結論した。
だからこそ、あの女からの『仮面の男』の臭いが際立っていた。人間の匂いが全くしない女から、薄っすらと漂うあの男の嫌な臭い。
あの化け物は、あの男の仲間なのか? いやそれはどうだ。女からのあの男の臭いが希薄すぎる。
単にすれ違ったか。最近になって接触した事があるだけなのか? どちらにしても、やっと見つけた仮面の男、そして彼への手掛かりだ。
『ここで見逃す訳には……いかない!』
私は、慎重に周囲へ聞き込みを重ね、その女は『ユウコ』と言う女冒険者だと分かった。この王都へは、仕事と観光を兼ねて来ているらしい。出身はカカロッティと言う地方都市だ。
あの女の人当たりは良いようで、ユウコと接触した第三者からの評判は良かった。それならば、恐れず本人と接触してみるべきか? などと悩んでいたある日の事だ。
……ユウコが1人で、ダンジョンを制覇したという話しが王都で広まった。ダンジョンから戻ったユウコは、何時の間にかあの恐ろしいまでの魔力の放出も収まっていた。
そして彼女からは、またあの『臭い』が一段と濃くなっていた。間違いない! ユウコは『仮面の男』と、何らかの関わりがあると私は確信した。
そして彼女は、王都での仕事も終え拠点の街へと近々帰るようだった。私は慎重に彼女を追いかけた。
ユウコを追いかけていれば、きっと彼にも会えると信じて。私はもう一度、どうしてもカルシファーに会いたかった。
そしてユウコを追いかけ、この街まで付いて来た。この街でも、彼女は人気者らしく、会話をする相手は始終笑顔に溢れていた。なるほど。これならば少なくとも彼女は悪人ではないのだろう。
今まで私が見てきたユウコと、周りから集めた情報からそう判断した。
宿屋『紅の海豚亭』で、彼女はずっと宿泊しているようだ。直接声を掛けてみよう。そう決心して宿屋へと私は向かう。
その宿の女将に『ユウコさんと話がしたいので、取次ぎをお願い出来ますか?』と説明した所【少々お待ち下さいね?】と言われ私は待たされた。
そして女将は、階段を上がって2階にある彼女の宿泊部屋へと向かった。
『(コンコンッ)ユウコさ~ん? ユウコさんにちょっとお会いしてみたいって人が来ているのだけど? お時間大丈夫かしら~?』
「はーい? 特に心当たりは無いんですが、案内してもいいですよ~」との言葉が、私の耳にも聞こえてきた。
良かった、無事に彼女に会えそうだ。ホッと私は一息つく。そして戻ってきた女将に、2階のユウコの部屋の前へ私は案内された。
……私はついに、彼女《化け物》と面会する。
――さあ、鬼が出るか蛇が出るか……。




