殺し屋レッドキャップ。俺は、お前を許さない
その長く薄気味悪い髪、燃えるような赤い眼。
突き出た歯に、鋭い鉤爪を具えた、醜悪で背の低い老人のような存在。
――ダンジョンボスの、レッドキャップ《殺し屋》だ。
赤い帽子と、鉄製の長靴を身に着けて、だがしかしその禍々しい斧は、何故か地面に置かれていた。
んんん? 少し様子がおかしいぞ……。食事でもしているのか? と俺は思った。
そしてこれは、絶好の先制攻撃をするチャンスだと思った。でもまあ、それは面白くないので止めた。
そして注意深く目を凝らし、それが何なのかやっと俺は理解した。
――レッドキャップはお楽しみ中だったのだ!
無抵抗にも犯され続ける獣人女性、すでに四肢はあらぬ方向に曲がり、今も生きているか怪しいくらいの酷い状態。
【女性の命】とも言える、その顔も酷く腫れ上がっている。
そして、すでに片方の目はすでに潰れ、完全に失明しているようだった。もうその獣人女性の全身は、ボロボロの状態だった。
……もしかしたら、あの獣人女性はもう死んでいるのかもしれない。死ぬまであんなに暴行され続け、死んでも犯され続けている女性。あまりにも酷過ぎる現実だった。
――俺達にとって、初めてのダンジョン攻略。ダンジョンボスという強敵の存在に、どこか気分は高揚していたんだ。
もっと正直に言えば、俺は軽い腕試し気分だった。
そして実際、ボスの強さを目の前で感じても、俺は負けないだろうという確信があった。
だがしかし、その考えは全くもって間違いだった。
――行方不明の、冒険者が4人いる事を俺は事前に知っていた筈なのに。
その冒険者が今どこにいるのか。
どうして今まで連絡が無いのか。
この状況を、こうなっている可能性を、俺は失念していたのだ。
それはあまりにも、無関心が過ぎた。俺はただ、自分の強さを、このボスで試そうとしていた単なる子供だった。
ダンジョンボスと言う、今までで最強の敵の強さに合わせ、自分という存在の【性能】を確認したかっただけなのだ。
その為の準備でも、実際に必要の無い休憩も挟んだ。
ダンジョンボス戦という、ある意味でイベントを楽しみにしてしまった。レアドロップや、討伐報酬の事も考えてニヤニヤしていた。
俺は何故、行方不明の冒険者達の捜索や救出を、最優先で今まで考えなかったのか! こんなにも俺は愚かで、薄情な人間だったのか?
そのせいで、周囲にある冒険者の死体と、この獣人女性が今も苦しむ時間が、増えたのかもしれないのに!
もしかしたら、俺がモタモタしていたせいで、この女性達は死んだのかもしれない。
この獣人女性以外には、他に生きている冒険者の姿は無く、無残な屍だけが転がっているので、それらは恐らくどんなに急いでも、助けられなかったのだろう。
……しかしとんだ失態だ! 俺は馬鹿野郎だ!
さっさとこんな奴、殺すべきだったんだ。
俺は静かに、そして激怒した。その怒りの半分以上は、自分自身に向けたものだった。
俺は自分で自分が許せないし、コイツはそれ以上に絶対許さない!
――俺の感情が一気に爆発し、今まで無意識に抑えていた何かが外れた。
レッドキャップ! 俺はもうお前に手加減は出来ない。お前の3秒後の未来は、ただの肉塊に決定した。




