王都
王都は、何事も無く予定通りに到着した。
本当に、至れり尽くせりの【王都商人ギルド】対応のおかげだな。
俺の王都への出入りや、その滞在許可証を始めた泊まる宿、そして美容品の製造の為の専用の作業場所、さらに王都商人ギルドでの、VIP室のフリーパス権等。
俺はこの王都で、美用品各種の製造に必要な素材を調達して製造をするだけだ。
ただ、それだけで済む環境。VIP待遇とは素晴らしいものだ。
しかもすでにだ、この王都へ来る前に依頼分の半分の製造は実は終わっていたのだ。
王都では、1ヶ月くらいの滞在予定だけれど、実は後3日間程度だけを製造に打ち込めば、今回依頼は終わりだ。
(丸々3週間以上の自由! 俺は自由だー!)
まぁ勿論、俺が単に遊びまわる姿だけを、お仕事の関係者に見せるのは面倒な事になりかねない。
だから、週に4日くらいは作業場へ行き、そこで製造しているフリで、こっそり抜け出し観光などに洒落込むつもりだ。
美容品という、ある意味【秘薬のレシピ】は非常に価値が高いのだ。そして当然だが、レシピ秘匿の為に美容品の製造は俺1人で行う事になっている。
そう、仕事中の他人の目は、基本的には存在しないのだ。そう、基本的にはね。
万が一、レシピを知られても実は他の人ではどうにもならない理由もある。美容品製造の為の、【鍵】となる希少な素材が、1つだけあるからだ。
多分、それ抜きでコピー品を製造しても、実際の効果は殆ど期待出来ないだろう。
……っていう内情もある。
いくら他人が真似して作成しても、劣化品でしかない。
それが分かってるからこそ、俺も余計なストレスもなく居られる。
ただその例外もあった。
「コレ、どうしようかな~」
俺は絶対に、これは非売品にすると決めた、とある物を取り出し部屋で一人それらを眺める。
薬効シャンプー類を作成中、スキルによる大成功で偶然【育毛剤】が完成した。ヤバくね? これ。
更には、人の寿命を少しだけ延ばす効果のある【薬効養命水】なんて言うのも出来てしまった。
――どれもが、美容品を製造する過程で作れた産物だ。
しかもだ、俺の種族特性で【学習】があるのだが、どうやら一度それが製造成功したら、後はずっと何時でも作れるという能力があった。学習効果ヤバイな。
そして、完成した中でもこの2つはマジでヤバイ。俺はそう判断している。
ふと、あの街の商人ギルドマスターを思い出す。
俺は命ある限り、ひたすら育毛剤を作る事になりそうな気がした。奴等は育毛剤を求め、地平の彼方まで。彼等が追いかけてくる。
死後も、地獄までも追ってきそうだよ。助けてママン!
その気持ちも、わからなくはないけどさ。俺も元は男だし。
(ブルルッ)凄く恐ろしい! ひたすら育毛剤製造オンライン生活とか。
そんなスローライフは、断じて嫌だー!
それに養命水にしても同じだ。人の寿命を、少しとは言え延ばすんだぜ。むしろコッチのほうが、俺が死ぬ匂いがプンプンするぜ。
【永遠の命】を求めるというのは、いつの世の権力者達も一緒で、扱うのはとても危険なのだ。
きっと俺は監禁され、あらゆる事で拷問され、脅され、ひたすらソレを作り続ける。そんな未来も容易に想像できる。
……マジヤバすぎ。
このどちらか1つでも、その存在を他人に知られたら、きっと俺の望むスローライフは、永遠に来なくなるだろう。
「やっぱ死蔵確定です」
俺は部屋で、独り呟き溜息をついた。
え? 魔鼠? そう言えば、モッチーはどうした?
ああ、そう言えば、モッチーならこの辺を散歩してくるって言ってたなぁ。
おやつ代わりに、また美容サプリを欲しがったから、1個あげたら、何か凄く気合入れて部屋から飛び出して行ったぞ?
やっぱ初めての王都だしな? モッチーも少し浮かれちゃったのかな~?
それにモッチーとは、意識の共有で連絡は取れるんだ。
モッチーにも、今回はのんびり羽を伸ばして貰おう。最低限の用事だけは頼んではいるけどね。
頼んだ事は別に、【今すぐどうこう】って話しでも無い。まだ1ヶ月くらい期限はあるんだぜ。
――そんな風に、この時の俺は軽く考えていた。




