少女ミーナの誘拐
『クククッ! やっとおいでなすった。待ちわびたぜぇ?』
この男が、夜中に孤児院を張り込み始めてから、数日が経っていた。
顔を隠せるように、男は首元からスカーフのような布を巻いてあり、全身黒尽くめの服装だ。
目隠しと猿轡、縄も子供を詰めて運ぶ麻袋も、全部用意した。
準備は万端。いつでもイケる! そしてついに、その標的がノコノコと現れたのだ。
その孤児院から、そっと抜け出したのは、夜の街へと歩き出す少女ミーナ。
すぐさま男は、周囲に慎重に気を配りながらも、その少女を追いかけた。
だが少女ミーナは、男が予測できないような行動をよく取る。あっちコッチ、ふらふらと歩く。時に走り出す。
小さな子供しか、通れないような場所も通るからさあ大変だ。追跡するだけでも、男は中々苦労する。
そしてついに、念願の機会は訪れた!
そこは人通りの少ない、いや全く無い道で、そこをゆっくりと少女だけが歩いている。
『ククッ! 俺にも運が廻ってきた。こりゃあいつでも攫えるぜェ』
男は犯行の成功を確信した。そしてついにミーナの誘拐を開始したのだった。
男の口元は既に布で隠されていた。パッと見では、もうこの男が誰かもわかるまい。
そして男の全身は、周囲の闇へと溶け込んでいる。更にこの男は、慎重に大胆に少女へと後ろから迫った!
そして、力ずくで押し倒し縄で縛り、猿轡をかけ目隠しをして少女を袋に詰めて運ぶ。
――不思議と、この少女からの抵抗は少なかった。
(しかしやけに体温冷たい子供だ)
きっと、突然の恐怖で頭がロクに働かず、体も硬直してしまって動かず、抵抗も出来ないのだろう。男はそう思った。まだ5歳くらいの子供なのだ。無理もない。
そして男が少女を運んだ先は、街外れの周囲に明かりも人気も全く無い、ボロボロな廃屋だった。
そして次は、ユウコの番。
あの憎い憎い小娘に、男が書いた手紙が渡るようにして、そして大金を用意させて呼び出す。
……いよいよだぜぇ? ククッ!
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そしてまた、時は少し遡る。
「そうか、あいつはミーナに狙いをつけたみたいだな」
魔猫と魔鼠からの報告だけではなく、何度も【意識共有】をする事で、俺自身も男を直接監視し結論を下した。
「俺への恨みを、本人じゃなくて幼い子に向けるとか。呆れたものだ。本当に笑えない」
ついにその男が、全身黒尽くめの服装に身を包み、縄などの道具も用意したのを確認したのだ。
あいつの目的は、恐らく少女ミーナの誘拐。そうなると目的は金か? もしくは俺への報復。もしくは両方か。
少女を人質に、更に俺を乱暴して殺すとか? ハハッ
――しかし、ミーナを危険な目に遭わせる訳にはいかない。
これは俺が起こした問題だ。原因は全て俺にある。だから俺が対処するべきだ。
もし必要なら、あの男の処分【殺人】も辞さない覚悟で望むしかない! 少女にまで悪意を向けるその男は、もう人として引き返せない所まで、足を踏み入れしまった。
そして俺は、こっそりと周囲の隙を見て孤児院に侵入し、ミーナが寝ている間に彼女の【型】を取り、ミーナの姿へと擬態が可能になったのを確認した。
――これでいつでも準備はOK。
あの男の様子も、眷属の視界を共有しながら確認している。後は俺が、このミーナの姿で孤児院から抜け出し、人気の無い夜の街へと歩き出すだけ。
そして……。
「よし、食いついた!」
男が中々襲ってこないので、人気の全くない道を歩いてやっているんだが。
(ホラ! さっさと来いよ! 男は度胸だろうが!)
これでもかと、男に向けて隙を晒したおかげで、ようやく男は動き出した。
俺には実際、この男に対して思うところはあるんだ。今は大人しく、少女ミーナとして誘拐されてやろうと決めた。
だがもし、乱暴されるようなら、全力で抵抗するけど!
そして、この男によって廃屋へと運び込まれる事になった。
――そろそろ、断罪の時間か? さあ、楽しいお仕置きタイムの始まりだ!
覚悟はいいか? 俺はいつでも良いぜ!




