ささやかな歓迎会
「突然だけど、今日は歓迎会をしようと思う」
俺は集まった全員を見渡してから、おもむろにそう切り出した。そう歓迎会だ。
新しい眷属も増えているし、大切な仲間や家族が増えた。それは俺にとって、何よりも嬉しい事だった。
「今まで、1度もそういった歓迎会はしていなかったからさ」
『ウォ~ン?』(御馳走ですか?)とキラキラした目を向ける魔狼
「そうだね。普段はそうそう作らない私が、今回は手料理を皆に振舞う事にするよ」
『はいはーい! ミーナもてつだうよ~!』と元気な声で少女が発言。
「うんそうだね~。ミーナにも、色々お手伝いして貰おうかなぁ?」と俺も笑顔で返事をする。
『にゃーん!』と魔猫も、楽しみのようで大きく尻尾をユラユラと揺らした。
『チュ~ッ!』興奮して、やたら飛び跳ねる魔鼠のモッチー。
『オレも入れて貰えるなんて感激です!』と少年ルーク君だが、何故かガチ泣きしていて、ちょっと引く。
うん、でも何かいいな。こういうの。ただ準備するだけでも、楽しくて仕方が無いよ。
女将に言って、宿屋の厨房を借りたし、俺の部屋で歓迎会を行う事にした。
身内の歓迎会だし、色々見せられない部分もあるからね。
眷属達の変化する姿や、後は……俺の料理とかもね? おいそれと、他人には見せられない秘密が満載なのだった。
そう、例えば俺の作る料理だ。普段は、この世界のシンプルな味付けを楽しんではいるけれど、ふとした時に前世の味が恋しくなるものだ。
その為に、俺は調味料各種を自作している。
全てが、こちらの世界の素材から作るので、完璧な再現とまではいかないが、今はそれで充分だ。
だけどこの世界で、その特殊な調味料を不用意に広める事は、あまり良くないのではと俺は思っている。
まず製造自体だが、俺以外にはまず出来ない点だ。発酵やら何やらの概念というか色々と。
だから、全て俺が作らなくてはいけない=その分俺の自由時間が無くなる。
この世界の住人達に必要な、全ての調味料を俺が作るなんて御免被りたいのだ。
だけどそれを商売にして、お金を稼ぎたいならまた別かもしれないけれど。だが俺はそうではない。そこまでお金に執着もしていないし、今は必要ともしていない。
だからこそ、気軽に俺が手料理を作るのは避けていたし、甘い物系も作らなかった。
そうなのだ、甘い物は一番ヤバイ。絶対に。以前マーマレードもどきジャムを軽く作ったが、その際の女性達の反応が凄かったし、何よりもその目がヤバすぎた。
美容品と同じぐらいに、甘い物はヤバイ。それが俺の結論だ。
それに美容品は、作り置きとか保存が簡単だけど、食べ物関係になるとそれは厳しくなるし。俺が美容サプリとして開発した、ドライフルーツみたいな物でも、今の世界では簡単には作れない。だから作らない。
――まず、白砂糖が無いのだ。俺は砂糖モドキを精製して、美容サプリは作ったけど、正直あまり大量に作りたくない。スイーツは正直扱いたくない。
でも身内限定だったら、たまになら作っても良いかな? と思う程度だ。
そうそう、眷属の魔猫にはお魚を中心とした『キャットフード』を作ってみたんだよね。
色々な種類の魚の、一番旨味が強い部位を贅沢に使い、俺の特製ソースで仕上げた一品物だ。
勿論残った他の部位も、無駄なく調理して骨まで皿に盛り付けてあげたのだ。
魔猫には俺の『お魚尽くし』料理を、今回はたっぷり味わって貰うぞ(笑)
その後は「可愛がりスペシャル」してやるか。魔猫も喜んでたしな。
そうそう、眷属化したみんなは基本何を食べても平気な体になっている。基本何でも吸収出来るのだ。
なので、犬にはタマネギは食べさせちゃいけない! とかは当然無いので安心だ。だから今回、俺は全力で『味』を追い求めた。
魔鼠には極上チーズなどを用意した。それと市場で買った新鮮な果物、そして甘みの強いイモだ。更にそこで極上チーズ。
途中にチーズを、ちょっと温めてイモと絡めてあげたりもした。チーズフォンデュ? 的なものでお洒落だね。
モッチーは、今まで食べた事の無い様な、夢の御馳走の数々に大興奮だった。
人間(型)の俺達には、普段ちょっと食べられない上質なお肉(牛や豚や鳥)を各種用意した。
俺と魔狼は牛肉をメインに食べ、ミーナとルークは豚と鳥を好んで食べていた。
勿論『魔猫』達にも、肉のお裾分けは忘れないよ。
お肉の調理だが、まずはシンプルに味付けを塩で。厚めに切った大きめの肉を、鉄板で豪快に焼いていく。
お肉が「ジュウジュウ」と音を立てる。焼きあがった、美味しそうなその肉にかぶりつくと、そこからは大量の肉汁が溢れ出した。
――シンプルな、塩だからこその絶妙な味わいだ。肉の旨味が最大限に引き出されている! 口の中に、肉の旨味が波の様にドドドドッと押し寄せてくるんだ。これは……美味い!
「ハフハフッ……う、うま~い!(モグモグッ)ゴックン」これはいくらでも食べられる気がする。
ハッ! これはイカン。今焼いた分が、味見で消えてしまった(笑)
途中から、胡椒モドキも追加して焼いてみた。胡椒の食欲をソソル匂いが、何ともたまらないではないか!
塩だけでも美味いが、胡椒が加わる事で味にアクセントが付くのだ。これも美味いぞ! またモリモリ、夢中で食べてしまう俺。
転生してから、食欲は失ってるけど美味しい物は美味しいのだ! ついつい食べ過ぎてしまった。
お次は特製ソースの出番だ。イメージとしては焼肉のタレ。これは作るのに苦労した。
焼肉のタレは、材料をふんだんに使って仕上げた特製のだ。それは肉の美味しさを、更なる上の次元へと引き上げた。
今までの、シンプルな味付けに飽きたらこれだ。これで更に無限に食べられる!
塩と胡椒と焼肉のタレ。この3種の味付けを、皆に用意してから、肉をどんどん焼いては部屋へと運ぶ。
お肉や野菜を次々と焼き上げる俺。そしてみんなで運ぶ。焼いたお肉や野菜には、各自がお好みで調味料を付けて食べる形式だ。
やはり焼きたてのお肉と、野菜は最高だった……。
味付けの方は、塩味を好んだのは魔狼だった。やはりそこは、動物的な好みなのかな? 素材の味を好むと言うか。
「ホラ! 肉だけじゃなくて野菜もちゃんと食えよ?」ポンッと野菜を置いてあげたりもした。
『ウォ~ン……』(バレちゃいましたか?)
一方で、塩胡椒を選んでいたのは少年ルークだ。胡椒のピリッとした刺激が好みだそうだ。ルーク少年は、大変お行儀良く食べているな。ほほーっ。しかしあれから、随分素行が良くなったもんだね。
チンピラ中年冒険者より、全然いいんだけどね。
そして女の子と俺が選んだのは焼肉のタレ。
やっぱり俺はコレだな。かつてはよく食べ、舌に馴染んだ味。これは間違いなく美味いぞ!
こうなると、断然にお米と一緒に食べたくなる。この世界はパンくらいしかないのが悲しい。
少女ミーナは、肉を口一杯にして食べている姿が微笑ましいな。
「野菜も、タレに絡めれば美味いぞ? お食べなさい」と少女のお皿に、野菜をどんどん追加する俺。
好き嫌いをさせず、何でも食べさせるすっかり母親の気分。むしろ、ちゃんとこれから育てるつもりだ。
スープやパンも用意してある。飲み物で用意したのは、美味しい水と果物ジュースと薬効茶の3種。
俺だけが薬効茶を飲み、魔猫と魔鼠は美味しい水を飲む。女性陣は果物ジュースを好んで飲んでいた。
どうだ? 100%絞りたてのフルーツジュースは美味しいだろう? 俺もオレンジジュースは大好きだ。
この中で、パンだけは一応買ってきた物だったけど、一番味が良くて柔らかい白パンを選んだ。
高いだけあって美味い。白パンも大人気だ。みんなどんどん食べていくので、あっという間にパンが無くなった。
そして、スープは自信の野菜スープ。健康に良くて美味しいからね。
適度な大きさに刻んだ野菜を、煮込んでそこに各種の特製調味料を入れる。
コンソメ野菜スープのようなものを作った。これも当然美味い。野菜も種類を多めにしたので、具の彩りも鮮やかで見た目もバッチリ。野菜の旨味や栄養もたっぷりだ。初めて味わう様な、感動的な味だったらしく全員が夢中でスープを飲んでいた。
すぐに作ったス-プは、飲み尽くされてしまった。
そしてデザート。俺はあまり凝ったデザートは作れない。
だからまずは、粉を混ぜ合わせパンケーキを焼いて、上にはジャムとバターをお好みで乗せるシステムにした。
焼いたパンケーキは、そこにジャムとバターが上に加わった事で、部屋中が暴力的な甘い香りで満たされた。
焼きたてのパンケーキは、とてもフワフワ。そこにジャムとバターをお好みで乗せるのだ。美味しくないわけがない!
……これはやはり、女性陣に大うけした。
甘いものは別腹! とばかりに、パンケーキとジャムとバターの競演を皆が楽しんだ。
ルークと俺は、パンケーキは1枚だけ食べて満足した。ちょっと肉を食べ過ぎたよね。でも肉は最高だった。無限肉だよあれは。
今回は手料理を振舞うと言っても、そこまで上等な物ではなかったかもしれないけれど。
でも皆が、喜んで沢山食べてくれた事が、ただそれだけで嬉しかった。またこうして集まって、みんなで騒ぎたいね。今日はそんな最高の一日だった。
-------------------------------------------------------
リザルト
○スキル:料理Lv3まで上昇




