犬じゃないか? いいえウルフドッグです
『御主人様~大変です! 一大事です! 私の胸が亡くなり、いえ無くなりました! これはもう、ガッポリ慰謝料請求しちゃいますよ?』
(シクシクッ)私の、数少ないチャームポイントで自慢の胸が。見るも無残な事に。シクシク。
目を覚ました少女は、俺から一通り事情を聞いた後に、改めて自分の生まれ変わった姿を見てから、そう言った。オイ待てよ。慰謝料とか聞いてない。
「……それはすまない。ソコは私の未熟な部分でもあるんだよ。どうしても前の姿のままでは救世出来ない」
素直に俺は謝った。だけど本心では、今の方が可愛いのにと考えていた。
考え込んだ俺を見て、自分の事で申し訳なくなったのか、彼女も少し考え始めた。
そしてすぐ顔をパッと上げ、俺に目を向け笑顔でこう言う。
『あ、何か魔獣化ってスキルが、増えているんですが? これって何でしょう?』
「なるほど魔獣化か。よしやってみて!」
(もしかして? モフモフになるの? モッフモフなの? それは良いぞ? とても良い事だ)ディッモールト
俺が許可を出すと、早速アスカは魔獣化を使い姿を変えた。
……。
……やっぱ、なんか、まぁうん。やっぱり犬っぽいけど一応は狼なんだな(笑)
しかしこれは、通称ウルフドッグじゃないか? 非常に凛々しい御姿だ。めっちゃ俺好みだ。
俺はつい大興奮した。めちゃめちゃ狼姿になった彼女を撫で回した。念願のモフモフだった。
魔狼の彼女は、大人しく撫でられている。いいぞこれは凄く良い。
「お前……いいじゃないかコレ。もうお前ずっと、この姿でいろよ。これ命令ね?」
と俺が満面の笑顔で、冗談半分にそう言う。
彼女は『えええ!? そんなぁ……』みたいな顔をして
『ウォ~ン……?』と鳴いた。
魔人狼か。これは良い眷族を手に入れた。
モフモフ要員が増える事は、俺の人生で実に大きな意味があった。それは間違いない事だ。全俺で異議は無い。
このウルフドッグ姿であれば、俺と一緒の生活にも問題はなさそうだ。
魔猫は孤児院で、ミーナと暮らしている。
魔鼠は夜行性な為、俺が構いたい時も不在が多かった。
俺がモフリたいから、という理由で眷属を呼びつけるのは実は気が引けたのだ。(やらないとは言ってない)
だがこの魔狼は、丁度いい存在だ。俺はそう確信した。
元が獣人だっただけに、俺との意思疎通は完璧に近い。キチンとこちらの事情を理解し、自分の役割をすでに分かっているのも素晴らしい。
自分は女としてではなく、モフモフ要員として御主人様に歓迎されているのだと。ちゃんと理解出来ているのだ。
うん。これはいい。完璧正解だよアスカ。これならきっと、キミとは仲良く居られそうだ。
彼女を撫で回し続けた俺は、今までで最高に癒された。今日はもう充分満足だ。
……さてそろそろ帰るか。と思った時、ふと彼女が思い出したように言った。
『ウォオン?』(死んだ仲間の、冒険者プレートを回収お願いできますか?)
おお、それは大切な事だ。俺はすぐに肯くと、周囲に散乱して死んでいた冒険者達の持ち物や、その冒険者プレートを全て回収。
死んだ人の冒険者証は、ギルドに渡せばいい訳か。彼女の荷物も探して回収、俺達は急いでこのダンジョンから出る事にした。
……俺の足元を、アスカは【魔狼】状態のまま、四足でヒタヒタッと歩いている。
モッチーは気合を入れて、PTの先頭を全力でダッシュだ。
『索敵は某に任せろ!』って感じだ。※ イメージです。
『チュッチュー!』ダダーッ。
『ヒタヒタッ』チラチラ(時々俺を見上げるアスカ)
『チュッチューチュー!』ドドドーッ。
『ヒタヒタヒタ』チラッ
……。
(お前ら、俺を全力で萌え死にさせる気だな? そうなんだな?)
前世であれば、きっと今俺は鼻血を出していただろう。
凄くいいぞ! もういっそ【鼻血を出し過ぎて、出血死上等】だぞ!
そんなこんなで、無事ダンジョンからは抜け出した。
そして。もうここに用事は何もないだろう。モッチーを袋に入れ装備。シャキーン!
そして『魔狼』のアスカとは、王都までの帰り道を競争しながら楽しく帰ったのだった。
「ホラホラ~先に行っちゃうよ~(笑)付いて来れるかな~?」高速擬態移動で、手加減しつつダッシュする俺。
『ウォウン!? ……ハッ、ハッ』
一生懸命付いて行こうと『ダダッ』と全力ダッシュの魔狼。
(あー、これだよコレ。俺はこういうのを求めていた)
えー、大変長らくお待たせしておりました。
「俺とペットと異世界スローライフ」
やっと。やっと始まりました。本当に有難う御座いました。
俺達……幸せになります。見守っていて下さい!
--------------------『完』-----------------------------
いや、まだだ、まだ終わらんよ!
……そして無事、王都へと俺達は帰還したのだ。
俺の部屋で、一旦落ち着いてから、彼女と今後の話をする事にした。




