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贖罪のルーク

「お前は一体、何故こんな真似をしたんだ?」


凡その理由なら、だいたいは分かってはいる。


それでも俺は、直接この男に聞きたかったんだ。

だからこそ、今までじっと大人しくしていた。


(擬態を解除するだけで、こんな縄なんか何時でも抜け出せるんだ)


 この男は、少女《に擬態した俺》を廃屋に放置してから、急ぐように廃屋から出ようとしていた。……タイミング的にはここだ! と瞬時に俺は擬態を解除し、完全に自由の身となった俺は《普段のユウコの姿》になった後で、この男に言葉を投げかけたのだった。


 背後から、突然俺に声を掛けられるとは、流石に予想していなかったのだろう。


 男はビクリ! と体を大きく震わせた後、慌ててこちらを振り返った。


『て、テメェ……! ユウコ! どうして、どうしてここにテメェが居やがるッ!? おい嘘だろ!? さっきのガキはどこにいった? (ドクンッ)』


 男は驚愕の表情を浮べながらも、素早く身構え大声でそう捲くし立ててきた。


「子供? はもうここにはいないよ? お前は、()()()()()()()()()? 一応聞いてやる。だから早く話せ」


 俺は特に身構える事もなく、無表情のままごく自然体でそこに立って居る。


――この男の話を、本心を俺は聞きたいんだ。


『ぜ、全部、ぜんぶテメェのせいで。お、俺の人生は終わっちまったんだ! (ドクン)』


 ああ……。確かにそうなんだろうな。お前の中では。


「確かに私は、あの時ギルドで周囲の目も考慮せず、必要以上にお前に恥をかかせた事になる。それは否定しない、確かに私の失態だ」


……そうなのだ。あの時俺は、必要以上にこの男に恥をかかせるという、大きなミスを犯したのだ。

 

 他にも対処の仕方は無数にあった筈なのだ。……だが、俺はミスをした。

 深く考えず、適当にこの男を扱ってしまった。


 だから当然、この男には俺へ直接文句を言う権利くらいはある。俺はそう思っていた。


「このような犯行にまで及ぶまで、私はお前を追い込んでしまったと言うのか?」


……そこまでの事をしたつもりは、俺には正直無かった。


『そうだっ! 全部テメェのせいだ。俺は、俺はもうこの街に住む場所も、金も、ぜんぶ。全部なくなっちまったんだッ! テメェのせいでな! (ドクドクンッ)』


……この男の居場所を、大切な物を全てを奪ってしまった。俺が壊してしまったと。


 まさか……。ここまで言われるとは思わなかった。


「……わかった。本気で謝罪する。本当にすまなかった。……もしお前が、この街に自分の居場所が無く、他の街へ行き新たに居場所を探すと言うなら、また普通の生活を始められるまでの間、その生活費なども含めた慰謝料を可能な限り私が支払う。勿論この街で頑張るならば、その面倒は私が見よう。約束する。……どうかそれで、今回の件は手打ちにしてくれないか? 今回の件も無かった事にする」


 俺は、本気でそう考えて男に言葉を投げ掛けた。


『う、ウルセェええええェ! い、今更、謝られたって、お、俺には、も、もうなにも、もう何も残ってないんだよォおおおぉ! (ドクンドクンッ!)』


「……それでもすまなかった。本当に反省している。どうか私を許してくれないか」


 深く頭を下げ、誠心誠意を込めて心から俺は謝った。


『クッ! な、何でそんな……。お前……。お、俺は……。俺はぁあああああぁ(ドクドクドクンッ!)』


 男は俺を睨みつけ、苦しそうに胸を抑え絶叫を始めた。


 そして……。


『グッ! 胸が……凄く痛ぇ……。お、オレは、お前を……ただ、逆恨み、してた……ちいせェガキなんか誘拐までして……。だ、だけど、そん、なオレに……。テメェは……グッ……な、情けなんか、かけやがって……。巫山戯るなよッテメェ!』


 胸を押さえ蹲り、苦しそうにしながらも、男はそう言葉を搾り出した。


「突然どうした? お前……どこか具合が悪いのか?」


 俺は心配になり、近づきながらこの男をヘルプで参照した。


【ピピッ】


 男の状態が『魂の崩壊(イレギュラー化)』と出ている。


 イレギュラー化だと? 魂が崩壊って一体何だ?

 この世界では、魂は崩壊せず輪廻転生するんじゃないのか?


 崩壊って事は、魂が無くなるって事なのか? 一体どうして。

 この男に何があったんだ!?


『グワァ……! カラだガッ、千切レ飛びソうダッ! すげェイテェよおォ~』


 そして、俺の見ている前で段々と男の体が変形しだした。


「おい! お前しっかりしろ! 今から、お前に状態異常の回復魔法をかける。抵抗を《レジスト》するなよ?」


……しかし俺の魔法の効果は、男に一切現れなかった。

 回復魔法は確かに発動しているのにだ!


 これがイレギュラー化? もしや手遅れなのか? これは一体何なんだ?


 俺は、ありったけの回復魔法と回復薬を男に試した。

 だが効果は一向に現れない。


 一か八かで、オレの体液も《指先からドバーッと》男へ振りかけ、無理矢理に口からも飲ませた。


……だが思ったようには効果は現れない。


 もうダメなのか……? 手を尽くして呆然とする俺。


『ゼェ……。ハァ……。こ、小娘……ユウコだったか。つまらねェ逆恨みして……すまな……かったな』(バタッ)


――それが、この男の人として最後の言葉だった。


 そして男の肉体は、その原型を留めない程に変化していく。


……なんだよ。最初は、男を少し懲らしめてやろうって。

 俺はただ、そう思ってただけなのに……。


 この男を監視している時、この男は自分が監視している少女ミーナに対しても『こんな夜中に、ガキが1人でウロツクなんて危ないぞ。俺以外の、悪い奴に何かされたらどうする』などと心配して、しきりにブツブツ呟いていたのを俺は聞いていたんだ。


……結局、少女を誘拐しても全く乱暴しないし、縄の縛りも実は全然甘いし、実際ドコも苦しくなかったのだ。


 何だかんだ、甘かった男だった。きっと性根は優しい男なのだろう。


 そして、実際に俺にもあれだけの敵意を向けておいて、いざとなればコレかよ……。


 この世界の住人ってのは、みんなこうなのか? おめでてえ奴等ばかりだなチクショウ!


 ほんと……たまらない。俺は、こんな奴でも嫌いになれそうもない。


 本当に俺は、この男を助けられないのか? 本当に手は尽くしたか? やるだけやったのか?


 だが俺の持つ、最高の回復薬も惜しみなく使った。

 回復魔法も何度も何度も掛けた。

 最後の手段の《俺の体液》も試した。


――それでもダメだった。


 もう無理なのか?

 この男を絶対に助けられないのか?

 この男は、最後は俺に謝罪し、自分の罪を悔い改めたのに。

 この男は、こんな形で死ななければいけない程の悪行も、まだ全然行っていない筈だ。


 しかも、ただ肉体が死ぬのではなく【魂の崩壊】だ。

 完全に男は消滅するのだ。つまり……無だ。


……誰か教えてくれ。俺は、どうしたらいい? 俺に後何が出来る?


 女神様、もし見ているならこの男を救ってくれないか。


……この男を、助けて欲しいんだ。

 

 とにかく助けて……。いや、違うな。


――俺は、この男を助けたい。絶対にだ!


 この男を()()()()


 心の中から、本気で俺がそれを強く望んだその瞬間。


 俺の中から、とても熱い何かが溢れ出した!

 そしてそれは、瀕死の男の体へと大量に注ぎ込まれていく。


――そして強烈な光が、突然俺達の周囲を覆った。


 その光が収まる頃、俺の目の前に【中年男の成れの果ての残骸】は無くなっていた。


 15歳くらいの、少年と呼べるくらいの男の子が、ただ安らかに横たわる姿があった。


 どことなく、あの中年の男の面影のある男の子だった。


 同時に、突然頭の中に鳴り響くシステムコール。


『【個体名ユウコ】のオリジナルスキル:救世Lv1が発現しました』


 頭の中で、棒読みヘルプさんの音声が鳴り響いた。

 オリジナルスキル? 救世……?


 それで救えたのか? 俺は、あの男を。ハハッそうか。


 よくわからないが、あの男が居た場所には、男の面影を残した男の子が突然現れた。


「……つまり、そう言うことなのか」


 俺が男の【消滅していく肉体と魂を救済し】復活させたのだろうか?


 何故、少年の姿になってしまったのはよくわからない。

 多分それは、俺の力不足なのだろうか?


――恐らく、きっとイレギュラー化により、男の魂は削り取られ段々消滅していったんだ。


 その、ギリギリのところで俺が、スキルによって救済し残っていた男の肉体と魂の分だけ元に戻った。


 とまあ、そう言うことなのだろうか?


 この廃屋の周囲が、何だか少し騒がしくなってきた。

 

……流石に、このままここに居たらマズイな。


 とりあえずは、俺の部屋に一旦戻ろう。

 まだ目覚めぬ少年を抱え、人目を避けながら俺は自分の住む宿屋へと戻った。


「おいキミ! 少年! 大丈夫か? 何か覚えているか? ……私の事はわかるか?」


 男の子を自分のベットに寝かせ、自然と目を覚ますのを待ってからそう俺は声を掛けた。


『こ、ここは……? お、俺は……一体? そりゃ覚えてはいるけど……。あ、あの、ユウコ……さん、本当にご迷惑をお掛けしました』


 この少年はどうやら、本当に元は中年男の《ルーク》で間違いは無さそうだ。


 こうなってしまったら、もうどうしようもない。事情は全て話すしかないな。


 ルークに起こった事。

 そして俺の事も、ある程度は説明が必要だ。


『そう、だった、んですか……。俺の魂が変異して、消滅しそうに……。それを、ユウコさんが助けてくれた。そう言う事だったですか』


 俺は黙って肯いた。


『普通ならとても……信じられない話です。ですが、実際オレはこうして少年の姿になってるし、普通じゃ考えられない事が実際起こっている。だとしたらもう、信じるしかありません』


……そうだよな。俺もそう思う。事実は小説より奇なりだ。


 さて今後どうすべきかな? 俺は頭を悩ませた。

 説明って言っても、一体ドコまで話せばいい?


 とりあえず、俺の正体は【女神様のパシリ】くらいでいいかな?


――そして突然鳴り響く、今となってはもうお馴染みになったシステムコール音。


《ユニーク称号:女神のパシリ(笑)を獲得しました》


……おい女神、ちょっと待て。

 

 絶対に、今その称号作ったよな? (笑)ってなに?


 女神とは、今度じっくり話し合う必要がありますね?


「覚悟しておけよ! 駄女神めェ……」


 


 俺の異世界生活は、まだ始まったばかりだった。


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リザルト


テッテレー♪


○「魂の救済」行動による善行:カルマ値+500+5


一定カルマ値を達成。魂の神格が1ランク上昇。それにより各種「恩恵」も強化されました。


魂の神格が上昇し、オリジナルスキル救世が発現しました。


○オリジナルスキル:救世Lv1 発現


○称号「救世主」獲得:カルマ値+500+5


○魔法:神聖魔法Lv3まで上昇


○スキル:応急手当Lv1 獲得


○称号「女神のパシリ(笑)」:カルマ値+5963獲得

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