奇妙な仮面の男
『これは妙デスネェ? コノ辺にダンジョンが出来ていた筈なんデスガ……ネェ?』
執事服に身を包み、不気味な仮面を被った長身の男がそこには居た。
――そう、確かにそこにはダンジョンが、ほんの少し前には小規模なダンジョンがあったのだ。
そう、あったのだ。つい先日までは。
事実として、冒険者ユウコが先日ここのダンジョンボスを討伐した事により、数日前にダンジョン崩壊したのだ。それを、この男は知らなかった。
怪しい仮面の男は、ダンジョンが崩壊した辺りをウロウロと歩く。
『出来損ないの気配もありませんネェ。もしや倒されてしまったのデスカネェ……?』
進化させたとは言え、所詮は元はゴブリン種。いくら男が手を加え特殊変異させても。あの程度が限界だったのは確かだ。だがそれでも、充分な戦力になりえる筈だった。
……女神側の邪魔が入ったか? それとも現地の冒険者の仕業か? どちらにしろ想定外だ。
やはり女神側の介入が一番可能性が高い。もしそうであるならば、適当な魔物を変異させても、所詮強さは頭打ちなので簡単に討伐されてしまうだろう。
変異した魔物とて、女神の使徒達には敵うべきもなかった。ましてゴブリン程度では。
それでも地道にコツコツと、男は戦力を増やしてきた中で期待していた1つの手駒だっただけに、こうして失うのは痛手だった。
『出来損ないには過ぎた武器も、与えてやったんだがデスガネェ? コレは大きな誤算と損失デスネェ? イッツミステイーク』
戦力が整い次第、この国の王都に攻め込むべく付近の魔物を変異させておいたのに……と。後1ヶ月も時間があれば王都の陥落も可能だった。
『コノ世界の女神とやらは、中々手強いデスネェ……優秀な手駒が多過ぎマースネェ。バックマウンテーン』
女神側は常に、こちらの後手に回っている筈なのに対応が早い。こちら側も早く増援が欲しい所なのだが。
『ソウイエバ……。ドコかの街で特殊変異させたゴミ虫が、いつの間にか居なくなってイマスネェ? ホワーイ?』
街の人間を特殊変異させていき、この世界に混乱を広げていく作戦も初動で潰されていた。ことごとくが思うように進まない、失意のあまりガックリポーズを取る男だった。
そしてここ以外でも、男が手塩に掛けた変異種の魔物も、次々と討伐されているのだ。
――女神の指示による、大型ダンジョン潰しも進んでいき、この男の手駒はどんどん減らされていったのだ。
あまりにも状況は芳しくない。早急に次の手を打たなければ……。
『それでもワタクシの使命は果たさねばなりませんネェ。今やるべき事をやるだけダケデースネェ』
『ソウイエバ? あのトカゲもそろそろ仕上がるデスカネェ? 中々しぶといデスネェ。グゥレイトッ』
『キット、今頃は良い感じになっている筈ですネェ』
『ココまで粘るとは、呆れた生命力デスネェ? だがもう一押しデースネェ。ワンモアセッ』
『ちょうどいいのも、そう言えばもう1匹イマシタネェ?』
『手駒は多いほうがいいデスガネェ? そいつも普通の魔物よりは、使えるハズデスネェ。今もあそこにイマスカネェ?』
などと呟いた怪しい仮面男だが……。その足元から不思議な魔方陣が現れた瞬間。
一瞬でその場から掻き消えたのだった。




